ワンランク上のリーダーは、「バランス感覚」に秀でている。
喩え話をしてみよう。「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」という言葉がある。京セラ創業者の稲盛和夫氏の言葉だ。
稲盛和夫氏の主宰する「盛和塾」では、こう言った格言が伝承され、彼が指揮をとる会社の理念には、必ずこの言葉が刻まれている。
KDDI企業理念(http://www.kddi.com/corporate/kddi/philosophy/)
JALフィロソフィー(https://www.jal.com/ja/outline/corporate/conduct.html)
発言の趣旨は非常にシンプルである。
組織を束ねる人間は、大義に基づき、非情に見えることもしなければならない。部下を甘やかすのは、結局組織を駄目にする。
もちろん、言っていることは正しく、本質を突いていると思う。組織を運営するにおいて、厳しさのない組織は堕落する。稲盛和夫氏の透徹した目は、物事の本質を見抜いている。
だが、問題はそういった言葉を受け売りする経営者・管理職である。例えば、
「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」
という言葉を上司が朝礼、ブログ、その他で使っているとしよう。
この場合、部下の反応は2つに別れる。
「なるほど、うちの上司が厳しいのは、我々のことを思っているからなのだな」
そして、
「上司はああ言っているけど、自分の立場を正当化するためだけに使っているな」
果たして、どちらの見方が正しいのだろうか。
恐らく、どちらも正しい。と言うのは、一つの意見に対してそれと反対の事を言う権威を見つけようとして見つからないことなど殆ど無いからだ。
例えば、「リーダーは厳しくあらねば」に対して、ハーバード大の研究チームは異なる見解を示す。
「厳しい」マネジャーは、部下にプレッシャーをかければパフォーマンスが高まると考えていることが多い。それは間違っており、高まるのはパフォーマンスではなくストレスである。そして研究によれば、高度のストレスは雇用者と従業員の双方にさまざまな損失をもたらす。
(ハーバード・ビジネス・レビュー)
これを見てあなたはどちらを信じるだろうか。稲盛和夫氏か、ハーバード大か?
どちらを信じるのも自由だが、リーダーは、「とにかく、2つの意見がある」と認識しなければならない。
「人は見たいと欲する現実しか見ない」とは、カエサルの言葉であるが、「人は自分に都合の良い言葉しか聞かない」のが、人の常である。
だが、経営者や上司は、たとえある意見が正しく思えたとしてとも、どちらか一方に肩入れしすぎるのは危険であり、柔軟性を欠く行為である。
ひとつ上のレベルのリーダーは、バランスをとるために「自分にとって都合の悪い言葉」を知った上で、決断する。
自らを正当化することばかりに腐心するのではなく、「どちらも正しい。が、今はこうしなければならない」とするのが、「ワンランク上のバランス感覚のあるリーダー」である。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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