こんにちは。日本植物燃料株式会社、代表の合田です。
アフリカの呪術師との戦いには辛くも勝利したものの、もちろんアフリカは日本の常識が通用するところではありません。
当たり前ではありますが、「郷に入っては郷に従え」という格言通り、私たちは「現地の常識」に従う必要がありました。
今回はそんな話です。
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すこし前、東大の研究員の方とモザンビークで共同研究をやっていた時の話です。
ある時、私は急遽日本に戻らないといけなくなり、現地で同居していた東大の研究員Tくんに100万円ほどを預けて帰ることになりました。
まとまったお金が必要な時は、現金を手元に置くしかないのです。ちなみに、日本円での100万円は現地のお金で4〜5千万円分に相当するほどの大金です。
(モザンビークの集合住宅)
普段はお金を金庫に入れていますが、翌日すぐに使う予定だった100万円だけは、金庫から出してTくんに預けました。
同居人は現地に残っているし、大金を所持していることを吹聴して回ることをしていたわけではありませんでしたから、お金のことはあまり心配せずに日本に飛びました。
ところが、日本に戻ってすぐにTくんから連絡ありました。
「なんかお金減ってる気がするんですけど…」
気がするんだけど……?
不思議な連絡です。私はTくんに聞きました。
「え、何いってんの?どれくらい?」
「いや、けっこうなくなってると思うんですよね。」
実は、その頃は現地モザンビークの感覚にもある程度慣れていて「知らぬ間にお金が減っている」ということはよく経験していました。
店などでモノを買った後にお釣りが足りなかったりすることは、実は日常茶飯事です。
最も驚いたのは銀行でお金を引き出した時、目の前で行員さんがちゃんとお札を数えて確認したにも関わらず、後で確認したら明らかに少なくなっていたことです。
とにかく、気を抜くとすぐお金が減るのです。
連絡を受けて2週間後、モザンビークに戻って確認すると70万円近くがなくなっていました。
さすがにその時は落ち込みましたが、意を決して犯人探しをすることにしました。
なぜならば「犯行が家の中で行われた」からです。再発を防ぐためにも、何が起きたのかを絶対に把握する必要がありました。
さて、「犯行が家の中」ならば、残念ながら疑わしき人物は2人しかいません。
運転手さんと、料理や洗濯などをしてくれているお手伝いさんです。
二人を疑いたくはありませんが、Tくんによるとお金のほとんどは部屋にあるスーツケースにしまっていたとのことで、そこにお金が入っていることを知りうるのは、その二人だけです。
(不法侵入防止のためにベランダには鉄格子がある)
とは言え、証拠はありません。まして、問い詰めても「私がやりました」などと正直に言う人はいるわけがありません。
そこで一計を案じました。
気は進みませんが、ラップトップPCのカメラをオンにしたまま画面を落とし、お手伝いさんがいる時に、わざとスーツケースに大金を入れるフリをして少額のお金を残し家を離れたのです。
さて、戻ってきてその録画したものを再生してみると…
手にキッチンの包丁を持って、ナイフ使いのようにクルクル回しながら、我々の部屋に入ってきた人物がはっきりと写っていました。
正体は……あのお手伝いさんでした。
普段と全く異なる表情です。なんというか……私たちに一度も見せたことない、彼女の裏の顔です。
彼女は部屋に入るなり、私たちが遠くに行ったことを窓から確認しました。
そしてスーツケースに向かって行き、その包丁を隙間に差し込み、いとも簡単にスーツケースをこじ開けたのです。(東大研究員Tくんによると、そのスーツケースの鍵はとても弱かったとのことです。)
中に入っている金額が少額であることに気づくと
彼女は「チェッ、シケてんなあ」みたいな表情で部屋を出ていったのです。
これは、動かぬ証拠です。
我々はそのお手伝いさんを呼び、ビデオを見せて問い詰めると、彼女はあっさりと盗みを認めました。
「飲み屋にいた女の子を、何の疑いもなくお手伝いさんに採用したことが全ての間違いだと思いますね」と、Tくんは至極真っ当な意見を言っていました。
その通りです。日本の常識はここでは通用しません。悪いのは私です。
その後、ひとまず警察にお手伝いさんを引き渡しました。
普通に考えると、ここから法の裁きを受け、さらに盗んだお金を返すということになります。
しかし、警察の方が言うには
「今後これを犯罪として立証するための証拠集めや裁判をするにはあまりにも時間と労力ががかかる。警察に「活動費」なるものを支払わなければ、捜査もできない」
とのこと。
警察を頼りにするのは諦めました。
つまり、自分たちでお手伝いさんから直接、お金の使途を聞き出して回収する以外、方法はないわけです。
で、その盗まれた70万円の行方ですが……
お手伝いさんに聞くと、そのお金で1ヶ月間にこんなことをしていました。
・大きな家を借りて、家族と一緒に住みだした
・家具を買い揃えていた
・土地を買った
・商売をするために、小さいボックス式のキオスク小屋を買った
・飲み歩いた
・車を買った
かなり色々お金を使っていたことがわかりました。
使途不明もたくさんありますし、回収できないものもあります。しかたないので、回収できそうなところから、ちょっとでも返してもらうことにしました。
まずは車です。
ですが、調べてみると、その車はすでに他人に渡っていました。
というのもそのお手伝いさんは運転免許を持たずに運転して(そもそも免許が必要なことすら知らなかったらしい)事故を起こし、その車を担保として取られていたのです。
なので、私は修理代を払って取り戻しました。修理代は私の自腹なのですが……。
そして驚いたことに、その回収した車は、自分が住んでいたアパートの1階の飲み屋のオーナーのおばちゃんの車でした。
なんと、おばちゃんはお手伝いさんに自分の車を売って、そのお金で新しい車を買っていたのです。
(飲み屋は我々の住居の1階にあった)
(飲み屋のキッチン)
なるほど……そう言えば、その時期その飲み屋でよくビールを現地の皆さんから奢られていたんですよね。
ビールはモザンビークでは高価なのです。
普段は現地の人にこちらがビールを奢ることが殆どだったのですが、その時期急に周りの人からビール奢られていたのです。
あ、それオレのお金だったのか。
と気づきました。
我々は、ついに真相にたどり着いたのです。
つまり自分たちはカモになっていたというか、この一帯の人々はおそらく、お手伝いさんがゲットしたお金のことをうすうす知ってたわけです。
お手伝いさんは大金を奔放に使っていたため、いつの間にかこの周辺の人々を潤してました。
ちょっとした集落に4,5千万円のお金が降って湧いたようになってるわけですから。我が街にバブル到来って感じです。そりゃビールだって奢りたくなりますよね。
通貨の供給量を増やすと、バブルを起こすことができるのです(笑)
警察からそのお手伝いさんを出してあげた1週間後ぐらいのことです。そのおばちゃんの飲み屋でいつものごとく飲んでいた時なんですが、外を見るみと彼女が通りかかりました。
向こうも私の方にすぐ気づき、
気まずい……と、そそくさと逃げるのかと思いきや、「ニコッ」といつもの愛想のいい笑顔返してきて、手を振ってきました。
可愛いです。
自分のお金がこうして皆を幸せにするのであれば、それはそれで良いかと思わざるを得ませんでした。
いや、もうそう思い込むしかないというか。
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