「賢い」「スキルを持っている」「誠実」なのに、ビジネスシーンで大した評価を得られない人たちをよく見てきた。

 

その大きな原因の一つは、彼らが「お金をもらうのがヘタだった」ことが挙げられる。

 

お客さんに良いサービスをし、社内でのウケも良い。

でも、最終的な「実績」という面で、彼らは平凡だった。

 

お金をもらうのが下手な人たち

こうした「お金をもらうのが下手な人たち」は、広範囲な職種に存在している。

例えば、エンジニアやライター、弁護士や会計士など、技術的な職業に多い傾向だが、顧客に接することが多い営業やコンサルタントにも存在している。

 

例えば、私がコンサルタントだったとき、よく怒られていたのが、

「お客さんのところに、必要以上に行き過ぎてしまうコンサルタント」だった。

 

経営陣は「コンサルタントは時間だけが売り物。必要な工数以上にお客さんのところに行くのは、八百屋が自分の店先の野菜を食べているようなもの。絶対にやめろ」と、キツく言っていた。

お客さんのところに行くなら、必ずその分を請求しなさい、ということだ。

 

しかし、「サービス過剰」なコンサルタントは後を絶たなかった。

あまりにもそういう人が多かったので、しまいにはルールで「工数を許可なくオーバーしたコンサルタントは、評価を最低にする」と定められたくらいだった。

 

ではいったいなぜ、そこまでされても彼らはお客さんにその分を請求しないのか。

一つの理由としてはもちろん「スキルが低いので、工数の範囲内で仕事が終わらなかった」という可能性がある。

 

しかし、私が観察した範囲では、そういうコンサルタントは少なく、むしろ「スキルが高く、お客さんにとても気に入られて、人間関係も良い」という人が多かった。

 

なぜ堂々とお金をもらわないのか?

では他に理由はあるのか。

 

一つの理由としては、「お客さんにいいように使われている」というケースがあった。

つまり、お客さんが「テイカー」、つまり受け取るだけで、何も返さないタイプの人たちだった場合だ。

 

彼らは、コンサルタントが無償でサービスをしてくれていることに気づいているが、「特に何も請求されないし、勝手に来てくれて、サービスしてくれるんならそれでいい」と考えている。

だからわざわざ、コンサルタントに「お金いいんですか?」とは聞かない。

コンサルタントがいくら過剰にサービスをしようが、口では感謝はされるかもしれないが、「お金」はもらえなかった。

 

さらに、もっと大きな理由は、コンサルタントに原因がある。

端的に言うと、彼らの中には、「お金をもらうのが悪いこと」と考えている人も少なからずいた。

 

「儲けることは良くない」

「あいては中小・零細企業だから」

「社長が頑張っているから」

等と言う理由で、彼らは正規の報酬を請求しない。

 

ただ、これは「ごまかし」というほかない。

なにせ、請求をしなくても、彼ら自身の給料には直接は響かないのだ。

 

身銭を切らずにそういうことをすれば、結局そういった行為は回りまわって、派遣さんや取引業者に「コストカット」という形で被せられていただけだった。

 

金をくれ、と言わない限り、それは仕事ではない。

しかし、恐らく最大の理由は、「金をくれ」と言い出すのが怖い、という心理もあったと思う。

 

前にも書いたが、人は、身銭を切らせたときに、はじめて本音が出る

おカネを払うときの言葉こそ、人の本心。

私はそれを、新規事業の立ち上げで、深く学んだのだった。(中略)

 

私が、ある起業家に、上の新規事業の立ち上げの苦い思い出を話したところ、

彼に言われたのが、

「いいね」は社交辞令。

「お金を払ってくれる人」こそ、大事にせよ

という話だった。

 

技術職の中には、「いいサービスをすれば、必ず何かしらの形で返ってくるだろう」と淡い期待を抱いている人もいるかもしれないが、残念ながら、それは都合のいい解釈というもので、顧客がお金を払うためには、それなりの理屈がいる。

その理屈をつけるのに値しない場合、「カネがかかるんなら、いらないよ」と言われるだけだ。

 

その現実を直視できないコンサルタントが、「金をくれ」と言えないコンサルタントだった。

 

そもそも「仕事」において、無償の親切はちっとも美徳ではない。

それは、「八百屋が自分のとこの野菜を食う」との例え通りで、仕事してないのと同じなのだ。

 

結局、

「金をくれと言えない人間」

「値付けを自分でできない人間」

「カネを払ってくれないんなら、客じゃないですよ、と言えない人間」

は、商売では容赦なく踏みつけられてしまう。

 

京セラの創業者、稲森和夫は「値決めは経営」と言った。

「カネをくれ」と言わなくてもカネが入ってくるビジネスなど、存在しない。

金をくれ、ときちんと言わない限り、それは仕事ではないのだ。

 

そうした現実を新人や、力不足のコンサルタントに「ちゃんと、カネをくれ、って言えよ!」と教育することもまた、大事だと言える。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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