「会社には、経営理念がある」ということは広く知られているが、「なぜ理念が必要なのか」については意外と知られていない。
いや、正確に言えば「理念がなぜ存在するか」についての本当の理由が間違って伝わっている事が多い。
私が「経営理念」について、初めて考えさせられたのは、コンサルタントになって二年目の事だった。
ある、鉄鋼業界出身のコンサルが、印刷会社の社長に「経営理念」について指導していたのを見ていたのだ。
そのコンサルタントは言った。
「社長、この会社の経営理念はなんですか」
「お客様のために、誠意を尽くして商売をする、です。」
コンサルタントはそれを聞き、声を荒げた。
「あのねえ社長。こんな世のため人のため、みたいな、なんとでも取れる経営理念なんて、何の役にも立たないよ。テンプレート通りにつくってるから、会社がダメになるんだよ」
今思えば、相当失礼な言い方だったが、その指摘は的を射ていた。
彼はこう尋ねた。
「あのね、社長。経営理念はなぜ必要なんですか。わかってますか。」
社長は目を白黒させて答える。
「え、私は社員ををまとめて、方向づけするために作ったんですが……ビジョンて言うか……。」
そのコンサルタントは、あたりを見回して、社員を呼び止めていった。
「そこのアンタ、経営理念を言ってみなさい。」
「え……、お客様……。おきゃく…。?」
彼は経営理念を知らなかった。
「社長、社員は理念をおぼえてないですよ。」
社長は苦笑いしている。
コンサルタントは言った。
「あのね、社長。経営理念を作ったからって、社員がまとまるわけないじゃない。私もね、いろんな企業、大企業から零細まで行ったけど、ひとつとして社員が経営理念やビジョンでまとまっている会社なんて無かったよ。」
「……。」
「社内を見渡してみてくださいよ、理念やビジョンががあるから会社がまとまる、なんて大嘘だよ。ビジョンや理念は、会社をまとめるために作るわけじゃないんだから。」
社長は意外だ、という顔をしている。
「で、では何なんのでしょう」
「理念ってのはね、社長。経営者を縛る制約なんですよ。理念は、あなたのためにあるんです。」
社長は意味がわかっていないようだ。
「社長、会社ってのはね、何でもあり、はダメなんだよ。何でもできる、は何もできない、と一緒。制約は企業の力の源であって、目的をある一定の範囲に規定すればするほど会社は強力になる。
だから社長、経営理念は、絞りこまれていれば絞りこまれているほど、良い理念なんだよ。こんななんとでも取れるような理念なんて、ゴミ箱に捨てちまいなさい。」
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会社というのは「何か特定の目的を達成するための集団」である。会社はその特定の機能によって、世の中から存在を許されている。
したがって、何かに特化し、事業領域を絞込むほど、その分野で強力な力を発揮できる。リソースの少ない、小さい企業であれば、なおさら絞込みが必要だ。
あなたの会社の理念はどうなっているだろう?見てみて欲しい。もし「なんとでも取れる」ような理念であれば、あなたの会社には制約がない、すなわち「何でもありの会社」ということになる。
それでは強い会社とはならない。
ちなみにグーグルはいくつかの強力な成約を自らに課している。
Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることです。
- ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
- 1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
- 遅いより速いほうがいい。
- ウェブ上の民主主義は機能します。
- 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
- 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
- 世の中にはまだまだ情報があふれている。
- 情報のニーズはすべての国境を越える。
- スーツがなくても真剣に仕事はできる。
- 「すばらしい」では足りない。
経営理念、ビジョンが必要な本質的な理由はただひとつ。
「「これはやらない」という制約を経営者に課して、事業を縛るため」なのだ。
「世の中のためになることならなんでもあり」は、理念でもなんでもない。
(2025/5/8更新)
人手不足 × 業務の属人化 × 非効率──生成AIとDXでどう解決する?
今回は、バックオフィスDXのプロ「TOKIUM」と、生成AIの実務活用支援に特化した「ワークワンダース」が共催。
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<2025年5月16日実施予定>
人手不足は怖くない。AIもDXも、生産性向上のカギは「ワークフローの整理」にあり
現場のAI・DX導入がうまくいかないのは、ワークフローの“ほつれ”が原因かもしれません。成功のカギを事例とともに解説します。
【内容】
◯ 株式会社TOKIUMより(登壇者:取締役 松原亮 氏)
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◯ ワークワンダース株式会社より(登壇者:代表取締役CEO 安達裕哉 氏)
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・生成AIに可能な業務の種類と自動化の可能性
・導入における選択肢と、導入後のワークフロー像
登壇者紹介:
松原 亮 氏(株式会社TOKIUM 取締役)
東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。
安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。
日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00
参加費:無料 定員:50名
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