実は、仕事は「楽しい」も「楽しくない」もないと、私は信じている。仕事はそれ自体で見れば、単なる動作のカタマリだからだ。

実際に存在しているのは、ある人にとって「楽しめる仕事」と、「楽しめない仕事」の2つである。

つまり仕事が楽しめる、楽しめないは「その人次第」であり、脳の解釈に依るものであって、客観的に「楽しい仕事」と「楽しくない仕事」の線引はできない。

 

こう言うと、いやいや、そんなことはない。クリエイティブな仕事は楽しく、そうでない仕事はつまらないのではないか、と指摘する人もいるだろう。

 

だがそれは間違っている。

例えば少し前、「動物のはい跡」の研究をする仕事をしている方にお会いした。(参考:https://blog.tinect.jp/?p=21764

はい跡を眺めて何が楽しいのか、と普通の人は思うだろうが、この先生は確かに「アツいんですよ。これ」と語る。

大学の研究は間違いなくクリエイティブである。だが、こういった地味な研究活動を「楽しい仕事である」と認識できる人はどのくらいいるだろうか。

 

実際、ある仕事を「楽しい」と感じるためには訓練を必要とする。特に、細部に「楽しさ」や「興味深さを」見つける能力こそ、真に身につけるべきものだ。

 

それはあたかも、抽象画の中に美を見出す能力のようなものである。

例えば以下はMoMA(ニューヨーク近代美術館)の作品の1つだが、この絵を素晴らしいと思うだろうか?

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(出典:https://www.moma.org/collection/works/194754?locale=ja

抽象画は見る者に「審美眼」を要求する。おそらく、この素晴らしさを解釈するのは知識と訓練なしには不可能である。

 

また、タレントのみうらじゅん氏は、「Since」を見つけることに最近ハマっていると述べた。Sinceとは、後ろに1956とか、年号がついている、アレだ。

Since 以来、探さずにはいられない(産経ニュース)

“Since”が、気になって仕方ない。“シンス”、その響きも腑抜(ふぬ)けだが、その一言では全く意味を成さないところもグッとくる。

フツーは“Since1958”とか、年号が入っている。創業は何年からやっておりますと、その古さを誇るために商品のパッケージやお店の看板に記されているもの。

だったら“創業1958”、または“創業昭和33年”でいいのだが、そこはカッコ良く英語でいきたい会社の方針があるわけだ。

中には“Since2013”なんて、思わず「去年じゃないか!」と、ツッ込みを入れたくなるSinceもあって、どのくらい古くなれば見る側も納得いくのか?という問題も出てくる。

 

みうらじゅん氏は著書*1の中でそれらを探す行為を「自分を洗脳する」と述べている。

これは「つまらない物の中に、面白いことを見つける能力」を鍛えていることにほかならない。

「もの」や「こと」を好きになるのはあたりまえのことです。ただし、私の仕事においては、あえてその逆を行くことが多いです。

第一印象が悪いものは、「嫌だ」「違和感がある」と思い、普通の人はそこで拒絶します。しかしそれほどのものを、どうやったら好きになれるだろうかと、自分を「洗脳」していくほうが、好きなものを普通に好きだというよりも、よっぽど面白いことになるからです。

*1

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仕事も同じだ。何気ない仕事に楽しさを見出すには、審美眼が必要なのである。

オフィスの掃除であろうと、飛び込み営業だろうと、鬼のようなテレアポであろうと、仕事で成果を出す人間は、すべからく「仕事の審美眼」を身につけている人物だ。

逆に審美眼が身につかないまま、仕事に対して不満ばかりを述べて転職を繰り返すと、あまり将来は期待できなくなってしまう。

 

さて、これを踏まえた上で1つの問題を提起する。

目の前にある仕事を「楽しいを思える」ような審美眼は、どのようにしたら身につくのだろうか?

 

私が知る不動産会社のマネジャーは、このあたりの演出がうまく、普通は嫌がられるような仕事を、うまく楽しく変えてしまうことに長けていた。

彼は部下に以下の方針で指導している。

 

1,仕事のやり方を細分化して、常に「前より良くする」チャレンジを続けさせる

例えばテレアポであっても、ノウハウを細分化し、一つ一つの動作についてそれよりうまくできるようにチャレンジ精神を持たせる

 

2.競わせる

適度な競争は、やる気を起こす。例えばチーム同士、隣席同士。

 

3.自由度をもたせる

人やらされていると思った瞬間、仕事はクリエイティブなものから、奴隷のものになる。仕事には一定の自由度をもたせ、自分自身でやり方を工夫できるようにする。

 

4.他者からの評価に依存させない

他者からの評価を気にするように仕事をするのではなく、自分の中で「これを極める」と意識させる。したがって、褒める・叱るではなく、上司は「考えさせる」ことに集中させる。

「よくやった」「ダメだ」ではなく、「今日の結果は自分でどう思うか」「次はどうするか」を自分で考えさせる。

 

これらはすべて、「自発的に、能動的に動くこと」の訓練となっていることに着目されたい。

能動的に仕事をする能力を身につけると、「自分の目の前につきつけられたとてもつまらなさそうな仕事」をうまく「モチベーションを上げる仕事」に変えてしまうことができるのだ。

 

余談だが、昔に出会った、いつもニコニコしているマンションの管理人さんに、「いつも大変ですね」と挨拶をしたところ、

「いやあ、楽しんでやってますよ」と答えていただいた。

「どんなところが楽しいんですか?」と聞くと、

「あいさつをすれば、皆返してくれるし、子どもたちがどんどん大きくなるのも見ることができる。たまに差し入れを持ってきてくれる人もいますからね。」

と答えていただいた。

 

仕事を楽しめる人は皆、能動的だ。彼こそ仕事の達人である。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
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(2025/6/2更新)

 

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