著者はメシがめっちゃくちゃに好きである。美味しいものを食べることはもはや人生の一部であり、それはもはや呼吸をするのと同レベルの生きるにおいて当前の行為である。

 

先日、ふとしたキッカケから「何度も通いたくなるレストランというものはどういうものだろうか?」という事を考えるようになった。

当然だけど、何年もレストラン通いを続けていればそこには行きつけのお店と、一回で行くのをやめてしまうようなお店が出てきてしまう。

 

ビジネスにおいても非常に難しいのが、顧客の獲得方法だろう。企業は、お客さんがいるからこそ成り立つのであり、それこそ定期的にいい取引を行ってくれる”太い客”がいるかいないかは会社の生命線に強く影響する。

参考ながら僕が1月に通った新規レストラン数は5軒だったが、そのうち二回目も行こうと思えるようなレストランはたったの1軒だった。どれもこれも世間的な評価は割と高いお店ばかりだったが、それでも生存率はたったの20%である。

 

というわけで今回は、何度も通いたくなるレストランについての考察を書いていくことにする。キーワードは中毒性と変化だ。

 

美味しい料理には二種類ある

思うに世の中の美味しいものには二種類ある。

1つが完璧な料理。もう1つは不安定な料理である。

前者の代表例がマクドナルドのポテトだとすると、後者の代表例が頑固おやじが作るこだわりのラーメン(スープの出来が悪いと店を開かないとかそういう系のお店)のようなものである。

 

マクドナルドのポテトはいつ食べても同じ味がする。あれは完璧に調和が取れた料理である。

どこの店舗が美味しいとかそういったものはない。非常に安定している。だけど、そこに伸びしろは存在しない。今日のポテトはやけに旨いなぁという事はほぼありえない。つまりあれは完璧な料理なのである。

 

それに対して頑固おやじが作るラーメンは同じ姿かたちをしていても、日によって全然出来が違ったりする。

ビックリするぐらいアレ?というような一杯が出てくる日もあれば、今日のラーメンは神がかっている、という日もある。マクドナルドのポテトと違って、そこには出来不出来が存在する。不安定な料理なのである。

 

マクドナルドのポテトのような完璧な料理の場合、基本的にリピート客をつける戦略でいちばん大切なのは中毒性である。あなたも「何だか今日は凄くチョコレートが食べたいなぁ」とか「無性にカレーライスが食べたい」みたいな渇望感を感じることがあるかと思う。

 

不思議な事に炭水化物+脂質の暴力的な配合に濃いめの味付けを加える事により、ある種の料理は突然中毒性を帯びる事がある。

例えばラーメン二郎、家系ラーメン(+白米)、牛丼なんかがそうだ。近年流行りのパンケーキブームも恐らくこの中毒性が配合されているのだろう。

 

この中毒性を帯びた料理の非常に強いところは、定期的に食べたくなるという点にある。カレーライスを一日中食べてたらどんな人でもさすがに飽きるとは思うのだけど、一ヶ月ぐらいすると急にまた食べたくなってきたりする。そこには客を掴んで話さない、強靭な粘着力がある。

 

さてもう1つの不安定な料理についてだが、これは客単価が一人あたり5000円を超えるようなちょっとした高級な料理店で必要とされるリピート要素である。

これらの店では中毒性を料理に組み込むことは非常に困難である。なぜか?それは炭水化物を多用できないからだ。

 

中毒料理は基本的にはジャンクフード的な性質を有する事が多い。濃いめの味付け+炭水化物+脂質という組み合わせは、丼物だとか麺類、パンケーキのようなものだからこそ成立する要素である。

 

例えばフランス料理屋に出かけてガツンとした丼物が出てきたりだとか、サラミが挟まれたでかいバゲットが出てきたりだとかは基本的にはありえない。これらの料理店では炭水化物は端にちょこっと添えられるぐらいが関の山である。

炭水化物は腹が膨れるので、ゆっくりと食事を楽しみたいような空間では量を出すのはNGなのである。

 

客単価が高いレストランでは、当然と言うかお店の味のレベルが一定以上である事が求められる。5000円払って不味かったりしたら、当然だけど二回目はない。味やサービスが二回目にお店を訪れてもらえるかどうかの試金石としてまず重要である。

 

美味しいからといって、リピートするわけではない

だけど味が美味しいからそのレストランに何度も何度も通うかというと、そうでもないのである。

僕は2軒ばかし完璧に旨すぎるレストランというものを知っている。この2軒の味のレベルはレストラン同業者の間でも非常に高いことで知られているのだけど、不思議な事に予約が非常に取りやすい事でも有名なお店であった。

