最近、『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』(山本昌作著/ダイヤモンド社)という本を読んだのです。

ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所

ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所

  • 山本 昌作
  • ダイヤモンド社
  • 価格¥1,465(2025/08/15 10:03時点)
  • 発売日2018/07/19
  • 商品ランキング121,726位

HILLTOP株式会社(以下、ヒルトップ)は、1961年創業の「山本精工所」を前身としています。

もともと、自動車メーカーの孫請けだった油まみれの鉄工所が、著者たちの試行錯誤のすえに、「多品種単品のアルミ加工メーカー」になったのです。

 

この本の最初に載っている本社工場のカラー写真をみて、僕は驚きました。

えっ、これ、本当に「鉄工所」なの?

明るい色調の機能的できれいなオフィスに、ピンクや紫、オレンジの柱にピカピカの床のゆったりとした清潔な工場。

この本では、どのようにして、ヒルトップは変わっていったのか、そして、何を目指しているのかが熱く語られています。

 

日本は、人口が減っていく時代を迎えており、高度成長期のような大量生産のニーズは少なくなっています。

そこで、ヒルトップでは、大量生産品(量産部品)の扱いをやめ、単品ものに特化したのです。

精密機械、医療機器、航空機部品、自転車部品、マイクスタンドなど、アルミ加工製品なら、どんなものでも単品、少量で加工しています。

 

現状は、製作数1~2個の多品種単品が受注全体の8割、月に3000種類をオーダーメイドでつくっているそうです。

それで商売になるのか?と思うのですが、ヒルトップでは、徹底的な生産プロセスの合理化を行って、収益をあげられるシステムをつくっています。

普通の鉄工所の場合、就業時間の8割が機械の前、2割がデスク仕事ですが、ヒルトップではこの割合を逆にしました。昼間は、デスクで人がプログラムをつくる。人が帰った夜中に、機械に働いてもらいます。

これが、私たちが「ヒルトップ・システム」と呼ぶ生産管理システムです。

ヒルトップでは、ひとりの職人の勘に頼るのではなく、技術をデータベース化して、誰でも工作機械を使えるような「システムの構築」で仕事を極限まで効率化しているのです。

 

もちろん、ここに至るまでには紆余曲折があって、最初に自動車メーカーの孫請けをやめたときには、「それで会社を続けていけるのか?」という不安や周囲の反発もあったそうです。

いままでどおりにやっていけば、とりあえず、しばらくは安泰なのに、と。

 

そこで、儲かりそうもないような「多品種単品生産」に目を向けたことが、ヒルトップの成功につながりました。

他のメーカーが「そんな小さな仕事は、いちいちやっていられない」と思うようなところに、ヒルトップは可能性を見出したのです。

商売上の魅力というよりは、「ずっと同じものを作り続けるのは面白くないから、新しいものにチャレンジしていきたい」という思いがあったそうです。

 

この会社のすごいところは、目先の利益よりも、新しいこと、面白そうなことをやっていきながら、それを結果的に仕事にもつなげていることなのです。

この本を読んでいると、「これからの製造業」というものについて、すごく考えさせられます。

町工場に、完成品(見本となる製品)を見せ、「この製品と同じものをつくってほしいのですが、できますか?」と訊くと、たいていは「できる」と前向きな返事が返ってきます。

しかし、「では、お願いします」と完成品だけを置いていこうとすると、途端に顔色が曇る。「いやいや、これを置いていかれても困ります。図面をください」と。

町工場の多くは、図面があるものはつくれるけれど、図面がないものはつくれないので、完成品よりも図面をほしがります。

しかし、ヒルトップは違います。

図面も完成品も、どちらもいりません。

「こんな感じのものがつくりたい」「こんなことを考えている」「もっと、こうなってほしい」というイメージだけで十分です。

ヒルトップは、依頼されたものだけでなく、みずからが知恵を出しながら、新しいものを創造する。我々が目指しているのは、「サポーティング・インダストリー」であり、自立した会社として、脱下請・脱価格競争を推進することです。

製造業の最終目的は「ものをつくること」ではありません。

これからの製造業は「製造サービス業」でないと生き残れません。なぜなら、「ものづくりをしない製造業」が生まれる可能性があるからです。

ヒルトップでは、お客様の困りごとを解決するため、オーダーメイドの商品開発を展開しています。

上流(ヒアリング・構想デザイン)から、下流(稼働・アフターケア)まで全工程にわたってすべて対応する、極めてめずらしい鉄工所なのです。

「ものづくりをしない製造業」って、ものすごく矛盾している言葉のような気がするのですが、これを読んで、僕はこのエントリを思い出したのです。

今の時代、「ふわっとした仕事を具体的なタスクに落とし込むスキル」だけで十分食えると思う(Books&Apps 2018/7/6)

 

「設計図通りにものを作る」仕事であれば、これからは、ロボットやAIのほうが、人間よりずっと「良い仕事」をするはずです。

ロボットやAIは、夜中ずっと働いていても、文句ひとつ言わないし。

 

そんななかで、人間がロボットに勝てるのは、あるいは、製造業どうしで他社と差別化できる、という分野は、こういう「漠然としたイメージを形にする仕事」ではないかと思うのです。

こういう仕事って、よほど大きな規模の注文でなければ、「まずはデザイナーや設計士に依頼して設計図をつくってから来て」って、ほとんどの製造メーカーでは門前払いされるでしょう。

「設計図ができてからがうちの仕事だよ」って。

 

だからこそ、ヒルトップに「やりたいことがあるのだけれど、どうしていいのかわからない」という人や会社から、仕事が集まってくるのです。

 

これからの製造業で生き残る道は、誰かの「こんな感じのものがつくりたい」を簡単かつ的確に実現することにあるのではないでしょうか。

 

僕はこれを読んで、すごく「腑に落ちた」気がしました。

ああ、こういうことをずっと前からやっていた人が、スティーブ・ジョブズだったんだな、って。

 

【お知らせ】
広告の終わりに備えよ──“読む価値”をつくる企業になるために
ティネクトが提案するAI時代のコンテンツ戦略とそれをどのようにマーケティングに活用するかを語る特別セミナーです。

セミナーバナー

▶ お申し込みはこちら


【開催概要】
・開催日:2025年8月27日(水)
・時間:15:00〜16:30(60分講義+15分質疑応答)
・形式:オンライン(Zoom)
・参加費:無料(事前登録制)

【こんな方におすすめ】
・広告の費用対効果が年々悪化していると感じている企業経営者・マーケティング責任者
・コンテンツマーケティングに何度も挑戦したが、うまくいかなかった広報・編集担当者
・自社に合ったAI活用×発信体制のヒントが欲しい事業責任者

【セミナー内容】
・第1部:広告依存から脱却するために、企業が持つべき“読む価値”とは(登壇:倉墳 京平)
・第2部:生成AIで変わる、質と量を両立したコンテンツマーケティングの実際(登壇:安達 裕哉)
・第3部:“読まれる”だけで終わらせない。エビデンスが信頼性を支える(登壇:桃野 泰徳)
・質疑応答(参加者の質問にその場で登壇者が回答)

【登壇者】
・倉墳 京平(ティネクト株式会社 マーケティング責任者)
・安達 裕哉(ティネクト株式会社 代表取締役)
・桃野 泰徳(ティネクト株式会社 編集責任者/取締役CFO)


【お申込み・詳細】
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください

(2025/8/5更新)

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

(Photo:Asian Development Bank