松本人志が大腸がんになった
松本人志の話をする。
松本人志の名前も見たくないという人は回れ右してくれ。
松本人志の起こした問題について論じるつもりもないので、それを期待する人も回れ右してくれ。
おれは松本人志が大腸がんになり、手術を受け、一時的人工肛門(ストーマ)になったことについて語りたい。
なぜならおれも大腸がん(NET、神経内分泌腫瘍という希少がん)になり、手術を受け、一時的人工肛門になった人間だからだ。なにか語らずにはおられない。そういう気持ちになった。
しかし、そういう気持ちになって、果たして「なにか」とはなにか考えだしたら、なかなか思いつかなかった。
だから、この原稿に批判も提言も仮説も結論もない。ただ、少しでも大腸がんや(一時的)人工肛門について知ってくれる人が増えればいいと思う。
それでも腸は飛び出ている
松本人志は例の事情(正直言ってこれについては語ろうと思っても詳しく語るだけの事情を知らないのだが)によって、テレビというメディアから切り捨てられた、あるいはテレビというメディアを切り捨てた人間だ。
だから、それに付随するような新聞や雑誌などの情報も少ない。今は独自のメディア(DOWN TOWN+)を持っていて、そこから漏れ聞こえる情報のみとなっている。
それでも、大腸がんについてはネット上で記事になった。テレビでニュースになったかは知らない。たとえば、こんな記事が出た。
ここで、いくつか松本人志の病気についての自己言及があった。
松本は「血便が止まれへんって言ってたでしょ。病院行ったら、めちゃめちゃがんやってん」と告白。
「めちゃめちゃ手術して。大変やって。俺、死ぬか思ったわボケ。ほんまにめちゃめちゃ大変やったわ」
「結局、その腸にあったわけよ」と伝えた。
おれも血便を原因に大腸内視鏡検査を受けた。ただ、「血便が止まらない」などではなかった。なんか一回くらいあっただけだ。
ただ、その話をしたら、彼女に「もうその歳なのだから受けたほうがいい」と強烈にすすめられた。生命の恩人である。
とはいえ、自分に「自覚症状があったから受けた」という意識はない。「この年齢でろくに検診を受けたことがない」という理由が大きい。
一方で松本人志は「血便が止まれへん」であった。それを読んだおれは、「けっこう重症なのでは?」と思った。
思ったが、一時的人工肛門ということであった。腫瘍のある部分(おそらく直腸付近)を切除すれば、まだ大丈夫なのではないか。よくわからない。
病気の最中の自分だったら、大腸がんと自分の希少がんは重なる部分も大きいので、もう少しなにか言えたかもしれないが、しかし、当事者であれ医者以外がなにか言わないほうがいいだろう。
でも、ひとつ「よかった」と言えるのは松本人志くらいの大金持ちが、きちんと標準治療を受けているであろうということだ。
「人工肛門ですよ」と言われたら、なにかべつの方法を探ってしまう可能性がないとは言えない。そのあたりはよかったんじゃないかろうか。
で、上の記事でこんな発言があった。
「とにかくと取らなしゃあないからと。取ったんやけど、いろいろありましてね。皆さんびっくりするかもしれないですけど。僕、今ちょっと見た目わかんないでしょうけど。横っ腹から今、腸が飛び出てるんですよ」
「腸って皆さん、見たことないでしょ。それが今こっから飛び出てて。この腸をまた戻す手術をせなあかんけど、要するに体が整うまで…すぐには無理やねん。戻すのに、体が整うのに数ヶ月かかるから。その間、俺ずっと休んでられやんか。だから、前代未聞の腸飛び出たままの芸人を見てもらおうと思って。今日。俺はしばらく数ヶ月は飛び出たまま、お笑いやるんで、での報告」
「腸が飛び出ている」。この表現について、いくら自分の身体のこととはいえ、そんないじりかたをするのは時代に即していないのではないか、不謹慎ではないかという苦言が呈されているのを見た。
が、これまたおれひとりの発言にすぎないが、かつてストーマ付きだった人間からすると、あの状態は「腸が飛び出ている」のにほかならない。
