最近、医療の世界でも、人工知能(AI)に関する話を聞くことが増えてきました。

 

僕は内科なのですが、他科の医師と飲み会などで、「医療用AIが進化していったら、最後に残るのは、どの科になるだろう?」なんてことを話す機会が何度かあったんですよね。

放射線科の医師は「画像診断については、AIに早晩追い抜かれてしまうのではないか」と心配していましたし、外科医は「疲れを知らず、トイレにも行かなくてすむロボットによる手術」なんて技術ができたら、人間の医者じゃ太刀打ちできないな」と言いつつも、「停電とか、何かミスが起こった場合の責任はどうなるのかわからないけど」と。

 

内科に関しては、夜中に「昼間に薬をもらいに来ることができなかったから、いま貰いにきた」なんていう、いわゆる「コンビニ受診」の患者さんをAIが診てくれたら、どんなにラクになるだろう、AIは寝不足でも文句一つ言わないだろうし!なんて言うのですが、考えてみれば、本当にそうなったら、仕事はかなりラクになる一方で、仕事の全体量も減るはずで、失業の危機に陥ってしまいます。

 

将棋の世界でみられたように、AIはものすごいスピードで進化しているので、近い将来、名医の診断能力もAIに抜き去られる日がやってくるかもしれません。

いや、その日がやってくるのは明らかで、あとは、それがいつになるかです。人間の名医とヤブ医者なんて、AIの圧倒的な能力に比べたら似たようなもの、になってしまうかもしれませんね。

 そんなことを思うと、いまの若い人が「医者になりたいんです」というのを聞くたびに、ちょっと心配になるのです。

 

それでも、医療というのは、高度な知的労働であり、AIやロボットに置き換えられるのは、これまでの「人間の仕事」のなかでは、かなり遅いほうではないか、と思っていたんですよ、身贔屓なのかもしれませんけど。

先日、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』 (鈴木貴博著・講談社新書)という本を読んだのですが、そのなかに、こんな話が出てきたのです。

2025年には世界中でタクシードライバーや長距離トラックのドライバーの仕事が消滅する。セルフドライビングカー、つまり完全自動で運転が行われる自動車の登場がその原因だ。日本国内ではこれによる消失する仕事は123万人の雇用に相当する。

同じ頃、デイトレーダーの仕事は絶滅する。株式のトレードでもFXのトレードでも人間はAIに勝てなくなるからだ。金融機関でも人間のトレーダーはAIにとってのカモに堕ちていく。

 

2030年頃にはパラリーガルと呼ばれる弁護士助手の仕事、銀行の融資担当者、裁判官といった、主に「頭を使う専門家の仕事」がAIにとって代わられ消失する。

頭を使う専門家の仕事の最もたるものが学者である。2030年代を境に、ノーベル物理学賞はAIしか受賞できなくなるだろう。

 

2035年頃になるとAIは汎用的な思考ができるようになり、その結果、研究者やクリエイターといった仕事も消失していく。世界中の病院や医院では最終的な診断を下すのは医者ではなくAIになる。そして会社では判断や評価を下す管理職の仕事もいらなくなるだろう。

同じく2035年頃にはロボットの足と単純な手の性能が人間の能力に近づく。ロボットを導入することで倉庫の中の作業や宅配などの肉体労働の仕事の一部はロボットに移行していくだろう。

 

2045年から2050年頃にはいよいよ頭脳から指先の動きまで人間と同じ能力を持つロボットが実用化されるようになる。そしてそのようなAI搭載ロボットの価格が数百万円程度にまで下がったときには、人類の90%の仕事が失われることになる。

著者は、AIやロボットでは、「足」「脳」「腕」「顔」「指」の順に人間レベルの機能が完成していくだろうという、現時点での専門家の予測を紹介しています。

 

僕はずっと「ホワイトカラーの仕事のほうが機械に置き換えられるのに時間がかかる」と思い込んでいたのですが、実際は、指先の微妙な感覚(触っただけでものの種類や固さ、つかむのに適当な力などがわかる)のほうが、いまの機械にとっては「難易度が高い」のです。

 

たくさんの情報の効率的な処理や価値判断などは、むしろ、AIの得意分野ともいえます。

そして、「マックジョブ」のようなマニュアル通りの仕事のほうが、知的労働とされる専門職よりも、現状では安いコストで人を雇えるだけに、あえて機械に置き換えるメリットに乏しい、という面もあるのです。

飲食産業での人手不足の状況が慢性的になれば、そういうところからロボットが利用されるようになるかもしれませんが。

 

基本的に、医者のような人件費が高く、人を雇うのが難しい仕事ほど、機械に置き換えることのメリットは大きいのです。

近い将来、機械に置き換えるコストのほうが高くつくような単純作業だけが、人間に残されるのかもしれません。

 

「やりがいのある仕事」を奪ってしまうAIは。人間を本当に幸せにするのだろうか、と考え込んでしまいます。働く側の「やりがい」よりも、診断ミスの少ない医療や事故のない運転のほうが大事ではあるのだとしても。

 

僕は学生時代に、「太平洋戦争前、花形だった石炭産業に就職した東大でトップクラスだった人たちが、エネルギーが石油に置き換わったことで苦労することになった」という話を聞きました。

放送局も、ラジオが主で、テレビには山師みたいな人たちが行っていた時代があるそうです。

 

いま小学生の僕の子どもたちは、将来、どんな仕事をすることになるのだろう、どんな仕事に「将来性がある」のだろう、と悩んでしまうんですよね。

もちろん、親が「この仕事がいいよ」なんて言う筋合いはないし、言うつもりもないのだけれど。

僕が子どもの頃にみていた「大人の仕事の世界」と、今は全然違っているし、何十年も先のことなんて、いまの想像どおりにいくわけもない。

 

正直、政治家とか、さっさとAIに置き換えてしまえばいいのに、なんて思うことも多いんですよね。

AIなら、不倫したり、秘書を罵倒したりしないだろうから。

 

 

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(2019/8/23更新)

 

【著者プロフィール】

著者;fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ;琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

 

(Photo:Christophe Becker)