「任せるのって、難しいですよね」という、マネジャーの悩みを訪問先の企業で聞いた。

具体的には、こんな具合だ。

「いまは残業に対する規制が厳しく、確実に時間内に終わることしか任せられない。」

「良かれと思って任せても、「任される」事にネガティブな人もいる。」

「仕事を任せようとしたら、「もう少し作業のやり方を明確にしてから依頼してください」と怒られた。目標はこちらから示すけど、やり方は自分で考えて欲しい。」

 

一昔前は、部下が仕事を任されるのは当然であり、仕事を断ったり躊躇したりするシーンはあまりなかった。

だが最近では「任せる」ことも非常に気を遣うという。

丸投げや、十分な指導を行わないまま仕事をやらせることは、場合によっては一種のパワハラと認識されており、場合によっては上司の評価が大きく下がることにもなりかねないからだ。

 

そんな状況であるから、「任せるのって、難しいですよね」という声が出るのは、ある意味必然とも言える。

「とりあえずやらせてみて、失敗させれば良いんだよ」という上司は、どんどん減っている。

 

任せるのが上手な上司は、何が違うのか。

では、そんな状況においても「任せるのが上手な人」は、一体何が違うのか。

話はそこに及んだ。

 

おそらく「完全な正解」はないのだろう。結局は個人と個人の関係で「任せる」がポジティブなことにも、ネガティブなことにもなり得る。

しかし、ここについてはピーター・ドラッカーが鋭い洞察をしている。

働くものが責任という重荷を負うには何が必要か。いかなる手立て、動機づけ、保障が必要か。

責任を負い、責任に応じてもらうために、マネジメントは何をしなければならないか。

 

1.任せるのが上手な人は、「面白い仕事」を任せている。

ドラッカーは、任せるべき仕事について、次のように述べている。

仕事が全てではないが、仕事がまず第一である。確かに働くことの他の側面が不満足であれば、最も働きがいのある仕事さえ台無しになる。ソースがまずければ最高の肉も台無しになる。だが、そもそも仕事そのものにやりがいがなければ、どうにもならない。

「仕事の内容」の前に、人間関係や、頼み方や、報酬や、評価や、福利厚生や、その他の瑣末なことを気にするマネジャーがいる。

だが、本質的に「つまらない仕事」を任せても、任された側がやる気になるはずがない。

まずは、面白い仕事を任せることが、最重要だ。

 

このように言うと、「どんな仕事も工夫次第で面白くなる」という上司がいる。

それは事実かもしれない。

だが「仕事を面白くする工夫」を完全に丸投げしてしまうのは、上司の無能を、仕事を任された側に押し付けているだけである。

上司は「仕事の面白さを演出できる」から、上司なのだ。

 

2.任せるのが上手な人は、「うまくできるやり方」を示してから任せている。

ドラッカーの次の洞察は以下のものだ。

第一に、仕事を分析し、プロセス化し、管理手段を組み込み、ツールを設計することによって、仕事自体を生産的なものにすることなく、仕事に責任をもたせようとしても無駄である。単にマネジメントの無能を示す結果に終わる。

「成果は◯◯だから、後はよろしく」という、いわゆる「丸投げ」は、無能な上司の典型的行動パターンだ。

 

上司は、任せようとしている仕事をきちんと分析した上で任せなければならない。

・どのような手順で仕事を進めれば良いか

・どのように成果を測定すればよいか

・仕事を生産的にするツールは何を与えるべきか

こういったことを考えずに仕事を与えるのは、「任せる」ではなくすべて、「丸投げ」である。

 

「自由にやらせるほうが生産性が高い」という方も居る。だが、ドラッカーはそれに警鐘を鳴らす。

人は束縛から開放されれば、専門家よりも優れた生産的な答えを出すとの考えは昔からある。一八世紀にルソーが定式化する前からある。だがその正しさを証明するものはない。創造性と言えども、基礎的なツールがあって力を発揮する。我々の知る限り、正しい仕事の構成は直観で知りうるものではない。

相手のレベルに応じて、「マニュアルやツールを用意してあげる」ことが任せる上での大前提である。

 

3.任せるのが上手な人は、任された人が「自分で必要な情報を取れる」ような環境を作る。

「任せる」ということは、「自己管理」を要求することだ。

そして、自己管理の第一歩は、任された側が、必要な情報を自分で取れるよう、環境をつくることにある。

ドラッカーは次のように述べている。

大手宅配便業者のエメリー航空輸送がドライバーを対象として行った実験が面白い。働く者は、自らの仕事ぶりについて情報が与えられるや、直ちに行動を修正していくというのである。実はこのことはかなり昔から明らかになっている。

例えば、ダイエットをしたいという人は、体重計を買い、自ら体重を測定しなければならない。

運動量を測定するために、万歩計やスマートウォッチなどを購入しなければならない。

自分が何を食べたかを記録しなければならない。

 

ある営業組織では、上司がガミガミ言っても、新規顧客の開拓に行くメンバーが少なかった。

そこで、上層部は、営業がいつでも、自分の営業訪問件数、受注率、キャンセル率、新規契約率をwebサイト上で入手できるようにしたところ、月間の新規開拓に振り分ける行動が20%もアップした。

 

4.任せるのが上手な人は、任された人が継続的に「学習」をできるような仕組みを作る。

任された側は、成果が上がることだけではなく、自らのスキルの向上を実感することにより、より仕事に責任感を感じるようになる。

このため「任せる」ときには継続学習のための仕組みを整えておくことが有効だ。

 

ドラッカーは、継続学習について次のように述べている。

もちろん働く者はすべて、スキルについてのトレーニングを必要とする。しかしここにいう継続学習とは、スキルのトレーニングとは別のものである。

継続学習では、働く者は学んだことを生かして、自らの仕事ぶり、仲間の仕事ぶり、そして仕事の仕方を向上させようとする。

 

思えば、私が前に在籍していたコンサルティング会社に於いては、現場を任せる前に次のようなトレーニングがあった。

1.コンサルティングマニュアル、様式集の完全な理解

2.上司によるロールプレイ

3.上司のコンサルティングへの同行

 

そして、コンサルティング中にも、次のような仕組みがあった。

4.内部監査

5.顧客からのアンケートによるフィードバック

6.コンサルティング勉強会

 

そしてこの4.5.6.が、「継続学習」に大きく貢献していた。

内部監査は、別のコンサルタントが現場をチェックしに来る。チェックされた結果は6.の勉強会で取り上げられ、新しいインプットとなる。(場合によっては吊るし上げられる)

また、顧客アンケートは◯点以上の評点を獲得しなければならない、という評価基準があり、書かれている項目についてはコンサルタント同士でどのように評点をあげるか、ノウハウが共有された。

 

世の中は、とかく「仕事を任せる」と言うと、

上司が部下にどのように指示を出すか、どのように期限を決めるかなどの、各論のレベルでの話が多い。

だが、本質的には「仕事を任せる」という話は、会社のマネジメントの本質が問われる行為であり、綿密な設計が必要となる事項である。

 

 

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(Photo:Rick Cogley