「要領が悪い人」がいる。仕事が遅く、その質が低い人のことだ。
例えばこんな塩梅だ。
「パワーポイントの資料、お願いしたやつ、終わってる?」
「あ、はい今やってます。」
「今やってる?頼んだのおとといの朝だよ? もう締め切り時間だよ。」
「13ページ目に埋める資料を担当からもらおうとしたら、きのう一日不在だったので、今朝もらったんです。」
「いや、それはいいんだけど、13ページはともかく、他のページは先にやれるでしょ。なんでいまさら慌ててんの。」
「そうなのですが……甘く見てました。」
「……で、あとどのくらい残ってるの?」
「あと5ページくらいです。」
「……ちょっとまって、10ページの図、おかしいよ。これ古いやつじゃん。こっちのデータもおかしいし。」
「あ、あああ間違ってました……」
「ほかも大丈夫? ……やばいな、ちょっとこっちで巻き取るわ。もういいよ。」
「すいません……」
*
彼らの仕事はトラブルになりやすい。
本人の主観的な努力と、成果が釣り合わないことが多いからだ。
リーダーから見ると「何やってんだ、時間あれだけかかって、出てくるのはこんな成果か……」
と思う一方で、彼は「時間かかった。もうヘトヘトだ」と感じている。
リーダーがイラついて、「いつまでかかってんだよ、こんな仕事に。」と言おうものなら、彼は頭にきて「精一杯やってるのに、何もわかってない」と嘆く。
こうした人物のパフォーマンス改善は、管理者たちにとっての悩みの種だが、本人は「真面目に仕事をやっている」がゆえに、かえって改善が難しいのが実情だ。
実際、
「仕事に優先度をつけろ」とか
「タスク管理をせよ」とか
「メモを取れ」とか、
彼らに対して言われる様々な解決策が世の中にある。
が、「要領の悪い人」は、要領の悪さゆえに、なかなかそれらを使いこなすことができない。
実は、問題の根はもう少し深いところにあるので、そうした「ライフハック的技術」では解決が難しい。
それを理解しないまま、新しい手法を試みたり、管理者があれこれ言っても、あまり事態は良くならない。
「要領」とはなにか
問題の根を知るには、まず、「要領」とは何かを知る必要がある。
辞書にはこうある。
1.物事の最も大切な点
2.物事をうまく処理する手段。こつ。また、要点をつかんで、巧みに立ちまわる方法。
(日本国語大辞典)
この定義は実態をよく表している。
現場でよくある「要領が悪い人」とは、仕事の大切なポイントがつかめない人、と言い換えてもよい。
彼らは仕事を「優先度がつけられない」のではない。「何を優先すべきかを間違う」。
「タスクを忘れている」のでもない。「まちがったタスクに没頭している」。
「メモができない」のでもない。「大事なことがメモできていない」。
仕事は、その場その場で、「やると結果に大きく効く、重要な行動」があるのだが、彼らは、その見分けがつかない。
全部の仕事が、同じ重要度に見えるか、せいぜい彼らに見えているのは、「緊急性」や「依頼者」、「怒られるかどうか」程度。
その粒度で仕事を見ているから、「どの仕事が重要なのか」がわからず、結局クオリティと労力が見合わない状態になる。
これは昔、しんざきさんが、「要領がいい子と悪い子の勉強法のちがい」で示していたことに重なるところが大きい。
ここで話は冒頭の文章に戻ります。鎌倉幕府成立についての文章。
勉強が出来ない子にとっては、この文章って、「どの記述が重要な情報で、どこを覚えればこの文章の要点を抑えたことになるのか」が分からないんですね。というか、そもそも「要点」というものが分からない。
だから、例えば
「無断で朝廷から官位を受けた弟の義経を許さず」
という記述も、
「1185年、国ごとに守護を、荘園や公領に地頭を設置しました」
という記述も、
「先祖から引きついできたその領地の支配を認め」
という記述も、全て同じような重要度に見える。
強いて言うと、「平仮名よりも漢字の単語の方が重要に見える」とか、マジでそういう理解です。
これは子供の話だけではない。
大人でも全く同じで、彼らに改善を促すには、「何が結果にとって重要なのか」をきちんと教える必要がある。
要領が悪い人は、確認と評価の回数が圧倒的に少ない
だから、普通の人と「要領が悪い人」のちがいは、「この仕事って、何が重要なんだっけ?」と把握する仕事、すなわち
・作業前の確認
・作業後の評価
の2つの仕事にいちばんあらわれる。
要領が悪い人は、確認、そして評価をうける回数が、要領がいい人に比べて圧倒的に少ない。
例えば「パワポの資料」を頼まれたとしよう。
要領のいい人は「状況の確認」をするために、すぐにざっくりと作業に着手してみる。
やってみないと、何が確認できていないか、わからないからだ。
そして、「足りない資料」や「自分だけでは完結しない作業」「想定外の作業」の確認を行う。
また、納期までに複数回「依頼者」の時間を確保し、「資料の評価をしてもらう回数を増やす」ことをまず考える。
そうすれば、途中で方向を何度も修正できる。
この、早く仕事に手を付ける ⇒ 前倒しで確認する のサイクルが早く、回数も多いのが「要領の良い人」。
このサイクルが遅く、回数も少ないのが「要領の悪い人」だ。
早く着手、早く確認
だから要領の悪い人に、改善を促すには
「早く仕事に手を付けさせる」
「評価の回数を増やす」
ことを徹底的にやる。こうすると、限度はあるが、どんな人でもある程度、要領の悪さは改善する。
これらは起業なども同じで、「仮説」→「検証」のサイクルが早いほど成功する可能性が上がる。
また、世の中の多くのプロジェクトも同様に、「予測」→「調整」のサイクルのスピードが問われる。
世の中には「要領が悪い」ことを個人の能力のせいにし、「どんくさい奴はダメ」というマネジャーもいるが、実際はマネジメントのやり方ひとつでかなり変えられるのだ。
(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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