単なる経験則であるが、会社の人数が百名、二百名を超えてくると、どんな会社にも一定の割合で「無能」とみなされている人がいることに気づく。
さらに「無能だ」とみなされている原因も、ほぼ共通している。すなわち、
・仕事の質が低い
・プライドが高い
の2点である。
例えばある営業会社において「無能である」とみなされていた人物は、営業上のルール、すなわち与信管理の書類提出を怠ったり、回収業務に漏れがあったりと、わかり易い場所で仕事の抜け漏れが生じていた。
これだけであれば
「次回は気をつけるように」という叱責を受け、「はい」で済んでしまうのだが、彼はそうしなかった。
何が致命的かと言えば、彼は自分がミスをしたことについて、言い訳や嘘を重ねてしまうのだ。
「お客さんが必要な書類をなかなか提出してくれなくて……」
「督促はしているのですが……」
と、やってもいないことを言い、あるいは長い弁解をしてしまう。入社1年も経たずに「アイツはダメだ」というレッテルが、彼には貼られた。
一方、別のweb製作会社においても一人の社員が上司先輩を困らせていた。
「彼、こっちがお願いしたことはきちんとやらないのに、プライドだけは高いんですよ。」と、上司は言う。
具体的に話を聴くと、上司が依頼したサイトマップやテスト項目の作成など、地味な割にはきっちりとやらなければならない仕事を任せると、たいていの場合大きなミスや漏れがあり、上司がそれを指摘すると「これくらいでいいと思っていました」言い訳を始める。
一方で、「早くディレクションの仕事や、提案の仕事をやらせてくださいよ」と、彼は上司に言ってくる。
「基本的な仕事ができないのに、もっと重要な仕事が任せられるわけないだろう」と上司が指摘すると、彼は「はい」と返事はするのだが、どうも話を聴いていないようであり、また同じようなミスを繰り返す。
■
仕事の質が低く、プライドが高い「困った」社員の話は、枚挙に暇がない。
当然、こう言った「無能」とみなされている社員への対処は、さぞかし冷たいものだろう……と思うかもしれないが、意外なことに殆どの会社で上司や先輩は、「なんとかこの人に変わって欲しい」と願っている。
「採用してしまった以上、なんとかしたいとは思いますが、正直、彼に結構な時間がかかるんです。そのかけている時間が勿体無いです」
と、ある上司は言う。
「その時間を、他の有能な人物にかけることができれば、もっと成果をあげることができるんですが……」
と、彼は苦笑いした。
上司たちの困惑の本質的な部分は
「技術的なことは教えられるが、プライドが高くて人の言うことを聞かないのだけは、直しようがない」
という点にある。
言い方を工夫したり、彼らが一定の成果を上げることができるように標準化したルールなどを設けるが、結局のところ本人たちの態度が変わらなければ、効果も限定される。
では果たして、彼らに対してどのように接するべきなのだろうか。
実は、彼らを変えることができた、という会社の殆どは「厳しく、冷たく」という方針を貫いている。
ある会社では人事の方針として、はっきりと今のままでは見込みが無いことを伝え、一定の成果をあげていた。
具体的には、
「現在の仕事の品質では、うちに何十年いても成果は出ないでしょう。態度を改めるか、最低の給与でズルズルと行くか。決めるのはあなたです。」
と本人に告げる。
また、別の会社の方針では、とことん簡単な仕事しかやらせないという。
「まあ、要するに雑用として使います。ただ仕事の質が信用出来ないので、使えるのは単純な作業だけですけど。もちろん残業もさせません。」と、マネジャーはいう。
「別に、仕事ができなきゃいけない、という法はないですよ。できない人はどうしたってできないんです。別にこちらも期待しなければ摩擦は起きない。下手に期待するからダメなんですよ。」
と、彼はドライだ。
「彼らから不満は聞こえてきませんか?」
「もちろんありますよ。その場合はまたチャレンジさせます。変わらなきゃもとに戻しますし、変わってくれればいつでも引き上げます。」
「なるほど」
「結局、彼らは一度も冷たくされたことがないんですよ。おそらく今までは誰かが常に助けてくれたんでしょう。甘ったれてるんです。そう言う人をこちらから助けちゃダメなんですよ。だから私は絶対に甘やかさない、とことん冷たくして、チャレンジしたいという人だけ向き合います。」
今は、優しい上司が増えているという。
だが彼らの「甘やかしたり、助けたりしちゃダメなんですよ。」という言葉は、重く響いた。
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