こんにちは。Relicの北嶋です。
今回は「事業アイデアの社内公募」についてです。
(写真は弊社CCOの黒木です)
実は社内からの提案がアイデアがスタートのきっかけだった、という世界的事業は数多くあります。有名所ではAmazonのAWSや、GoogleのGmailなど、数え上げればキリがありません。
こういった成功事例を見て、経営陣が「新しい事業について、社内公募制度をやろう!」と言い出すことが多々あるのではないかと思います。
特に、会社が大きくなってくると
・経営陣が現場から遠ざかっており、新しい事業アイデアが出にくい
・ボトムアップ型組織への移行を果たしたい
・若手にチャンスを与え、抜擢するきっかけとしたい
などの理由から、社内公募制度を多くの企業が採用します。
実際、社員の育成効果は大きく、Googleのあるチームは公募制を「義務」として、社員の教育効果を狙っています。
グーグルの検索を担当するチームの1つはこうした問題を防ぐため、「デモ・デイズ」というイベントを開催している。発想はとてもシンプルだ。一週間ひたすら新しいアイデアのプロトタイプ作りに取り組み、最終日にデモをするのだ。デモ・デイズの一週間は、エンジニアたちは会議や新プロダクト発表の予定を一切入れない。例外は認めない。そうすることでデモ・デイズの開催が可能になるだけでなく、全員に本気で取り組ませる効果がある。(中略)
プロジェクトから目をみはるようなイノベーションが生まれることはめったにないが、携わったスマート・クリエイティブは必ず以前より優秀になる。*1
彼らの言うとおり、ヘタに社員研修をやるよりもよほど費用対効果が高いので、「社内公募制」は様々な意味でおすすめです。
しかし、「社内公募」を上手く運用するのは、案外難しいものです。
実際、どの方にも一度くらいは「社内公募をしたけど、全く盛り上がっていなかった」という記憶があるのではないでしょうか。
では、一体なぜ社内公募が盛り上がらないのでしょうか。
それはほとんどの場合、「社内公募に関する経営・管理者層と現場の意識のズレ」が原因です。そして、私の観察では、このズレが
「そもそも良いアイデアが集まらない」
「公募制度が単発で終わってしまい、長続きしない」
などの公募制の形骸化を生みます。
では、その「意識のズレ」はどのような所にあるのでしょう。
これまでに公募を実施したことがある各企業の経営・管理者層と、現場の従業員にヒアリングを重ねた結果、以下の4つが浮かび上がりました。
ズレ1:公募に応じるメリットがない。あるいは少ない
最も大きいズレは、「忙しい時に、他の仕事をやっている暇なんかないよ。」と言うものです。
その場合、例えば
・賞金が出る
・予算化されて「事業責任者/リーダー」や「事業部長」になることができる
・子会社を作って社長になれる
こういった、それなりのメリットがなければ、多くの人を動かし、活性化させるのは難しいでしょう。
また、そういった直接的な見返り以外にも、経済界の著名人や有識者、各種ベンチャーキャピタルなどの有名な審査員などを招聘することで「あの人に自分のビジネスプランを見てもらえる!」といったモチベーションを誘発することも可能です。
何れにせよ、既に多くの仕事を抱える多忙な従業員がビジネスプランを作るのは非常に多くの労力を伴います。公募者にとってのメリットややりがいを明確にしてあげることが重要です。
ズレ2:公募の要件があいまいすぎる
二つ目のズレは、公募の要件があいまい過ぎると言うものです。人は完全に「自由にやっていいよ」と言われると、よほどの人でない限り、かえってアイデアが出なくなるものです。
ある程度の制約は、むしろアイデアを促進します。「営業利益100億が見込める事業を提出してください」「当社らしい新規事業」では、曖昧すぎてダメなのです。
逆に要件を明確にすれば、それなりの応募が見込めます。例えば、富士通のアクセラレータプログラムなどは良い事例です。
(出典:http://www.fujitsu-innovate.jp/)
かなり具体的なアイデアが例示されています。
このようにある程度細かい要件を決めて応募を募るほうが、結果として多くのアイデアが集まるでしょう。また、その質も高まる傾向があります。
ズレ3:応募した方へのフィードバック・フォローが無い、または弱い
そして3番目のズレが、「公募に応じてくれた方へのフィードバックもフォローもない」という状態です。
例えば
「今回は入賞作品ゼロです」
「応募者になぜ落選したのか、理由が明かされていません」
「問い合わせがあった人に、事務局から何もアクションしていません」
と言った状態です。公募制で重要なのは「社内マーケティング」と「社内営業」を地道にやることです。そのためには応募者への積極的な関与が必要とされます。
リクルート社内の知人に話を聞いた所、このような活動はリクルートが非常に上手く、一度でも問い合わせや応募のあった人の名簿を作って管理し、丁寧にコミュニケーションやフィードバックを続け、場合によっては再度アプローチして「また応募してください」とアクションをしているようです。
(出典:http://www.recruit-mp.co.jp/feature/company/newring2016.html)
このような活動は「量が質を生む」ことも多く、多くの人を巻き込めばプログラムやイベントの質が上がります。
ズレ4:事業化するためのオプションが限られている。または制約が多い
公募イベントを開催し続けると、「いいアイデアなんだけど、うちの中でやるのはちょっと……」といったビジネスプランも数多く出ます。
そんな時に、「うちには合わないから」と切り捨ててしまうのは非常にもったいない行為であると言えます。
最悪、そのプランを提出した人物が「うちの中でできないなら、独立します」といって、流出してしまう恐れもあるでしょう。想いが強く、自信がある有能な人材ほどそうなるリスクも高い傾向がありますが、それはあまりにも残念なことです。
そのため「社内の新規事業として」だけではなく、社内公募で集まったアイデアに「投資する」というオプション、コーポレートベンチャーキャピタルなどの選択肢も含めて、事業化に向けたオプションは柔軟に考えるべきだと私は考えています。
「公募制」はこれから多くの会社で重要な活動の一つになっていくでしょう。
気軽に行ってもいいのですが、本当に成果を追求するのであれば、きちんとした報酬を用意し、要件定義、マーケティング、フォローアップ、事業化のオプションなど、業務プロセスの設計を真摯に行うことが必要です。
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