昨日、再び「転職」についての議論があった。その中でひとつの話題となったのが「ベテラン」についての扱いだった。

一般的に技能は長期間それに携わることで、より高度になっていくと思われている。例えば、経験5年の人間と、経験10年の人間では、後者のほうがより高度な技能を持っているとする考え方だ。

 

だが、私が現場を見て回った限りにおいて、その感覚は現実にそぐわない。

端的に言えば、10年経験しようが、20年経験しようが、漫然とこなしているだけでは技能はそれほど上がらない。逆に5年程度の経験であっても、10年の経験者にまさる技能を持っている、ということがよくある。

 

この差は一体どこから生まれるのだろうか。

少し考えてみると、この差は「学習能力」に大きく依存することがわかる。噛み砕いて言うと、経験を知識に固定化させ、再現できるようにする技術に長けた人が、短期間で大きな成長を遂げる。

 

 

例えば、私の知人で、「メモ魔」の人物がいる。彼はかつての上司から、「メモを取れ」としつこくしつこく言われた。些細なことであっても徹底的にメモをとるように指導されたという。

それが煩わしくなった彼は、あるひ上司に楯突いた。

「メモなんかとらなくても、十分こなせる仕事ばかりです」と思い切って言うと、その上司は彼に言った。

「アホかオマエは。メモをとるのは仕事をこなすためじゃない。」

「……それでは一体、何のためですか?」

自分がきちんと考えてぬいているかどうかを検証するためだよ

と上司は言った。

「自分がなにをしているのかくらい、自分でわかります」

と反論すると、上司は言った。

「じゃ、昨日の営業の時、オレが発言したことについて、なぜそう言ったのかを全部説明してみろ。」

「……メモを取っていないです。いつもどおりに受注したように見えました。」

「昨日のが「いつもどおり」に見えたのなら、オマエは10年経っても大して良い営業にはなってないだろうな。」

 

 

それ以来、彼は上司の発言や同僚の発言について注意深くメモをとるようになった。すると彼は気づいた。同じ仕事をしていても、「いつもどおりやっている」人と、「毎回少しずつ工夫を入れている」人がいることに。

彼は「気づかないうちに、仕事を漫然とこなすだけになっていた。」と反省したそうだ。

それ以来、かれは「メモ魔」になった。

 

 

ではメモを取る、のように、「経験を知識に変換する技術」は他にもあるのだろうか。

これはいくつか存在する。

 

・人に教える

新人や後輩に対する教育は「後輩のため」というだけではない。むしろ最もメリットを得られるのは教えた側であり、教えたことによって経験が知識として定着するメリットは計り知れない。

もしあなたが現在2年目、3年目なら、困っている後輩や新人に積極的に教えることが良い。「情けは人のためならず」という言葉の本質が実感できるだろう。

 

・人から指摘される

人からの指摘を素直に受け入れない人物は、経験を知識に変換するのが下手くそだ。なぜなら知識というのはある程度の「客観性」が求められるからだ。

あなたの経験がほんとうに有効なのかどうかは、他者の経験や知識に照らし合わせて検証されなければ、単なる思い込みに過ぎない。

 

・本を読む

「既に知っていることについて本を読むのは無駄だ」という人がいるが、これは全くの逆である。既に知っていることについて読んだほうが、より深く学ぶことができる。

多くの経験を言語化してくれているのが書籍である。自分の経験との差異を確認し、経験を体系化する。それには書籍が欠かせない。

 

 

経験を知識に変えることのできない人物は、いくら貴重な体験をしても何も身につかない。至極当たり前のことだが「経験年数5年」は必ずしもその人物がその技術に習熟していることを示さないのだ。

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

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