なんかもう「腸が飛び出ちゃっているんで」としか言いようがない。茶化すといっては言いすぎだが、なんかそうでも言わなきゃやってらんないよ、という気持ちだった。
人工というとなにやら機械が排泄物をどうにかしてくるかのように聞こえるが、素材は天然だ。腸である。腸を腹から引きずり出して、そこから排泄させるのだ。
これは、おそろしい話ではないか。ちなみに、肛門のような機能がないので我慢もなにもできない。24時間垂れ流しだ。垂れ流してはこまるので、ストーマ装具、パウチをあてがう。袋に便を溜める。溜まったら捨てる。何日かに一度、パウチ自体を交換する。すごく簡単にいえば、こんなところか。
人工肛門とは、腸を腹から引きずり出して、肛門のかわりの出口とすること、これである。
おれはほんとうにたくさんのストーマの人の体験談を読んだ。「人工というわりに、人工というよりなにか原始的ではないか」というような意見はわりと多く見た。おれもそう思った。
もちろん、腸の一部を飛び出したままにして、そこを排出口にするという手術もすごい技術だ。
そして、排出物をいかに簡単に、不快感なく処理していくかというパウチの進歩もすごいものがあると思う。
おれは5chで人工肛門についての長いスレ(2ch時代から続いていたのではないか)を読んだりしたが、その初期に書かれていたにおいの問題や不安などは、現在ではほぼ解決されているように感じた。
日進月歩で進歩している。
が、腸が飛び出ている、ということは変わらない。そして、こういってしまうとおしまいだが、その感覚は腸が飛び出てしまった人間にしか語れないようにも思う。
むろん、人によって感覚はぜんぜん違う。たとえば、がん以外の、排便障害を伴う大腸の大病を患っていた人にとっては、人工肛門がかなりの救いになり、そうとうにQOLを上げるものだ。
そういう人にとっては、「腸が飛び出ている」という表現なんてとんでもないものかもしれない。そのあたりはわからない。
ただ、おれは、おれが「ちょっとの間、腸が飛び出ていたんすよ」と言うことになんの抵抗もない。
あれは、そうだった。そして、腸が飛び出ていることは、外出の恐怖に直結した。なにかにぶつかったり、転んだりしたらどうしよう?
パウチの中とはいえ、内臓が出ているのだ。調べてみれば、満員電車用の保護カップのようなものも売られていた。おれはとにかく怖かった。
ストーマで外に出られる人を尊敬する
そうだった、おれは怖かった。結局、こわくてストーマをつけた状態で外に出ることがほとんどできなかった。
しかしまあ、長々と書いてきたけれど、ストーマ、嫌なものです。装具によって寝返りも打てないし、うつぶせで眠ることもできない。そんなことよりも、内臓が外に出ていることによる恐怖と緊張がどうにもストレスになる。
これを書いている今、おれはまだきちんと社会復帰していない。入院、手術後の体力回復が通勤するところまでいっていないからだ。なので、在宅で仕事と静養とリハビリをしている。
おれは結局、「社会復帰」できなかった。一時的人工肛門の間、ほとんど外に出ることができなかった。
手術の後遺症で普通に歩けない時期もあったが、それを過ぎても、どうしても会社に行けなかった。パウチをめぐるトラブルへの不安もあったが、それよりも、根源的に「この状態の身体で人前に出ること」の怖さがあった。仕事もリモートでどうにかなるなら、そうしたかった。
そういう意味で、一時的であれ、永久であれ、人工肛門で普通の人と一見して変わらないような社会生活を送っている人を尊敬する。
そのなかに、この件についての松本人志を入れてもいいだろう。
人前に出ることへの強い抵抗、いま思えばそうとうのものだった。
結局、どこへ出かけることもできなかったし、会社のトイレでパウチの処理をしたことはあるけれど、いわゆるオストメイト対応トイレを使うこともなかった。
あらためていうが、これはおれの事例だ。だが、平気だったという人もいるだろうし、平気じゃない人もいる。それは書いておきたい。
松本人志はLARSを語るだろうか?
