ところで私は、かつて「手を動かさない人」でした。
仕事にせよ、勉強にせよ、創作にせよ、音楽にせよ、どんなことでも「ごちゃごちゃ考えているより、まずやってみて場数をこなした方がスキルは育つ」というのは、大体の場合で当てはまる普遍的なセオリーであると思います。
ゲーム開発、アプリ開発なんかでも、実績を残している人はみんな「いいからまずやってみろ」って言いますよね。
手を動かすこと、超大事です。手を動かすことによって、課題が生まれ、自信が生まれ、ノウハウが蓄積されていく。頭で考えているだけでは何も始まりません。考えたものは、出力しなくてはいけません。
ところが、世の中には「手を動かさない人」がいます。取り敢えずやってみろ、というアドバイスを受けつつも、なかなか「取り敢えずやってみる」という実施タームに移れない、もしくは移らない人ですね。先日、Books&Appsさん内でもそれについての記事が掲載されていたと思います。
既に「手を動かしてきた」人にとっては、「手を動かさない人」の理解は難しいものと思います。「なんでやらないんだ?」という疑問は実にもっともですし、そんなところまでアドバイス出来るか、というのは当然のことですよね。
私は以前、「手を動かさない人」ないし「手を動かせない人」でした。
今は多分脱却出来たと思うんですが、自分がそこから脱却するまでの間に、随分いろんな試行錯誤をしてきました。なので、「手を動かさない人」がなぜ手を動かさないのか、なんとなく分かります。
「手を動かさない人」の中にも、多分三つくらいのカテゴリーがあると思います。
一つ目は、「色んなものが根本的に空回りしている為に手が動かせない人」。タスクの落とし込みとかそういう問題ではなく、「実施タームに移す」というイメージというか、概念自体が存在しない人ですね。
もやもやした計画だけは語るけれど実際には何もしない人とか、色んな人に話は聞きにいくけれど肝心の実行についてはさっぱり、という人がここに当てはまると思います。計画を考えるだけで何かした気になって満足してしまう人、というのもいるようです。
二つ目は、「具体的に何をすればいいのかイメージ出来ない、あるいは全量がもやもやしている為に手が動かせない人」。要は、「やらなくてはいけないこと」を、自分の手が届く具体的なタスクに落とし込むのが苦手な人、とでもいえるでしょうか。
人間、不明確なタスクにはどうしても心理的な障壁が高くなってしまって、手が出しにくいんですよね。
三つ目は、「具体的なタスクへの落とし込みは出来るけれど、時間マネジメントが苦手・ないし他のタスクを気にし過ぎて、完了させることが出来ないことを恐れて手が動かせない人」。
つまり、何をすればいいのかは大体イメージ出来るんだけど、「どうせやるならちゃんとやらなきゃ」「今やっても中途半端になっちゃうし」という意識が邪魔をして手を動かせない人ですね。
これらの三つ、どれか一つにだけ所属している人というのもいますし、複数絡み合っている人、というのもいます。一つ目にどっぷり該当しちゃう人については正直ちょっと難しいんですが、少なくとも二つ目、三つ目については明確な「処方箋」があります。
二つ目の人に対する処方箋は、「とにかく思いついたタスクを細かいところまで徹底的に書き出すこと」。
やったことがない分野の作業について、きちんとしたタスク切り出しを行うことはどっちにしても困難です。適切な単位のタスクを切り出し、それぞれについて適切な作業量を割り振るのは、それ自体経験に裏打ちされたスキルです。
ですが、タスクを明確にしないまま、頭の中でもやもやと「あれもしなきゃこれもしなきゃ、えーとあれはいいのか?」などと考えながら作業をすることは、誰にとっても困難です。人間、見えていないゴールに突き進んでいくことは出来ません。それがどんなに小さなゴールでも、とにかくゴールを目に見えるようにしないといけない。
なので、タスクの全量を整理して切り出すことは最初から諦めて、とにかく思いつくところから手当たり次第にリスト化していくわけです。どんなに細かくても、単位が大雑把でも構いません。
例えばRubyでアプリケーションサーバを作ろう、という話であれば、
・Rubyの実行環境についてぐぐる
・RubyのIDEについて調べる
・IDEをダウンロード出来るサイトを確認する
・IDEをダウンロードしてインストールする
といった感じで、「こんなんいちいち書かなくても…」というところまで全部可視化するんです。
これによる効果は大きく三つ。
・タスクをもやもや考える脳内リソースが浮く
・小さな単位でも、タスクを消化していくことによって進捗が発生し、やる気ゲージが上がってくる
・後続のタスクは、前提のタスクを消化しているうちに見えてくる
誰でもやっていることなのかも知れませんが。少なくとも、私が「手を動かさない人」から多分脱却出来た、最初の一歩は間違いなくここでした。
分かんないことって、結局動かないとタスクも見えようがないんですよ。けれど、動きさえすれば、すぐに障害にぶつかるし、「その障害を解決する」というのが新しいタスクになる。小さなタスクを片づけていくことで、たとえ小さくても達成感を得ることも出来る。達成感はモチベーションに繋がる。
「手を動かす」最初の一歩として、タスクの書き出しは鉄板です。TodoistやJootoのような、webのタスク管理ツールを使うのも良いと思います。
一方。三つ目の人に対する処方箋は、「中途半端で終わることを恐れないこと」。
勿論本来であれば、時間マネジメントを適切に行って十分な空き時間を確保することが正道なのは百も承知なんですが、そんなことが簡単にできれば苦労はしません。何故か存在しないのが時間リソースというものです。
世の中、「どうせやるなら最後までやり切ろう」とか「中途半端ならやらない方がマシ」みたいな考え方が結構溢れてますが、私、これ違うと思うんですよ。「中途半端に終わる」ことは、「最初からやらない」ことに対して圧倒的に勝る、というのが私の考えです。
0.1は0に比べて無限倍進捗してるんです。
勿論、頑張って完成させることが出来ればそれに越したことはないですが、0.1まで進める間に溜まったノウハウだって、文字通りゼロじゃない。それ自体無駄じゃないと思うんですが、幾つも0.1を繰り返すうちに、一つくらいは1までいくかも知れない。
中途半端を恐れるあまり、「数うちゃ当たる」の数さえこなせないのが一番の不利益じゃないか、と私は思うんです。
だから私は、「どうせやるなら最後までやらなきゃ」で立ち止まっている人がいたら、「いいじゃん中途半端で」といいます。「0.1でも0よりは進んでるやん」といいます。我々は完璧超人ではないのですから、「完璧」へのあこがれはむしろ害になる場合の方が多いと思うんですね。
私が「手を動かさない人」から多分脱却出来た、次の一歩が「中途半端を恐れなくなった」ことだと思います。これによって、勿論箸にも棒にもかからない未完成成果物は量産されるようになりましたが、10手をつける内には1個くらいはそれなりの形に出来るようになりました。中途半端、意外とお勧めです。
まとめますと。
あなたが「具体的に何をすればいいのかイメージ出来ない、あるいは全量がもやもやしている為に手が動かせない人」であれば「とにかく思いついたタスクを細かいところまで徹底的に書き出すこと」が処方箋であり、
あなたが「完了させることが出来ないことを恐れて手が動かせない人」であれば「中途半端で終わることを恐れないこと」が処方箋であり、
あなたが「色んなものが根本的に空回りしている為に手が動かせない人」であればすいませんちょっとどうにか豆腐の角に頭ぶつけたりして考え方を変えてください、という話になるわけです。
一人でも多くの方が「取り敢えず手を動かせる」ようになることを願って止みません。
長くなりましたが、今日書きたいことはそれくらい。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城