一億総中流だった時代は去り「24時間働けますか」は過去の話となった。

 

現在の主流は「ワークライフバランス」、すなわち

「長時間労働はやめたほうがいい」

「残業は出来るだけしない」

「生産性を挙げて、労働時間を短縮しよう」

である。

 

そして、それは正しい。

なぜかといえば「つまらなくて将来性がなく、給料の安い仕事」が世の中の多くを占めるからだ。

たくさん働いても、どんなに苦労しても、それが名声やお金、満足のいく生活、そして自分が成し遂げたいことにつながるとは限らない。

人は報われない苦労を長時間続けることはできないのだから、働きたくない人が増えるのも無理はない。

だから「仕事は最小限で」が説得力を持つ。

 

だが中には「嘘をつくな、どんな仕事でも楽しくできる。要は本人の心持ちだ」という方もいる。

しかし私はそれに与しない。

仕事に我を忘れて没頭する、いわゆる「フロー状態」は、外的な条件、および本人の主体的な評価に大きく依存するからだ。

 

クレアモント大のミハイ・チクセントミハイは著書*1の中で次のように述べている。

フローモデルの処方に従えば、理論的にはどのような仕事もより楽しくなるように変えることができよう。

しかし現在のところ、その仕事の性質を左右する権能を持つ人々の、仕事が楽しいかどうかについての関心は極めて低い。経営ではまず生産性を最優先に考えなければならず、組合の指導者は安全や保証の維持を最優先に心がけねばならない。(中略)

同時に、あらゆる職業がゲームのように構成されれば、すべての人が楽しめるものになるという期待も誤りである。外敵条件が最も好ましいものであっても、人がフローに入ることを保証することはできない。最適体験は挑戦の機会や自分自身の能力についての主体的な評価にかかっているので、潜在的には素晴らしい職業出会っても満足できないことがしばしば起こる。

 

「どんな仕事でも楽しくできる」そんなマッチョ思考は、その方が良い職場にいることを証明するだけであって、現実にそんな人は1000人に数名である。

だいたいそんな人は、そもそも「真につまらない仕事」をやったことがないのである。

 

それでも「考え方1つで気分が変わる」という人物がいるなら、その人物をとりあえずハンマーでブン殴って「考え方1つで気分が変わりますか?」と訪ねてやればいい。

それでも警察に通報しない。という人物がいるなら、まあそれは本物と考えても良い。

*1

 

だが、そんな人物はいない。

私は現場で「本気でつまらなさそうな仕事」や「ダメな会社」を世の中で極めてたくさん見てきた。だから、

「仕事が嫌い」

「会社辞めたい」

「上司うざい」

という方の気持ちは痛いほどよくわかる。

世の中には「自分ではどうしようもないこと」がたくさんあり、そういった人々にとっては「仕事」「会社」がそれに当たるのだ。

 

さて、ここからが本題だ。

「仕事が嫌いで、成果も出ない」という人は、どうやって仕事をこなしていけば良いのだろうか。

最低の評価をもらい、追い込まれてしまうという状況を回避することはできるのだろうか。

 

私の友人で一人、「仕事が嫌い」という人物がいる。

彼は私の書く「仕事」についてのネタが「仕事を好きで、頑張っている人」に偏りすぎているという。

彼は言った。

「お前、よく仕事について書いてるけどさ、仕事嫌いの人のこと、考えたことあんの?」

「正直、あまり。」

「だよな。あんなんダメだよ。オレみたいに仕事好きじゃない人多いんだから。」

「毎日つらくない?」

「だからオレが「仕事が大嫌いで、大した成績じゃなくてもなんとか良い評価をもらえる方法」を教えてやろうってわけだ。これ、ブログに書けよ。」

「なんだそれw」

「考えた結果だよ。」

「で、どうするの?」

「会社の評価ってさ、本質は「上司からの評判」と「同僚・後輩からの評判」に集約されるわけだ。」

「成果とかスキルは?」

「それは評判を上げるための手段にすぎないし、成果やスキルはあまり重要じゃない。」

「割り切ってるなw」

「まあ、黙って聞いとけよ。そこでオレは考えた。そして見つけた。「評判がいい人」とはどんな人かを。」

「おお。」

「「評判が良い人」とはつまり、「会社の雰囲気を良くする人」のことなんだ。」

 

それを聞いて私は「なるほど」と思った。

確かに人事制度の設計をするときの評価基準の1つに、「社内の雰囲気を良くする」という項目を入れる会社は非常に多い。

「成果を出していても、会社の雰囲気を悪くする人物」が必ず存在するからなのだろう。

 

「これで、仕事が嫌いでも、成果が今一つでもかなり生き抜ける。」

「具体的に何をやるの?」

「すごい簡単。あいさつをする、上司と会社が好きでたまらないように見せる。成果を出している人の手伝いをする。これだけ。」

「それだけ?」

「要するに、逆張りだよ。みんな挨拶しないし、上司と会社が嫌いだし、成果を出している人の足を引っ張ろうとするから。逆のことをすればいいだけじゃん。」

「天才か……w。」

「これを続けるとだ、なんと、今ひとつ仕事ができない奴でも「ま、アイツは会社の雰囲気を良くする縁の下の力持ちだからな」という評価を獲得することができる。これが最も美味しいポジション。」

「わかった、ブログに書いておくよ。」

 

私は彼と別れて帰途についた後、ふと思った。

「適材適所って、こういうことなのかもしれない。」

 

 

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