先日ダイバーシティ推進の活動をされている方とお会いした。その方の言っていたことが印象的だったので、ここで紹介したい。

どういう内容かというと、

「何かメッセージを発信するときに『自分はこんなにつらい思いをしました』と言うと、聞いている人に罪悪感を抱かせてしまうから、できるだけ客観的に伝えるようにしている」

という話だった。

 

その方と話したのはセクシュアルマイノリティの人たちが集まる場だったので、LGBTの講演や研修での伝え方についての話題になり、どのような工夫をされているのか教えていただいた。

 

マイノリティでも生きやすい社会になってほしいという話をするときに「今はこんな社会だから私はつらい思いをしました。変えていきましょう」という伝え方は、相手の態度の変容を目的とするならば、あまり得策ではない。

 

そもそも大半の人は悪意を持ってなんかいなくて、差別をしたいなんてこれっぽっちも思っていない。マイノリティでも生きやすい社会になってほしいということを否定する人はほとんどいないだろう。

さらに講演を聴いたり研修を受けたりする人は、何かしなければと思っている、興味を持っている人たちであり、悪意がないどころか善意で溢れる人たちである。

 

それなのに、「今のこの社会でつらい思いをしています」という伝え方をすると、聞いている人に罪悪感を抱かせてしまう。

なぜなら、聞いている人たちはその社会の構成員だからだ。

発信側に責める意図がなかったとしても、聞き手は悪いことをしているわけではないのに「その社会の一部を担ってごめんなさい」という気持ちになってしまう。

 

感情に訴えるのが有効なときもあるけれど、相手の態度の変容が目的なのに相手に罪悪感を抱かせても意味がない。

それよりは一歩引いて客観的に淡々と“現状”と“対策”を述べたほうが目的に合っているのではないか、と。

 

こんな内容だった。

 

この話を聞いて、私は“男女平等”についても同じことが言えるのではないかと思った。

男女平等を目指す“フェミニズム”という言葉をよく聞く。でも、この言葉はあまり良いイメージを持たれていない。それどころか、嫌悪感を示す人も多くいる。

 

女優のエマ・ワトソン氏が国連で語ったスピーチをご存知の方も多いだろう。彼女はスピーチの中で、「フェミニズム」が嫌悪される言葉になってしまったと話している。

私は自分をフェミニストであると認識するようになりました。そして、これはとても自然なことに思えました。しかし、どうやら「フェミニズム」とは死語のようです。自身をフェミニストである、と認識する女性の数がどんどん減っています。

当然、私は「強すぎる、攻撃的すぎる、権利を求めて騒ぎすぎる、そして男嫌いな魅力的ではないフェミニスト」な女として疎まれる種類の女性の1人となります。

なぜ「フェミニズム」はこれほどにも嫌悪される言葉になってしまったのでしょうか?

http://logmi.jp/23710

「なぜ『フェミニズム』はこれほどにも嫌悪される言葉になってしまったのでしょうか?」

エマ・ワトソン氏のこの問いかけに、皆さんならどう答えるだろう。

 

おそらく答えは1つではなく複合的だ。

そのうちの1つが、先程のマイノリティの話に出てきた“罪悪感”ではないかと思う。

マイノリティが平等ではない社会について言及すると、それはマジョリティを責めている構造になりやすい。なぜならマジョリティは不平等な社会の構成員だからだ。

それは構造的に仕方ないことだと思う。ただ、発信する側にその意図がなくても受け手がそう受け止めてしまう以上、この点はかなり注意して発信しないと真意が歪んで伝わってしまう。

 

男女平等も同じで、男VS.女という構造になってしまいがちなのは、たとえば女性が女性にとって生きにくい社会である、不平等であると主張すると、それは女性以外の人、つまり男性側に問題があると受け止められてしまい、男性を責めているような伝わり方をしてしまうからだ。

逆も然りで、男性が男性にとって生きにくい社会である、不平等であると主張すると、男性以外の人=女性が責められているように感じてしまう。

 

多くの人はそれぞれの性に生きづらさがあることは理解しているはずだ。決して不平等を望んでいるわけではない。

ただ、同じゴールを目指しているのに、双方が居心地の悪さを感じている。それが現状だ。

 

だからあくまでも客観的に、「理想を共有する」「現状を正確に捉える」「問題点を洗い出す」「理想に近づくための対策を提示する」ということを感情抜きに伝えた方が双方にとって気持ちが良く、不快感なく行動に移せるのではないか。

 

誰だって「あなたが悪い」「早く改善して」と言われたらカチンときて反発したくなるだろう。

感情に訴えるのは時にものすごい威力を発揮する。同情してもらう、罪悪感を抱かせる、といったアプローチが有効なことも多々あって、それも戦略の1つだ。

でも、相手の態度の変容を狙ったとき、必ずしもそれがベストな方法だとは限らない。むしろ客観的に淡々と伝えるほうが受け入れてもらいやすいこともある。

そんなことを学んだ。

 

マイノリティやフェミニズムに限らず、何かメッセージを伝えたい、伝えなければならないという場面は仕事やプライベートにおいて誰しも経験することだ。

その際の伝え方1つで相手の受け止め方はかなり変わってくる。

とりわけネット上においてはむしろ過激なことを言ったほうが拡散されやすいという側面もあり、より多くの人に届けたいという場合はあえて感情を利用する戦略を取ったほうが賢いのかもしれない。

 

ただ、どうせ伝えるなら気持ちよく伝えたい、と私は思う。メッセージに触れた人に気持ちよく受け止めてもらいたい。そのほうが、建設的な意見が飛び交って、結果的にメッセージが活きるのではないか。私はまだまだ勉強中だけど、少しでも良い伝わり方をする発信を心がけたい。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
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参加費:無料
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(2025/6/2更新)

 

【著者プロフィール】

名前: きゅうり(矢野 友理)

2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。

【著書】

「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)

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(Photo:Thomas Hawk