web上で、こんな記事がシェアされていた。
カンファレンスに参加したいという技術者に会社が許可を出さないので、技術者が実際に転職しようとしている、という話だ。
カンファレンス参加費(8,000円)を払わないと優秀なエンジニアを失う可能性があるという話
転職をしようとしている彼がどのような方なのか全く知らないので、以下は全くの当て推量だが、これを見て「知識労働者」の思考の様式の一端を垣間見た気がした。
一体、彼は会社の何に不満なのだろう。
もちろんたった8000円を惜しんでいるわけではない。彼は自腹でも参加費を出してカンファレンスに行っただろう。そうではなく、おそらく、やりたかったのは、会社を「試す」ことだ。
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有能な知識労働者は、常に会社が自分のことを正当に評価しているか、試そうとする。例えば、以下のようなシーンでは常に会社を試す。
・給与の交渉
・セミナーへの参加許可
・図書の購入
・有給休暇の申請
こういったことを通じて、会社が、どれだけ人に対しての投資を躊躇しないか、ということをよく見ている。もちろんこれは、会社に自分が貢献している、という自負があればこその行動だ。
会社はこれに対して、3通りの反応を示す。
・全員に認める。
・優秀な人物だけに認める。
・全員に認めない。
そして、人事が難しいのは、この選択だ。
普通の会社、クラシカルな日本の会社がやりがちなのは、
・全員に認めない
である。カネは払わない、自腹で行け、自己研鑽が基本、というわけだ。
これは平等を重んじ、無駄なコストをかけることを嫌う会社の価値観にもよるが、旧来の装置産業、労働集約的な産業では人に投資をするよりも、機械や設備に投資をしたほうがリターンが大きい、という判断があるからだ。
だが、すこしお金に余裕のある会社は、
・全員に認める。
を採択する。
これも悪くない。だがこの制度は「優秀な人」ほど、不満を持ちやすい。なぜなら、「差」がないからだ。
人と人の差がつかない人事制度は、本質的には全く機能しない。パフォーマンスの高い人が求めるのは、報酬の金額そのものではなく、「アイツより待遇が良いか悪いか」という差だからだ。
実際、人事制度が演出すべきは、「格差」だ。
したがって、表立って言う人は少ないが、有能な人物の思考の様式は多くの場合、真ん中の
・優秀な人物だけに認める
である。
そしてこれこそ、知識集約的な産業において、競争力のある会社が目指している姿だ。
例えば、Googleは「不公平であること」を良しとする。*1
大半の企業は見当違いの「公平」を目指し、最もパフォーマンスの高い社員や、最も可能性のある社員がやめたくなるような報酬制度を設計している。
「報酬は不公平に」という原則はもっとも重要だが、これまでの慣習を否定しなければならず、最初は戸惑いを感じるかもしれない。(中略)
公平な報酬とは、報酬がその人の貢献と釣り合っているということだ。グーグルのアラン・ユースタス上級副社長に言わせれば、一流のエンジニアは平均的なエンジニアの300倍の価値がある。
ビル・ゲイツは更に過激で、「優秀な旋盤工の賃金は平均的な旋盤工の数倍だが、優秀なソフトウェア・プログラマーは平均的なプログラマーの1万倍の価値がある」と言っている。
知識集約的な産業、会社においては、報酬体系は、極めて不公平に設計されていてしかるべきだ、と有能な人は考えている。
ここを履き違えている会社に、極めて有能な知識労働者がとどまることはない。
本質的に、知識集約産業において人の出す成果は「正規分布」ではなく、完全な「べき分布」となるからだ。つまり、上位数%が出すパフォーマンスが極端に高い分布となる。
だから、知識労働者は「悪平等」をには徹底的に抵抗しようとする。だから、事あるごとに会社を試す。
先に紹介したGoogleに於いても同じだ。
「生産力の10%を最上位の従業員がにない、生産力の26%を上位5%が担う。」言い換えれば、上位1%の従業員の生産量は平均の10倍、上位5%の従業員は平均の4倍にのぼる。
(中略)
最も優秀な社員一人を何人となら交換してもいいか。5人以上なら、最も優秀な社員の報酬が少なすぎるだろう。10人以上なら、ほぼ間違いなく報酬が少なすぎる。
グーグルでは、同じ業務を担当する2人の社員が会社にもたらす影響に100倍の差があれば、報酬も100倍になる場合が実際にある。
もちろん、テクノロジーがあまり意味をなさず、ひとりひとりの差がつきにくい、労働集約的な仕事においてはこの限りではない。しかし、逆にこれくらいの差がついても「当然」なのが、知識労働者の世界なのである。
無能を100人集めても、1人の有能な人間には全くかなわない、ということが普通に存在する世界で、人事、報酬制度はどうあるべきか。
この世界では好むと、好まざるとにかかわらず、ハイパフォーマーを惹きつけなければ企業が競争力を保てない。
もちろん、それが人類全体に幸福をもたらすのかは別の話だが、これから我々が直面するのは、そういう時代だ。
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