「もういいよ、わかったよ!」

そう言いたくなるほど見かける、「ヨーロッパではみんなふつうに1ヶ月バカンスに行くのに日本は休めないなんて!」という主張。

 

いやまぁ、気持ちはわかる。わたしがドイツのカフェで週2回のアルバイトをしていたとき、8日の有給休暇(1ヶ月)もらえたし。

 

でもそういう主張するのなら「なぜ休めるのか」についても考えたいよね!

ということで、ドイツが休める理由についてもちょっと言及しておこうと思う。

 

1ヶ月のバカンスに行くドイツと、有給消化率最下位の日本

エクスペディア・ジャパンの調査によると、日本の有給休暇支給日数は20日で取得率は50%、3年連続最下位である(ブラジル、フランス、スペインは30日の支給日数に対し取得率100%)。

一方ドイツは、フランクフルター・アルゲマイネによれば、有給休暇の平均支給日数は約28日。エクスペディアの同統計によるとドイツの有給休暇残日数はゼロだから、たしかに1ヶ月のバカンスもありうるわけだ。

 

「ドイツでは休めるけど、日本では休みづらい」

これはまぁ耳タコなほど聞くことだし実際そういう面はあるのだけれど、せっかくならその理由についてもかいておきたい。

 

有給休暇をとりまく日本とドイツのちがいには、3つの大きなちがいがある。

ドイツでは、とにかく「休み」は「休み」である。有給休暇中に病気になったら病欠扱いになり有給消化にはカウントされないし、『欧米の「つながらない権利」が徹底していてすごかった。』という記事でも書いたが、最近では「休暇中なのでメールは自動的に消去されます」なんてことも増えてきた。

休まない=偉い、ではなく、休んでメリハリを、という価値観だ。

 

そして、『労働者の権利への意識のちがい』も大きい。

ドイツではしょっちゅうストライキが起こるし、契約書に書いていない仕事を任されたら拒否できる。

労働者の権利を守らない経営者はすぐ問題になるので、休暇はちゃんと取らせるのだ。

 

さらに、『客の意識のちがい』もある。

問い合わせても「担当者がバカンスで連絡が2週間後になる」とか、そもそも人がいなくて電話がつながらないとか、レストランが2週間閉まっているとか、そんなのばっかり。

でもそれはお互い様だし、怒ったところで「すみませんすぐに対応いたします!」とはならないので、客は「まぁ待つしかないよね」と割り切る。

 

まず大前提として、この3つのちがいは、たしかにある。

 

ドイツでは半年前から休暇申請をする

でももうひとつ、ドイツで長期休暇が取れる背景には、半年以上も前から申請して調整するという工夫があるのだ。

 

わたしは去年の3月ごろ、ドイツ人のパートナーと日本旅行を計画していた。

旅行の予定は10月か11月あたり。しかし彼が上司に聞いてみたら、3月の時点ですでに3人の同僚が10月、11月の休暇を申請して認められており、彼には旅行日の選択権がほとんどなかった。

 

わたしが経験したアルバイトでも同じだ。

10月、店長に「翌年の休暇希望は早く出して。早い者勝ちだから」と言われた。

 

「暖かくなったタイミングで一回日本に帰るかぁ」なんてぼんやり思っていたのだが、12月になるとすでにみんな翌年の休暇申請を終えており、わたしは空いているタイミングで休暇を取るしかなかった(それでも1ヶ月取れたけれど)。

 

先々月のクリスマス、彼の実家に帰省し、彼の家族に「4月に入籍して式を挙げる」と伝えたときもそうだ。

兄夫婦は「4月の前半の2週間はバカンスだから」とすでに休暇の予定があるとのこと。これまた4ヶ月先の話だが、すでに飛行機もホテルも全部予約しているらしい。

 

当然のことだが、数週間も職場を離れるのだから、いつでもどこでも好きなように休暇を取れるわけではない。

職場への負担が最小限になるよう、とにかく早く申請し、調整してもらった結果の長期休暇である。

 

仕事の予定に「休暇」が組み込まれている

正直、何ヶ月も前から「休暇予定を出せ」と言われても、「まだ予定がわからないしなぁ」と戸惑った。

日本であれば1ヶ月、せいぜい2ヶ月くらい前に申請することが多いと思う。

 

でもドイツでは、旅行の行き先や日数を踏まえてかなり早い段階で休みを申請し、認められたら安いうちに予約してしまうのが一般的だ。

そうすれば、直前になって「やっぱり出勤」はありえない。みんな半年以上も前にばっちり休暇予定を立てているのだから。

 

そして、「先のことだから休めるかわからない」ということもない。

仕事の予定が立つ前に休暇を予定に入れ込むので、それを前提として仕事の予定が組まれていく。ちなみにだれかが休暇中にさらに病人が出ると残業になることもあるが、そこもお互い様である。

 

さらに、あらかじめみんなの休暇の予定を立てているから、休暇を取らない、取れない人がいる、ということもあまり起こらない。

休暇スケジュールを見れば申請していない人は一目瞭然なので、上司は「休みの予定は?」と声をかける。

 

わたしのパートナーはあまりこだわりがないので、「結婚式らへんと、新婚旅行と、クリスマスあたりに取ります」と答えたらしい。

すると、「この日からこの日はアイツがいないから、そこ以外で頼むよ」となるわけだ。

 

仕事の合間を縫って休むのではなく、みんなの休暇をスケジューリングして仕事を割り振っていく。だから長期休暇も取れるのだ。

 

1ヶ月バカンスの裏にはそれを可能にする背景がある

とまぁこんな感じで、とにかく早く申請、その後調整をして、みんな休みを確保しているというのがドイツでの実感である。みんなが好き勝手なタイミングで好きなだけ休めるわけではない。

 

これを踏まえて、わたしなんかは「日本でも事前に全員分の休暇をスケジューリングしちゃえば?」なんて思うのだが、まぁそこらへんに言及すると「いやいやそんなかんたんじゃない」と延々とブラック企業自慢を聞かされそうなのでやめておく。

 

とにかく、ドイツには日本とはちがう『休める文化』があるのを大前提としつつ、『休める体制』があるから1ヶ月のバカンスが可能なんだよ、ということだ。

 

だから、「来月1ヶ月休みますねー!」というのは、さすがのドイツでも無理である。というか、モラル的にやらない。

そこは誤解なきようお伝えしておきたい。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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(2025/6/2更新)

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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