 

「美味しいのに予約が取りやすいってどういうことなんだ?」と不思議に思い、その後この2軒に何回か通ってみたのだけど、2回、3回と数を重ねるごとに僕も自然と脚が遠のくようになってしまった。

何故か?それはそのお店の料理に飽きてしまったからである。

 

これらの2軒のレストランの料理で頼む料理はどれもこれもそのお店の味がするのである。頼む料理の種類を替えても、根底にある”そのお店の味”が常にどの皿にも付きまとうので、何を食べても似たような味を感じてしまうのである。

 

とはいえこれはある程度の事はどのレストランにもいえる事だ。レストランごとの固有の味付けというものは、どのお店にも一定数存在する。重要なのは、そのレストランで出される料理にブレがなさすぎる事だろう。

 

驚くことに、先に例にあげた旨すぎる2軒のレストランは、いつ行っても同じような完成度の皿が出てくるのである。出来が悪い皿が出て来る事もないのだけど、突き抜けて旨い皿が出てくる事もない。

常に80点の皿が粛々と出されるのである。確かにそれは旨いのだ。だけど完成度が高すぎるが故に、そこには味のブレが全くない。それ故に何度も食べると”飽きる”のだ。

 

思うにこれは非常に不幸なことである。常に80点の皿を出し続けるという事は、普通の料理人にはまずできる事ではない。料理は一瞬一瞬が勝負であり、昨日作った皿と今日作った皿との間には当然のごとく出来不出来があるのが普通だ。

 

それがレベルが高すぎるが故に、同じような味付けの料理を出す事が可能だという事が、悲しいことに提供される皿に”飽き”を作ってしまうのである。

そしてこの飽きはお店に再び通いたくなるかどうかに非常に強い作用をもたらす。

 

例えば冒頭に例としてあげた頑固おやじが作るラーメン屋、このお店はスープの出来に非常にブレがあり、そこに当たりとハズレがあるからこそエンタメ性があって何故か通いたくなってしまう。

けどこのお店のスープの味が常に一定だったとしたら、果たして自分は通うだろうか?恐らくすぐ飽きて行かなくなってしまうだろう。

 

カレーライスやマクドナルドのポテト、チョコレートのような食べ物は、同じ味である事が求められる。

僕たちはあの味が食べたくて、それらを買い求める。中毒性がある食べ物は不思議な事に飽きない。カレーはいつどこで食べてもカレーであり、チョコレートはいつどこで食べてもチョコレートである。これらは同じ味である事が、リピートの原因として非常に強い正の相関性がある。

 

一方、中毒性を演出できない料理の場合、同じ味である事は非常に強い負の相関因子である。

中毒性がない料理において、我々が飽きる速度は驚くほど早い。飽きないためには”変化”が必要だ。逆にいえば訪れる度になんらかの”変化”があれば、私たちはそのレストランに何度でも通うだろう。”変化”は飽きの対極にあるものだからだ。

 

追求すべきは「中毒性」か「変化」か

このことから何が学べるだろうか、最後にちょっと無理矢理だけどビジネスに関連付けて文章を締めくくろうかと思う。

 

私達の生活において、強い中毒性がある産業はなにかといえばインフラ産業だろう。車や電車がなかったり、ガスや電気がない生活というものは現代社会ではありえない。

そしてそれらは、当然のごとく安定性が求められている。今日はエアコンが動かないとか、コンロの火の勢いがいいだなんて事は、日常生活では全く求められることがない。

 

逆に中毒性ではなく、変化を求められるものはエンタメ類だ。漫画は常に新しい名作が求められ続けているし、1つの作品中でも同じような展開が続くとすぐに飽きてしまう。

物語における王道パターンだとか、お約束のような要素は当然あるけども、それをどういう風に異なる切り口で見せつけるかが、エンタメを製作するプロの腕の見せ所だろう。やっぱり漫画とか映画で大切なのは、安定ではなくワクワクとドキドキである。

 

このように、ビジネスにおいて最大の目的である”継続した顧客の獲得方法”は分野が違うことで追い求めるものが全く変わってしまう。あなたの所属する分野でも、きっとなんらかの中毒性とか変化を一部に組み込む事は可能だろう。そこに新しい可能性が隠れているかもしれない。

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

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(StateofIsrael)