ロンドン・ビジネス・スクールの教授、リンダ・グラットンは、MBAプログラムを受講する学生たちに次のような問いを発するという。

100歳まで生きるとして、勤労時代に毎年所得の約10%を貯蓄し、引退後は最終所得の50%相当の資金で毎年暮らしたいと考える場合、あなたは何歳で引退できるか?*1

具体例をあげよう。

23歳で就職、現在40歳の人物がいて、現在は700万円ほどのそれなりの水準の給与をもらっている。

貯蓄は毎月の給与とボーナスの10%程度をコツコツと行い、現在は1000万円程度の蓄えがある状態だ。

想像できただろうか?

 

さて、解答だ。

リンダ・グラットン氏の解答は、

「この場合は80代まで働くことが求められる」

となっている。

 

この数字には私も少し驚いた。70代の中盤くらいまでは働く必要があると思っていたが、実際には想像以上に長く働かなければならないという事実が、我々に突きつけられている。

大きな原因の一つは、年金の減少だ。

当たり前だが、平均寿命が伸びて出生率が下がれば、年金の受取が増え、拠出は減る。

 

 

「100歳まで長生きする人なんて、そういないよ」という方もいるかもしれない。

私も現在の平均寿命から考えると、85歳位で自分も死ぬのではないかと思っている。

 

だが、リンダ・グラットン氏の試算では、1971年生まれの人物が2056年に85歳で死ぬと仮定しても、勤労期間の44年の間は、17.2%を貯蓄する必要があると試算している。

つまり、月給40万、ボーナス80万の人なら、毎月の貯金額は7万円、ボーナス時には上に加えて14万円の貯金が必要だということだ。

これぐらいの貯金をコツコツ40年以上続けて、ようやく65歳で、現役時代の50%の生活資金で暮らしていけるだけのお金が手に入る。

 

つまり、現実的に考えれば、現在40代以下の人たちは、65歳で引退するなどとてもではないが考えられない、ということが既に見えている。

そして、対策は3つしかない。

・現役時代により多く貯金する。

・老後の生活水準を現役の時に比べて著しく落とす(消費する金額を3分の1、4分の1にする。)

・65歳を超えても働き続ける

どの選択肢が好みに合うかは人それぞれだが、何もせずに我々の親の世代と同じような老後が過ごせる、と思っている人は考えを改めるべきだろう。

 

では、この現実にどのように対処すべきなのだろうか。

個人的には65歳を超えても働き続ける事を選択したいとおもっている。

現在の65歳は、一昔前までの65歳よりも遥かに健康であって仕事をするのに差し支えはなく、仕事をやめてしまうと認知症になる危険性も上がるからだ。

 

だが、そのためにはかなり前からの準備が必要だ。

何もしなければ65歳になって企業から放り出され、大切な退職金を無謀な投資で失ってしまったり、うまくいきそうにない商売を始めてしまって何もかも失う、ということにもなりかねない。

投資をきちんと学ぶには時間が掛かるし、実験も必要だ。自分で商売をするならばなおさらである。

 

そう言う意味では、現在安定した職についていようがいまいが、

「自活するにはどうしたら良いか」

を今から真剣に考え、現在の勤め先と年金を当てにせず自分自身である程度稼げる道を見つけておく必要があるだろう。言うなれば、65歳での「再就職」に対して、現在から念入りに準備をするのだ。

 

20歳過ぎでの新卒の就職は、世の中に大きなレールがあった。しかし、65歳での就職活動にはレールがない。

そのため、あと20年で意図的にやらなければならないことがいくつかある。

・「自分の名前が残る」仕事をしておくこと

・創作、あるいはマネジメントなど、機械に代替されにくいスキル、あるいは機械と共存できるスキルを身につけること

・広く人的ネットワークを築き、仕事の紹介をもらえるようにしておくこと

 

誰もが、惨めな老後を迎えることは避けたいと思っているだろう。

したがって、20代での新卒就職が、それまでの人生の集大成だったように、65歳での就職も、それまでの人生の集大成であることを自覚して動かなければならない。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)


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