今「営業」といえば「売り込まないこと」が主流になりつつある。

聴いて、相談に乗って、オススメするスタイルの営業だ。

それらは「コンサルティング営業」と名付けられ、確かに昔のど根性営業に比べてスマートに商売をやっているように見える。

 

しかし、世の中には実は「ゴリゴリ売り込まれたい人」もたくさんいるのだ。

 

 

過去に生命保険の営業、いわゆる生保レディをやっていて、今は独立して会社をやっている女性から話を聴いた。

 

初対面の方であったので「今は、どういった仕事をなさっているのですか」とお聞きしたところ、

「営業部隊の強化をするサービスをしています」

とのこと。

私の経験に照らしても「営業強化をしたい」という経営者はたしかに多かった。マーケットがあるのだろう。

 

そこで「具体的には、どのような感じのご依頼が多いのですか?」と伺った。

するとその方は苦笑しながら、

「生保レディたちのような営業部隊を作りたい、という経営者が多いです」

と言った。

「なるほど、確かに強い営業のイメージがありますが。」

「そうですね。」とその女性は言った。

「でも、ほとんどの経営者は生命保険の営業を迷惑だ、って思っているのにですよ。」

 

言われてみればそうかもしれない。たしかに、売り込みをかけてくる営業をそっけなく扱う経営者は多い。

「ということは、皆さん「自分は迷惑に思っているタイプの営業が自社に欲しい」ってことですよね、可笑しいですよね。」とその方は言った。

 

生保レディ時代は「目標の数字まであとわずか」という時には、待ち伏せしたり、経営者の携帯電話の番号を社員から聞き出し、直接「なんとか買ってください」と1日に何度も懇願したり、苦労したという。

「生命保険という商品は、ニーズもウオンツもないんです。おまけにどこの会社の商品も同じようなもので、しかも複雑でわかりにくい。それをなんとか売り込むわけですから、もうメチャクチャやらないと売れないんです。」

と、その方は言った。

 

その方の話を聞き、私は思った。

経営者たちは、売り込みを迷惑に思いつつも、実は「売り込まれている状況」を密かに楽しんでいる可能性もあるのではないだろうか、と。

 

 

そこで、過去に不動産営業をやっていた方にも話を伺った。彼は個人用の投資物件を扱う会社に7年間在籍し、ひたすらテレアポでお客さんを開拓してきた方だ。

 

「1日に、同じ人に3回電話をかけるんですよ。」

「いい加減にしろ、って言われません?」

「めちゃめちゃ言われます。でも電話をかけ続けるんです。すると、中には「アンタもしつこいねぇ」と、根負けして話を聞いてくれる人もいる。」

「ほう」

「口では「要らない」って言っている人でも、中には実は興味ある人がたくさんいるんです。お金の話ですからね。で、一度話を聴いてくれるようになったら、そんなひどい扱いはされない。営業って、ホントに熱意なんですよ。」

「厳しい仕事ですね」

 

「でも、そういう営業って、実はとても面白いんですよ。言い方悪いですけど「人間として見られていない状態」から「信頼してお金を預けてもらう」までのプロセスが、すごいやりがいがあるんです。実際、売り込まれたい人もたくさんいるんですよ。」

 

 

またホテルなどで行う「宴会」の営業をやっている方の話を聴いたときのこと。

宴会の営業もかなり属人的である部分が大きく、中小企業のオーナー経営者や政財界の大物と直接つながって、とにかくリピートしてもらうことが大事なのだと言う。

「休日でももちろん、携帯電話はいつでもつながるようにしておきます。」と彼はいう。

「なぜですか?」

「何しろ接点をたくさん持たないといけないからです。もちろん完全に公私混同で「知り合いに◯◯やっている人いない?」といった個人的な要望にも答えます。私は取引先の引っ越しにもしょっちゅう顔を出しました。引っ越しは宴会がセットであったりしますから。」

「なるほど」

「もちろん、そういうのが好きじゃないと続けられません。ですが、個人的な付き合いを続けると、大きな仕事を回してもらえたり、コチラが仕事で困っているときに人を紹介してもらえたりもする。」

「たしかにそうですね。」

「まあ、自分をアピールして、売り込むのは基本ですよ。で、向こうもそれを喜んでいるんです。」

 

 

いま、Amazonに押されて劣勢だった「家電量販店」で業績を戻しつつある会社が複数ある。

ヤマダ電機が黒字3倍、劣勢の家電量販店でなぜ勝ち組になれたのか?

家電量販店最大手、ヤマダ電機が発表した、16年3月期の連結決算に驚いた。売上高は1兆6,127億円で、前期比3.1%減だったものの、営業利益は同2.9倍増の581億円、最終利益にいたっては、なんと、同約3.3倍の303億円と、大幅な増益」になったとのこと。

驚いた理由の一つは、よくこのメルマガでも書いているが、私の頭の中で、「家電量販店は安売り中心。利益も出なくなっているのでは?」という固定観念があったからだ。(mag2news)

そして、その理由の1つは「接客」にある。

つまり「知っている人から買いたい」という欲求、「接客してほしい」「売り込まれたい」という欲求を叶えてあげることで、業績を改善させることが可能だということだ。

 

 

「売り込み」を嫌う人が数多くいる一方で、それとは逆に「もっと自分に売り込んでほしい」という密かな欲求を持つ人も数多くいる。

それは「自分が偉くなったような感覚」を味わったり、「人情」に触れることを大事にしたり、「知り合いから買いたい」と思ったりする、極めて人間的な欲求だ。

 

AmazonやGoogle、webがどんどん「人を介在しない取引」を増幅させる一方で、密かにそれに対して不満を持つ人は数多くいる。

そして、そこにはまた別のビジネスチャンスが数多くあるに違いない。

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

お申し込みはこちら(東京都サイト)


ティネクト代表の安達裕哉が東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。
ティネクトでは現在、生成AIやマーケティング事業に力を入れていますが、今回はその事業への「投資」という観点でお話しします。
経営に関わる全ての方にお役に立つ内容となっておりますでの、ぜひご参加ください。東京都主催ですが、ウェビナー形式ですので全国どこからでもご参加できます。

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

【著者プロフィール】

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(Enol Chen)