あるソフト開発のエンジニアと話をした時、
「現場の改善活動」の話になった。
その方が言うには、
「社長の命令で、「やる気のある人」を中心に一生懸命、改善活動をしている。アイデアは現場にたくさんあるので、実行するのに結構忙しいんだけど、なぜか納期や品質が改善された感じがしない。なんでだろう。」
という相談をされた。
そして偶然、ほとんど同時期に、同じ相談を複数の会社から受けた。
「やる気のある人が頑張れば頑張るほど、全体として成果が出ない」という皮肉な状況。
これは何処の企業でも大変良く見られる状況なのだ。
「ザ・ゴール」という本を読んだことがあるだろうか。
エリヤフ・ゴールドラット氏という、イスラエルの物理学者が著したもので、「制約条件の理論」について小説形式で解説されている。
非常に面白い本、かつ役に立つ知識が収められているので、新社会人必携の書籍と言っても良い。
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か
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そして、この本のテーマの一つは「部分最適」への批判である。
例えば、特定のプロセスだけ新型の機械を導入して生産効率を上げると、後工程で在庫があふれかえるなど、かえって大きな混乱が起き、全体の成果が落ちると言う事例を紹介している。
そしてこれは、冒頭に紹介した状況と全く同じである。「会社の一部の人」だけが頑張っても、会社は良くなるどころか、かえって全体の歩調を乱して混乱を引き起こす。
ある複数社の共同ソフト開発プロジェクトにおいて、一社の「生産性の高い会社」が前倒しで仕事をした結果、お客さんのイメージが明確になり、
「こっちのほうがいいね」
と、仕様が変更になった。
だがその結果、周りのスキルの低い会社はそれに対応できず、結果として「ソフトウェアの一部だけ綺麗」で、後はボロボロになってしまった。
後日、これを反省材料にし、
「一部の会社やエンジニアだけ生産性が高いと、かえって現場が混乱する」と知った彼らは
「共同開発のプロジェクトでは、一番スキルの低い会社やエンジニアに合わせ、あえて遅く仕事をする」と言っている。
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さて、こう考えていくと、重大な事実に気づく。
結局「プロジェクトの成果」や「チームの成果」も、「その中で最低の能力」の人物がボトルネックとなって、全体の足を引っ張るのである。
もっと言うと、「集団の成果は、その集団内で最も能力の低い人物/グループに規定される」ということである。
例えば、営業がイマイチの会社は、製造やマーケティングチームがいかに有能でも、営業部の能力以上のことはできない。
営業が優秀でも、事務の能力が低ければ、事務で仕事の滞留が発生し、結局営業は新しい営業ができなくなる。
これが、制約条件の理論で言うところの、「ボトルネック」だ。
私が昔、あるマーケティングチームの相談を受けていたときのこと。
4名の体制だったが、そのうちの一人が、非常にズボラだった。
果たして、そのズボラな人間は、ダイレクトメールの宛名を間違ってクレームをもらったり、「メルマガの配信停止をしてくれ」と言ってきたお客さんに更にメール送ったりしてしまい、リーダーがお詫びに行くなど、周りの人の仕事を増やしてばかりいた。
そこでリーダーは「ダブルチェック」をしたり「メルマガリストの更新ルール」などを作って、そういったミスに対応しようとしたが、逆に業務量を増やしてしまい、残業が増える一方だった。
そんな時、リーダーから
「どうしたら良いか」と聞かれたので、
私は言った。
「「その人物をチームから出して、3名で早くやる」か「ズボラな人に合わせて、もっとゆっくり仕事をする」かどちらがいいでしょうか。」
リーダーは暫く考えていた。
「……目の前のことだけを考えれば、3名でやったほうがいい。」
「そうですね。では……」
「いやでも、3名にしたとしても、結局3人のうちの誰かがまた、足を引っ張る事になるかもしれない。チームに無能な人間がいるからと、その人を切っていったら、「結局全部一人でやったほうが早いじゃない」ということになる。」
「そうですね。」
「それは、もはやチームじゃない。わかった。全体のペースを落とすよ。」
「了解しました。」
後日、彼らのチームは「ズボラな人」に合わせ、彼が十分なチェックの時間が取れるように納期を遅らせて仕事をした。
だが、3ヶ月後にはそのリーダーは
「最近は能率が上がってきましたよ。慣れって重要ですよ。」
と言っていた。
それは、そのリーダーが、「マネジメント」を理解した瞬間だった。
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