「成果主義」という言葉がある。「成果を中心にして考えますよ」ということだ。

そして、当たり前だが会社は成果主義である。

・会社は成果をあげなければ倒産する。
・会社は成果をあげなければ、社員を雇うことはできない
・会社は成果をあげなければ、存在する意味はない。

これらは全て、言うまでもないことだ。

 

だがその「成果主義」。今ひとつ評判がよろしくない。どうやら「成果主義」には課題があり、会社に導入するのは嫌だと言う人が多いとのこと。

具体的には、

・成果主義は「成果の定義」が難しい
・成果主義は「短期志向」になる
・成果主義は「社内の雰囲気」を悪くする

とのこと。

 

なるほど、と思う。

しかし、よく聴くと彼らが嫌がっているのは、実はすべて「成果主義」ではない。彼らが忌避しているのは、実は成果主義人事制度」だ。

そうだ、彼らは会社が成果主義であることが嫌なのではなく、成果主義人事制度がイヤだ、ということなのだ。

要は、会社は成果主義で運営されるべき。でも、人事は成果主義ではない方法で運営されるべきである、と多くの人が主張する。

 

 

ということは、問題の根本は、「成果は果たしてだれの手柄なのか?」である。

会社の成果が、誰のおかげかわからないから、「成果主義人事制度」が使いものにならないのである。

 

「いや、営業みたいな職はだれの手柄かわかりやすいよ?」という方もいる。

しかし。営業が成果をあげることができるのは、商品を開発した人のおかげかもしれないし、一生懸命社内で事務をやってくれている方のおかげかもしれない。

一緒に飲みに行って、愚痴を聞いてくれる同僚のおかげかもしれないし、上司の指導の賜物、という可能性もある。

「手柄がだれのものか」は、実はものすごくわかりにくい。(そして手柄を主張すると嫌われる)

 

したがって、よく「人は金では動かないから」という理由で成果主義人事制度を批判する人がいるが、それは全くの的外れである。

成果主義人事制度の真の課題は「だれのお陰で成果があがったのかが極めてわかりにくい」ところにある。

 

つまり、成果主義人事制度は「会社の成果が、だれの手柄なのかはっきりわからない時」には、採用してはならない。

大モメになることうけあいである。

逆に、「会社の成果が、だれの手柄なのかがはっきりわかる」時には、逆に即時採用すべき制度となる。

人事評価が恐ろしく簡単になる。

 

こう考えると、「古き良き日本の会社」で成果主義が嫌われる理由がよく分かる。

なぜなら、二〇世紀までの会社の仕事は一般的に「一人の天才」によって成果があまり大きく変わる世界ではなく、「皆で協力してやる」ことが重要だったからだ。

逆にそう言った世界では、天才=出る杭は、叩かれた。

青色LEDの発明者である中村修二氏が会社と報酬について争ったことは、たまたま「一人の天才」が会社に存在してしまったことの悲劇である。

 

しかし、である。

現代の知識集約的な産業は、「突出した才能」を必要とするようになってきている。

Googleにしろ、マイクロソフトにしろ、Appleにしろ、ITやその他、高度なテクノロジーの世界では、突出した小集団の才能が生み出す成果が、他の大集団が生み出す成果を圧倒することがしばしばある。

つまり、現代は仕事の質が変化したのである。

 

「大多数の平凡」が生み出す成果が、「突出した少数の才能」の生み出す成果に凌駕されてしまう。

例えば、いままでは、評価の分布が

A評価 100人 B評価 200人 C評価 600人 D評価100人

といった、緩やかな分布だったところが、

SS評価 20人 C評価 1000人 D評価 50人

となってしまったのだ。

Googleの人事はこれをよく理解している。

平均的な能力の人々がつくる大集団が強い影響力を振るうわけではない……きわめて優れた能力を持つ一部の小集団が圧倒的な業績を上げることで、影響力を振るうのだ*1

実際、知識労働やクリエイティブな分野の仕事において、人間のパフォーマンスは、正規分布ではない。べき分布に従う。いずれも「時間をかければできる」という性質の仕事ではないからだ。

・研究者の66%は、専門誌に掲載された論文数が平均を下回る。

・エミー賞にノミネートされた俳優の84%は、通算ノミネート回数が平均を下回る。

・米下院議員の68%は、在任期数が平均を下回る。

・NBA選手の71%は、得点数が平均を下回る

超優秀な人のパフォーマンスは大多数の人を遥かに大きく上回るため、平均を中央値から大幅に引き上げるのだ。

 

したがって、知識労働がすべての人に求められる現代においては「圧倒的な成功」を目指さなければ、あとは「普通」があるのみなのだ。

この「成果の偏った世界」が、本質的には年功序列を崩し、「成果しか見ない」というリモートワークを推し進め、労働者の2極化を推進する原動力である。

 

だが、クラシカルな既存の大半の企業はこう言った制度を望まないだろう。

なぜなら「普通の人」が圧倒的多数で構成されているからだ。彼らは社内に「天才的な集団」の存在を望まない。

 

そしてその結果、企業は「普通のこと」しかできないし、先端分野で勝てる可能性は極めて低い。

彼らの仕組みは「突出した才能」を評価できない。偏差値と同じように「人のパフォーマンスは、正規分布」だと仮定しているからだ。

疑うなら、自社の人事評価制度を調べてみるといい。

 

だが、既に世界の潮流は異なる。

日本も「突出したパフォーマンスを重視」という流れに否応なしに巻き込まれるだろう。

いや、既に巻き込まれている。

 

それが、「知識」がビジネスを統べる世界の掟である。

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
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(2025/6/2更新)

 

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