身内褒めで大変恐縮なのですが、最近長男のとある行動にかなり感心したので、ちょっと書かせてください。
とある行動というのは何なのかというと、言葉にしてしまうと本当の本当にちょっとしたことなんですが、
「次女へのアイスの譲り方」
です。
しんざき家には子どもが3人います。長男15歳、高校一年生。長女次女、11歳の双子。
私と妻の影響もあってか、子どもたちは全員本好き、ゲーム好きです。長女次女がスプラやらぷよテトやらにハマる中、長男は最近私と同様ティアキンをやってまして、メインストーリーを進めもせずに、延々と水上闘技場でライネルを狩っては武器を強化したり、赤い月の度に希少イワロック周回をしてルピーを稼ぐことに熱中していました。楽しそうで何よりです。
さて、つい先日、義母からのお中元で美味しそうなアイスクリームのギフトセットをいただきました。
モロゾフってお店のものだそうで、めちゃ美味しかったです。
私は元々甘いものを殆ど食べない方だったのですが、しんざき妻の家系は代々甘い物好きで、必然しんざき家にも食後のデザート文化が根付いています。
ご飯を食べ終わった後皆でまったりデザートを食べる時間は、私にとっても大変心地よく、貴重な癒しの時間になっています。
おかげで、最近はだいぶ甘いものを食べるようになりました。
で、数種類のアイスの中から、それぞれ食べたい一つを選ぶことになるのですが、この時長男と次女の希望が被りました。
長男と次女、ちょっと渋い趣味なんですが二人とも抹茶アイスが好きでして、この時は両者とも抹茶気分だったようです。
一つしかない抹茶アイスを巡って、どうやら「ジャンケンで勝った方が抹茶アイスを食べる」ということになったらしく、数回のあいこの末長男が勝ちました。これ自体は何の問題もありません。
ただ、負けてしまった次女、この時は相当ディープな抹茶気分だったらしく、軽く泣きべそをかいちゃったんですね。
普段物分かりの良い次女には珍しく、「抹茶アイスじゃないなら他のアイスは要らない」などと言い出して、ちょっと拗ねてしまったようでした。テーブルに緊迫した雰囲気が漂いました。
通例、子どもたち同士のやり取りに際しては、かなり揉めない限り私は口を出さない主義です。この時も、どうなるかなーとちょっと様子を見ていたんですが、長女が「次女ちゃん泣いてるし譲ってあげたら?」と言った時、長男、こんなことを言い出しました。
「んー、ジャンケンでって決めたんだから、抹茶は僕が食べるけど」
「けど(次女の名前)ちゃんが他のアイスをお勧めしてくれたら気が変わるかもなあ」
って。
私はこれを聞いて「ほーー」って感心したんですが、次女はすぐにはピンと来なかったようで、しばらくは私に顔を押し付けたり、ぐずぐずしていました。長男が追加でこう言いました。
「ほら、僕がよくオススメの本とか漫画とかの話してるでしょ?あんな風にオススメアイスを教えてくれたら説得されるかもよ」
これを聞いて、次女、こんなことを話しました。
「お兄ちゃん、ストロベリーも好きでしょ」
「うん」
「今、冷凍のミックスベリーあるでしょ。アイスにミックスベリーを載せて食べたら、とっても美味しいかも、いつもより10倍美味しいかも」
「ふむ」
「ミックスベリー載せるなら、バニラやストロベリーの方がいいと思うの、抹茶よりいいと思う」
んーー、としばらく考えてから、長男は
「うん、じゃあストロベリーにしようかな」と言いました。
で、結局次女は抹茶アイスにありつけて、一方長男はストロベリーアイスにミックスベリーをトッピング食べたと、そんなちょっとした話なのですが。
この会話を聞いて、私結構真剣に感心したんですよ。
つまり長男は次女に抹茶アイスを譲ってあげたわけなんですが、この時の譲り方がとても上手かった。
長男のやり方って、言語化するとこんな感じだと思うんですね。
・勝負の結果は結果であって、そこはきちんと守ると宣言することでルールの重要さを伝えた
・一方、結果は結果として、その後の交渉の余地がないわけではない、ということを伝えた
・交渉の手段として「相手の行動を、お互いにとって利益のある方向に誘導する」という方針を提示した
・自分がやっていることを例示してプレゼンの重要性を提示した
・プレゼンによって自分を説得させることによって、円満に抹茶アイスを譲った
上手くないですか?正直、私よりも長男の方が、よっぽど長女次女の扱い上手いんじゃねえかと思ったんです。
まず、そもそも長男そこまで抹茶アイスに対するこだわりが強いわけではなく、次女が泣いた時点で「別に譲ってもいいや」とはなっていた筈なんです。
とはいえ次女が泣いたからといって、簡単に譲っていては「じゃあさっきのジャンケンは何だったんだ」ってことになるわけですよね。
