理化学研究所の小保方氏らが発見したとされるSTAP細胞であるが、どうやら「捏造ではないか」との見方が大勢である。
加えて、小保方氏の博士論文についても他の研究者の論文をそのままコピーしたものであるとの疑惑があり、「大発見」から一転して「インチキ」と、糾弾は免れない模様だ。
さて、これが事実であれば当然、彼女は研究者生命を絶たれるわけだが、一つ「おかしい」と思うことがある。
研究者の発表する論文は重要性が高ければ高いほど、「再現実験」を試みられることになる。
特に、今回の発表はメカニズムがわかっていなかったので、「なぜこういったことが起きるのか」について、さまざまな検証が行われる。
もちろん、膨大な数の論文があるので、すべて検証されるわけではない。中にはこの研究と同じように「限りなく黒い」ような論文も含まれているだろう。
しかし、今回の論文の発表は「ノーベル賞級」と目されるほどの発見だった。再現実験が行われることは明らかである。
したがって、普通の頭で考えれば、これほど重要な発見であれば、「インチキはすぐにバレる」と思うはずである。
博士論文は注目度が低いのでコピペでもバレなかったかもしれない。
が、今回の論文は世界中が注目する。遅かれ早かれ不正が存在すればそれは明るみに出る。「捏造する」と言うのはちょっと考えれば明らかに不合理だ。
■
では一体、人はなぜ、すぐにバレるような不正をするのだろうか。
実は昔、ある会社で「すぐにバレる不正」を見たことがある。
ある営業が、「受注した」と言って受注の手続きを取った。しかし、実際にはそれは架空のもので、実際には契約に至らず、営業は「キャンセルになった」と言う。
しかし調査の結果、顧客は「発注した事実はない」と延べ、営業の不正が発覚した。
「ちょっと考えれば、すぐにバレることがわかる」にも関わらず、営業は虚偽の報告を行ったのである。
■
俯瞰してみると今回の小保方氏の件と、上の営業の件は様々な部分が酷似している。
1.短期的に、高い成果を求められること
理化学研究所のある研究室の募集要項を見ると以下のようになっている。
基礎科学特別研究員(常勤)
理化学研究所独自のポスドク制度で、毎年募集を行ないます。日本学術振興会の特別研究員(PD)のようなものです。概要は、
- 自ら設定した研究課題を自主的に遂行
- 1年契約(所要の評価を経て最長3年間を限度として更新可)
理化学研究所の評価は非常に厳しく、1年毎に研究の評価が行われ、基準に達していなければクビになる。「1年で高い成果を出せ」というわけだ。
当たり前だが、このような状況でも不正を行わない人のほうが圧倒的多数である。だが、「短期的な成果を出すことのプレッシャー」は、不正の温床となりやすい。
特に、「上司に怒られる」「クビになる」と言った極めて不快な状況が予想される場合には、人は「その場しのぎ」の行動に走りやすい。「わかっちゃいるけどやめられない」というやつだ。
2.チェック機能が機能不全であること
営業が受注した時には通常、会社は顧客に契約を一つ一つ確認したりはしない。手間もかかるし、社員を疑うようなことはしたくないからだ。
研究所では研究の内容についてのチェック体制がどうなっているのかは分からないが、少なくとも早稲田大学はコピペをチェックしていなかったようだ。理化学研究所も同様なのだろうか。
いずれにせよ、「誰も見ていない」時には、魔が差すことはあるかもしれない。
「性善説」を唱えた孟子が言うように、「人は、様々な誘惑によって、倫理的な行動を取れなくなる」のだ。
調べられれば直ぐにバレてしまうようなことも、チェックが甘いと「もしかしてバレずに行けるのでは」と人に思わせてしまう。
もちろん不正を行う人はごく一部である。
しかし、「不正をさせないような仕組み」がない場所においては、誘惑に勝てない人がいるのもまた事実である。
お互いのためにも、最低限のチェック機能、そして、成果を急ぎ過ぎないことは、不正を防ぐ上で非常に重要だ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)