さて、一時的人工肛門は閉鎖される。閉鎖したらすべて元通りか? 否、だ。
LARS(低位前方切除術後症候群)という排便障害が待っている。
上の記事では、まだおれはLARSになっていなかった。かなり悲観的になっている。ただ、悲観的になるだけの材料は揃っていたといいたい。
結果、いまおれがどうなっているかについて述べておく。2月の末にストーマを閉鎖した。
閉鎖したおれは水様便や下痢になることなく……逆に便秘気味になった。
出ない、というだけの便秘ではない。LARSの特徴である頻便にはなった。そのあたりのことはこちらに書いた。
8月になったいま、状況はあまり変わらない。少しよくなかったかもしれない。朝、何度もトイレに行って出し切ってしまえば、翌朝まで保つ。
さらにロペラミド(止瀉剤)を飲めばお泊りもできる。旅行にも行くつもりだ。おれの地獄を期待した人には悪いが、おれはおれが予想して怯えていた地獄より程遠いところにいる。
もちろん、病前に戻ったともいえないし、トイレへの恐怖はつきまとう。それでも、外に出られなくなるようなことはなかった。
して、松本人志はどうなるのだろうか。人工肛門を一時的につけて、閉鎖する。LARSになるかもしれない。切除の部位などによる。
ただ、ここで当人には失礼でよくないことを言ってしまう。もしも松本人志がLARSになったのであれば、その詳細を世の中に語ってほしいな、と。
LARSになるかどうかもわからないし、語る語らないも本人の自由だ。けれど、人工肛門よりマイナーで、世の中に知られていないLARSが知られるようになればいいなと思ってしまうのだ。
ひとりのLARS者としてそう思う。
そしてまた失礼ながら、松本人志がテレビのお笑いの王として君臨していたままだったら、その影響力は大きかっただろうな、などと思ってしまう。
これは本当に余計なお世話というか、なんというか、まあ思ってしまったので勘弁してほしい。
まあみんなも検査を受けよう
まあそういうわけで、ある年齢(四十歳くらい?)になったり、ちょっとした血便があったりしたら、みんなも大腸内視鏡検査を受けよう。
桐谷広人さんも大腸がん、……と、いままでのおれなら書いて終わっていた。だが、こないだこんな記事を見た。
「便潜血検査は精度が低い。最初からいわゆる大腸カメラ、下部消化管内視鏡を行えばよいのだ」という意見もある。しかし、がん検診の有効性は感度・特異度だけでは決まらない。現在のところ、全大腸内視鏡検査による大腸がん検診は、日本では推奨グレードC、科学的根拠が十分ではないため対策型検診としては勧められていない
まとめると、内視鏡と便潜血、どちらがよいかはまだわかっていない。差があるとしても小さい。
とくにこだわりがなければ、市町村が推奨する検診を受けておくのが無難であろう。
便潜血検査と大腸内視鏡検査で結果に優位な差が出ていないらしい。
便潜血検査でひっかかれば、どのみち内視鏡はやることになる。
だったら、いきなり、高額で、食事制限やモビプレップがあって、炭酸ガスが使用されていないとお腹がパンパンになって苦しい大腸内視鏡検査を受けるより、便潜血検査でもやっておけばいいんじゃないのか。
おれはいきなり大腸内視鏡検査からNET G1(希少がん)のポリープが見つかった人間なので、なんとなく大腸内視鏡検査をすすめたくなる気持ちがないわけではないが、まあしかしそこにハードルがあるのならば、とりあえず便潜血検査からでいいだろう。そんなところ。
以上。
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(2026/8/3更新)
【著者プロフィール】
黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
Twitter:黄金頭
Photo by :National Cancer Institute




