多くの方がご存知のように、いま企業は「主体的に動く」従業員を求めている。そして、主体的に動くとは、おおむね以下のようなものである。
・自分自身で「組織にどのように貢献すればよいか」を知る
・自分自身で仕事の目標を設定する
・自分自身で仕事のやり方を決定する
・自分自身で自己の能力開発を行う
要するに、「管理されなくても成果を出せる人」が、最も望ましい人材とされる。
「そんなこと当り前じゃないか」と思う方もいるかもしれない。だが実は、これはつい50年前まで当たり前ではなかった。
アルビン・トフラーは著書*1のなかで昔の状況を次のように述べる。
「組み立てライン」をフランス語で「鎖」というのも、肉体労働者から最高管理者まで全員が「命令の鎖」に従って仕事をしたのも、偶然ではない。
仕事は熟練や頭脳を必要とせず、標準化され、この上なく簡単な動作に分解された。そして、ホワイトカラー労働が広がるにつれて、オフィスもそれに似た方向で組織された。
事務従業員は組み立てラインに縛り付けられていなかっただけ多少、肉体的行動の自由があった。だが、経営者の目標は、オフィスを向上に似せることによって、人間にできる限り——-非人間的なまでに——その効率を増大させることにあった。(中略)
労働を監視し、その成員に任務を果たすように圧力を加える家族に代わって新たな規則を強制するための新たな権力構造——階層的管理——が生まれた。
今、最も収益性が高く、最も優れた企業ではこのようなマネジメントスタイルは行われていない。
「自主性」こそが重要なのだ。
これが何を意味するか。
つまりもっとも新しく、先進的な会社は階層的な管理、マイクロマネジメントを採用せず「できるだけ労働者を放っておきたい」という方針をとっているということだ。
理念や方向性を示し、ビジョンに共感してもらえば、あとは自律的に成果を出す労働者。自主性があり、約束を守り、成果を上げるための努力を惜しまない、意欲のある社員が最高の労働者だ。
さらに、自主性を持つ高度な労働者たちも自分たちの「セルフマネジメント」に対して口を出されると憤慨する。
「過剰管理だ」と騒ぐ。
だから、会社は「サーバント・リーダー」を擁立し、できるだけ各社員の自主性を引き出す方向でマネジメントするのである。
しかし、一方ではこういった潮流になじめない人々もいる。彼らは仕事において「主体性」を持てないがゆえに、次のような発言をする。
・何が会社にとっての貢献なのか、教えてくれ。(どうしたら評価されるんですか?)
・目標を決めてくれ(ただし、それほどきつくないのがいい)
・仕事のやり方を決めてくれ(要するに、私は何をすればいいんですか?)
・教育を施してくれ(研修を充実させてくれ)
もちろん、上のような発言をする労働者は、まだ数多くいる。だが、彼らに支払われる報酬は下がる一方だ。「工業化時代」には十分通用した人材も、「情報化時代」には役立たずとなる。
だから、彼らは今の状況に対して「真面目に目の前の仕事をこなしてきたのに、なぜ報われないんだ」と感じている。
上司に「どうすれば評価されるんですか」と詰め寄るが、本当のところ、上司にもやり方はわからない。わからないので「とにかく行動しろ」と言われるのが関の山だ。
トフラーはこの状況を次のように述べる。
今日、これと並行して、もう一つのプロセスが作用している。事業主が知識を管理職に頼るようになったのと同じように、管理職は知識を従業員に頼るようになりつつある。
会社を「頭」と「手」に分けた古い煙突型の区分は、もはや役に立たない。筑波大学の長尾昭哉教授の言によれば、「従来モデルにおける思考と実行の分離は……一定不変の技術にとってはおそらく適当であろうが、急速な技術進歩とは調和しない」(中略)
現在の状況は知識が受け持つ量と、そしてさらに重要なことには、意思決定の分担する量も再配分されつつあるということだ。
労働者は、習得し、それを捨て、再び習得するという不断のサイクルの中で、新しい技術をマスターし、新しい組織形態に適応し、新しいアイデアを見つけ出す必要がある。
長尾はソニーの初期の研究を引用してこう言う。
「文字通り指示に従うだけの従順な規則順守者は、よい労働者ではない」(中略)
最先端企業では未熟練で教育程度の低い労働者は職から締め出されつつある。それによって従来の権威主義的な「一切質問はするな」式のやり方では管理できない教育程度の高い集団が後に残る。
事実、質問をし、仮定を疑うことが、全員の仕事の一部になりつつある。
つまり現代の知識集約型産業は、労働者に対して高度なセルフマネジメント能力を要求する。
「もうだれもあなたを管理してくれない」
のである。
その代わりに、きちんとした働きを見せなければただ「契約は更新しない」と言われるだけだ。
我々は「自由な働き方を手に入れたい」と主張する。
だが「一人ひとりに高度なセルフマネジメントが求められる」という事実こそ、労働者が自由と引き換えに支払うべき大きな代償である。
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