ちょっとした食後の口約束だとはいえ、「ジャンケンで勝った方が好きなフレーバーを食べられる」というのは次女も納得した上での決定だったわけで、それを簡単に覆すのはモラル的にもよろしくありません。
泣けばなんでも解決するのかってなってしまう。
ただ、そこに交渉の余地がないのかというとそういうわけでもない、ということも、長男は暗に提示しました。「自分を説得する方法を考えろ」と伝えたわけですね。
実際、一度の勝負で全てが決まるわけでもないですし、「結果は尊重するけれど交渉の余地はありますよね?」というのは、今後の人生でも非常に重要になってくる捉え方です。ここ、ものすごーーく柔軟なコントロールだと思うんですよ。
ただ、それ以上に私が感心したのが、手段として「オススメアイスのプレゼン」を提示したことなんです。
長男、元々、「好きなコンテンツ」を他人にお勧めすることが大好きでして、しかも自分のプレゼン能力に自信を持っています。
以前も書いたんですが、長男は私に「お勧め小説」を何度かプレゼンしてくれています。三秋縋先生の作品もお勧めしてくれましたし、最近だと私、「いなくなれ、群青」を長男のプレゼンによって読み始めて、「これ滅茶苦茶面白いやん……」ってなりました。
「コンテンツを共有する楽しさ」について改めて考えたこと、そして「ぐりとぐら」で第四の壁を越えた話
「コンテンツを終わりにしたくない」という心理と、「いなくなれ、群青」から始まる階段島シリーズがとても面白いという話
長男、結構しっかり「ポイントを抑えたお勧めの仕方」をしてくれるんですよ。
作品全体のテイストや「どこが面白いのか」をまず伝えて、かといって作品自体のネタバレには踏み込まず、「そこまでいうなら読んでみるか」という方向に巧みに誘導する。
私相手だけじゃなくって、友人にもちょくちょくコンテンツのプレゼンをしては沼に沈めてるらしいのですが。最近も階段島シリーズをごそっと持ち出して友人に布教してたみたいです。
誰かに何かをお勧めして、相手もそれに共感してくれるのって、ものすごーーく嬉しいですよね。
漫画やゲーム好きとして、「この前お勧めしてくれたあの漫画、面白かったよ!」って言葉程嬉しい言葉はありません。
長男がその「お勧めする楽しさ」を理解してくれているというのも、父親として大変嬉しいことなのですが、その「お勧め」の有用性を長女や次女にも伝えてくれた、プレゼンの有用性、「誰かに何かをお勧めすること」のパワーを、長男は妹たちに教えてくれた、教えようとしてくれたわけです。
で、次女は次女で、それを受け取ってちゃんと「アイスのお勧めポイント」を考えたわけですよね。
それが何より素晴らしいなー、長男も次女も偉いなーと思った点でして。
長女次女が産まれたのは、長男が4歳の時でした。それ以来長男はずっと、子どもたちの中でのリーダーとして頑張ってくれています。
それが負担にならないよう、なるべく楽しく子どもたちをまとめていって欲しいなあというのは、それなりに心血を注いできたつもりだったのですが、ちょっとくらいはその成果が出てきたのかなあと思う点もあり、しみじみ感心してしまったという次第なのです。
***
もちろんこれは、今回長男がとった方法を素晴らしいと感じた、というだけの話であって、一般化出来るような話ではありません。場面によって、家庭によって、何が正解なのかは変わってくると思います。
ただ、「お勧めコンテンツのプレゼン」ということ自体は、長男だけではなく長女も次女も、今後身に着けていって欲しいなあと思うスキルではあります。
自分の好きなものを、相手に伝わるように語れるようになって欲しい。好きなものを語れる為の言葉をたくさん持っておいて欲しい。
これは別に子どもたちだけの話ではありませんが、元来私は「何かにダメ出しする」よりは「何かをお勧めする」方が好きで、結果的に相手を誘導することになったとしても、出来れば「この選択肢はダメだ」と狭める方向性より、「こっちの選択肢もいいよ」と広げる方向性をとりたいなあ、と常々考えています。その方がWin-Winになる可能性が上がると思うんですよね。
それが原動力となってブログやら記事やら書いていますし、これからもそうしていこうと思っています。
今回アイスの選択肢被りというほんのちょっとした事件をきっかけに、長男もその辺を身に着けようとしていること、それを妹にも伝えようとしていることが分かって感心した、という、本当にそれだけの話でした。
今日書きたいことはそれくらいです。
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【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
Photo:Michelle Tsang