Books&Appsの読者の皆さんは、ソーシャルゲームを遊んでいますか?

ここの読者さんは多種多様なので、「そういう時間とお金の無駄になるゲームはやっていません」という人もいらっしゃるでしょうし、「毎日やってます! 課金してガチャ回してます!」という人もいらっしゃるのではないかと推察しています。

 

世間一般のソーシャルゲームに対する目線は、必ずしも良いものとは思えません。

大量課金問題や射幸性を煽るガチャの問題が取り沙汰されていますし、「ネット依存」「ゲーム依存」といった文脈でも語られることが多いため、下等な遊びだと思っている人も多いのではないでしょうか。

人間は、自他の行いに上等・中等・下等といったヒエラルキーをつけたがる生き物なので、なにかと短所が話題になりがちなソーシャルゲームを下等な遊びとみる向きがあること自体は、不思議なことではないと私は思っています。

 

ところで、ソーシャルゲームは本当に下等な遊びなのでしょうか。

世の中にはたくさんの遊びがあり、評価の仕方や価値観次第で、上等~下等のさまざまな順位づけができます。

しかし、「頭を使う」だとか「計画性や効率性を重視する」だとか、そういう理性が深く関与する遊びを上等とみなすなら、ソーシャルゲームはなまじっかの遊びよりも上等で、いわば「現代人ならではの高等遊戯」ではないかと思えるのです。以下、ちょっと例を挙げながら紹介していきます。

 

ソーシャルゲームは、リソース管理をプレイヤーに要求する

まったくプレイしたことのない人が想像するソーシャルゲームのイメージは、「たくさん課金してガチャを回す、ギャンブルのようなゲーム」といったものかもしれません。

実際、レア度の高いキャラクターやアイテムを手に入れるには運任せなガチャを回す必要があり、そこに大量課金しているプレイヤーも少なくないわけですから、ソーシャルゲームの一面として、課金とガチャを無視することはできません。

 

反面、ガチャを回していない残りの大半の時間に関しては、ソーシャルゲームは、ギャンブルよりも仕事に似ています。

これは、私が今遊んでいるソーシャルゲームのターミナル画面のものですが、オレンジの楕円で囲った「AP」というバーに注目してください。このバーはゲームをプレイするほど減っていき、ゼロになるとゲームが遊べなくなってしまいます。

一方、時間が経つにつれて「AP」バーは少しずつ回復していき、たとえば12時間ほど放置しておけば満タンになります。

こういうゲームシステムは他のソーシャルゲームでもしばしばみられるもので、その性質から、「スタミナ」などと呼ばれていることもままあります。

 

「AP」にしろ「スタミナ」にしろ、時間がボトルネックになる有限のリソースですから、ゲームを上手に進行させたければ相応にマネジメントしていく必要があります。

重要性の高いミッションやバトルに「AP」や「スタミナ」を費やすのは合理的ですが、無為無策に使い果たしてしまうと肝心な場面でゲームが停止状態になってしまうわけです。

 

このようなゲームシステムなので、スケジュールをマネジメントできるか否かはソーシャルゲームの巧拙に直結します。

朝、出勤前や通学前に「AP」や「スタミナ」を短時間に使い切っておいて、夜、自宅に帰ってから時間のかかるミッションをゆっくりと消化する……といった“やりくり”ができるか否かによって、ゲームの進捗はだいぶ変わってしまいます。

加えて、多くのソーシャルゲームでは、キャラクターを強化するにもリソース管理のノウハウが問われます。

これも私が遊んでいるソーシャルゲームのキャラクター強化画面のものですが、このように、キャラクターを強化するには特定のアイテム(ここでは宝石マークと骨マーク)を揃える必要があります。

骨マークのアイテムが赤字になっているのは、強化に必要なアイテム数が足りていないということで、このように管理不行届の場合は、キャラクターが強化できなくなってしまいます。

 

ソーシャルゲームは効率性をプレイヤーに要求する

こうしたゲームシステムを反映として、多くのソーシャルゲームプレイヤーは、時間を有効活用すること・アイテムを効率的に獲得し管理することに心を砕いています。

 

