PCデポのニュースを見て、ふと思いだしたことがある。
ネットで批判が起きたのは、Twitterユーザーの投稿がきっかけだ。
80歳を超える認知症の父親が、合わせて月額1万5千円弱のサポート代を含む契約を店と結んでいた。それほどパソコンを使わない個人が結ぶ契約としては高額だ。
結ばれた契約のなかには、持っているパソコンは1台だけなのに10台まで対応の割高なサポート契約や、一度も使った形跡がないiPadレンタル契約など、必要なさそうなものも含まれていた。
気づいた息子のケンジさんが、解約を申し込んだところ、解約金20万円を請求される。
どうして、こんな契約が結ばれたのか。なぜこんなに解約金が高いのか。
(Yahoo!ニュース)
思い出したのは、昔訪問したあるwebサービス会社の経営者だ。
その方はこう言った。
「「客が愚かであることを願うような商売」だけはしたくないよね。」
「客が愚かであることを願うような商売」とは、要するに「顧客の情報不足、リテラシー不足につけ込む商売」のことだ。
当時のことはよく憶えている。私はマーケティングの一環として「創業社長」を集中して訪問し、「なぜ起業したのか?」を聞いて回っていた。
その時たまたま紹介で訪問した会社の経営者が、上のようなことを言っていたのだ。
その経営者は、こんな感じで質問に答えてくれた。
「なぜ起業されたのですか?」
「正直、起業するつもりはなかったんだけど、その時やってた仕事が嫌になってね。」
「どんな仕事だったんですか?」
「簡単に言うと、携帯とかの勧誘。」
「なぜ嫌になったんですか?」
「会社の方針が「客が馬鹿であることを願うような商売」だったから。「1ヶ月で解約すればいいんですよ」って言って、無料のサービスに加入させる。客が忘れて、そのまま課金が始まる、っていうのが嫌だった。」
「ああ、よくありますね。私も「割引の条件です」とかなんとか言われて、加入した覚えがあります。」
「それそれ。」
「……。」
「いや、いいんだよ、やりたきゃ勝手に。「ちゃんと解約しないユーザーが悪い。それでいいじゃない」って上司は言ってた。世の中そんなもんかもしれない。でもね。俺は嫌だった。」
「なるほど。」
「で、転職しようと思ったけど、ほら、オレって学歴ないんだ。だから、転職してもまた同じように「客がバカだと儲かる」商売にしか就けなさそうだったんだよね。」
「……。」
「いや、いいんだよ事実だし。だから起業したんだ。社員が自分のことを嫌いにならないようにちゃんとした商売をしたい、って思ってね。まあ、想像以上に商売って厳しいよね。でも。やってよかったと思ってる。」
「わかります。」
「多分、こういう仕事やらされている人って、すごく仕事が嫌いになると思うんだ。オレがそうだったみたいに。」
昔、こんな記事を取り上げたことがある。
米国タバコ会社に「2兆円」賠償判決――こんな「高額賠償」は日本でも認められるか?
実はアメリカでも、1950年代から90年代頃までは、タバコ会社がほぼ全て勝訴していました。理由は、喫煙者の自己責任(危険の引受け)です。
しかし、1990年代後半頃から裁判の流れが大きく変わりました。きっかけは、内部告発や内部文書により、タバコ会社が健康被害や依存性について熟知しながら、それを隠して、故意に詐欺的な販売を継続してきたということが明らかとなったからです。
50の州政府が原告となり、公的医療費の返還を求めてタバコ会社を訴えた裁判で、1998年に2060億ドル(約25兆円)を25年間分割払いにする和解が成立しました。
また、喫煙者個人やその遺族がタバコ会社を訴えた裁判は、2000年代以降、次々と勝訴し、約5億円、9億円、50億円、79億円といった懲罰的賠償も認められました
(弁護士ドットコム)
大なり小なり「自分たちの商材よりも、他社の商材のほうが優れている」という状況は起きがちだ。
そう言った時「ホントは自分たちよりも他社のほうがいい商品なんだよな……。」と思いながら仕事をした経験は、だれにでもあるのではないだろうか。
そんな時、仕事は苦痛になる。
プロフェッショナルの倫理観は、ピーター・ドラッカーがの言うとおり「知りながら害をなすな」であり、仕事に対して真摯に取り組む人ほど、それを無視して仕事をすることはできない。
「道徳心」は時にカネよりも優先される。
「「客が愚かであることを願うような商売」だけはしたくないよね。」
という経営者の言葉は、重く響いた。
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