その結果、プレイヤーが辿り着く先は「効率性」です。

いかに効率的に「AP」や「スタミナ」を使うのか。

いかに短い時間でたくさんのアイテムを獲得するのか。

いかに自分の生活リズムとゲームのプレイスタイルを適合させるか。

 

時間やアイテムをリソースとみなし、マネジメントしにかかる限りにおいて、結局は効率性の鬼になるしかない──ネットスラングで言うところの“効率厨”になるしかない──のです。

 

この手のゲームに慣れたプレイヤーはほぼ例外なく、とにかく効率的にゲームを遊ぼうとします。

ゲームに飽きてきた場合でさえ、「ログインボーナスだけは貰っておく」といったかたちで、効率性重視の姿勢は改めません。

 

こうした効率性の意識はプレイヤー側が持っていると同時に、ゲーム運営側もよく心得ているところで、どちらが最初に効率化を促したのかは判然としません。

ただ、多くのソーシャルゲームの仕様とプレイヤーの実態をみる限り、ソーシャルゲームの本態は効率性を追求するゲームであり、時間やリソースをマネジメントするゲームである、と言っても過言ではないでしょう。

 

ソーシャルゲームには「管理者ごっこ」「経営者ごっこ」の側面があって、それらがプレイヤーの課題になっている、と言い直しても良いかもしれません。

 

「仕事の息抜きも仕事」という喜劇

さて、そんなソーシャルゲームも少しずつ市民権を獲得し、おじさんやおばさんが電車のなかで遊んでいる姿もしばしば見かけるようになりました。

かくいう私も喜んで遊んでいるわけですが、ときどき、何かおかしなことをやっているなぁ……と思ってしまうことがあります。

 

というのも、ソーシャルゲームの「管理者ごっこ」「経営者ごっこ」とは、とどのつまり、サラリーマンが職場でやっていることと大同小異のように思えるからです。

 

現代社会のホワイトカラーな労働者は、スケジュール管理やリソース管理と無縁ではいられません。管理職なら、とりわけそうでしょう。

そうでなくても、いわゆるセルフ・マネジメントと無縁でいられる現代人などそうそういるものではありません。

 

だとしたら、仕事でやっているのと大同小異なタスクを、わざわざゲームの世界でも繰り返しているソーシャルゲームプレイヤーとは、いったいなんなのでしょう?

仕事でくたびれているサラリーマンが、息抜きと称してソーシャルゲームを隙間時間に起動させて、そこでもギリギリまで効率性を突き詰めているのって、なんだか喜劇的だと思いませんか。

 

“現代人しぐさ”としてのソーシャルゲーム

遊びの内側まで効率性が追いかけてきているのに、それを拒絶するのでなく、喜々として受け入れ、やってのけているソーシャルゲームプレイヤーたちと私自身を振り返ると、「ああ、骨の髄まで効率性が染み込んでいるのだなぁ……」と嘆息したくなります。

 

効率性を追求する意識は、太古の昔から人類のコモンセンスだったわけではありません。

効率性が重視される資本主義社会ができあがる前の時代、あるいは時計というマネジメントの尺度が普及する前の人類は、効率性にそこまで魂を奪われてはいませんでした。

 

資本主義が広まりはじめ、時計の概念が定着しはじめた近世になってようやく、アーリーアダプターな人々が効率性を意識しはじめ、それに見合った意識や倫理をかたちづくっていきました。

彼らの意識や倫理は富裕なブルジョワ階級だけにはとどまらず、より広い範囲の階級や階層にも浸透していき……そして2018年の日本では、職場はもちろん、隙間時間のいじましいゲーム遊びにまで効率性の意識や倫理が浸透してきているわけです。

 

そういった意味では、今日のソーシャルゲームプレイヤーのありようは、まさに21世紀にふさわしいものと言えるでしょう。

効率性の意識や倫理が末端にまで行き届いた社会で、まさにその効率性にもとづいた遊びが人気を集め、ますます発展していくプロセスを、ソーシャルゲームをとおして私達はみているのではないでしょうか。

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

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(Photo:Yannick B. Gélinas