こんにちは。日本植物燃料株式会社、代表の合田です。

皆様、私が「ダチョウが人類を救う」と突然言い出したらどう思うでしょうか。

でも、これにはきちんとした理由がありますので、今回はダチョウの話にお付き合いください。

 

2014年、西アフリカで大規模なエボラ出血熱の流行がありました。

2014年の西アフリカエボラ出血熱流行

2014年の西アフリカエボラ出血熱流行は、ギニアをはじめとする西アフリカにて2013年12月頃から、バイオセーフティーレベル4に属する最強の感染性と毒性を持つエボラウイルスが原因となって発症するエボラ出血熱が流行し始めた事象。

2015年10月18日までにおける世界保健機関 (WHO) の発表によると、感染疑い例も含め28,512名が感染し、11,313名が死亡(死亡率40%)した

ご存じの方も多いと思いますが、エボラ出血熱は非常に危険なウイルスによる感染症で、1976年から2014年8月時点に至るまで、20回を超えるアウトブレイクが報告されています。

(参考:国立感染症研究所 http://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/342-ebola-intro.html)

 

日本にいれば「遠い世界のどこかで危険な病気が流行っているのだな」で済ませてしまうこともできます。

ですが、2014年当時、私はすでにアフリカでビジネスを始めていました。つまり、アフリカに恩があります。そこで、まず自分ができることを何か探そうと思いました。

 

とはいえ、日本でできることは限られます。

なぜかと言えば、現在日本国内ではエボラウイルスを扱った実験ができないからです。

 

エボラウイルスは危険なため、現在でもごく限られた施設の中でのみ実験を許されており、当時は、実験ができる施設は国内にありませんでした。

つまり、日本のエボラウイルス研究者は、国内で実験ができず、海外の研究機関に委託するなどして研究をするしかなかったのです。

 

そこでこう思いました。

「日本の研究者に、エボラウイルスの研究ができるような環境を用意することはできないだろうか?」

 

幸いなことに、私はアメリカ軍に知り合いがいた事を思い出しました。

といっても、何も特別なことはありません。

実はアメリカ軍は2010年に、エネルギー調達のリスク管理上の観点から、「再生可能エネルギーで軍を稼働させる」という目標を掲げていたことがあります。

そして、弊社は「日本植物燃料」という会社名の通り、再生可能エネルギーを取り扱う会社です。

 

そのため、過去にこのプログラムに参加するため、弊社の木村というUCバークレー卒の役員を通じ、海兵隊のツテを辿り、ガチの軍人であるマーティン・スティール氏という、元海兵隊中将の方と知り合ったことがありました。

 

アメリカ軍ならば、生物兵器への対策として、エボラウイルスの研究にも力を入れているはず。

予想通り、私はマーティンから、メリーランドにある「アメリカ陸軍感染症医学研究所」のエボラ研究の最高責任者、シナ・ババリ博士を紹介してもらうことができました。

一方で、私は日本の感染症研究者をリストアップし「米軍におつなぎします」と、様々な方へメールを送りました。

 

マーティンは

「ババリは超忙しいから、会ってくれるかわかんねーぞ。」

と言っていましたが、会えばなんとかなるだろうと、とりあえず陸軍感染研究所のあるメリーランド、フォート・デトリックへ皆で乗り込むことにしました。

 

ところが、はじめから躓きます。正面ゲートから入ろうとすると、

「アポイント入ってないぞ」

と拒否。完全に怪しい人扱いです。

 

まあ、よくわからない東洋人の集団が、「エボラ研究の責任者に会わせてくれ」と頼みに来るのはそう頻繁にあることではないでしょうから、当たり前です。

ただ、相手は軍なので、ネタでは済まされません。

仕方がないので、基地の裏側のゲートの方に周ります。裏口に回るのは余計怪しいですが、既に正面突破は不可能です。

 

今度はミスが許されません。そこで木村が携帯から直接ババリ氏に連絡しました。すると

OK、基地の中のバーガーキングで会おう。」

と、あまり病原体の話題にはふさわしくない場所で会うことができました。

 

結論から言うと、ババリ氏はとても喜んでくれました。

やっぱり会いに行くのは大事です。

 

我々が下調べしたところによれば、ババリ氏は有機化合物を用いてエボラをノックダウンする研究をしており、そこに似たような研究をしている日本人の研究者をおつなぎしたのです。

こうして米軍と、感染症治療の実験が始まりました。

しかし、一定の成果を上げたものの、その研究者が用いていた化合物では毒性が出てしまうことがわかり、エボラ対策としては実用化には至りませんでした。

 

しかし、ブレークスルーを実現するためには、ここで諦めない事が大事です。

 

他にも良いアイデアを持っている人がいないか粘り強く探していたところ、面白い論文を発表している方がいました。

その方が、京都府立大学の塚本康浩教授です。

塚本教授は、「ダチョウの卵を使った抗体」の研究をしている、「鳥フェチ」として知られた、ちょっと変わった研究者の方です。

 

「抗体」とは、あまり聞き慣れないかもしれませんが、要するに体に異物が入ったとき、防御反応を引き起こすタンパク質のことで、様々な用途に用いられます。

抗体とは

抗体は主に血液中や体液中に存在し、例えば、体内に侵入してきた細菌・ウィルスなどの微生物や、微生物に感染した細胞を抗原として認識して結合する。

抗体が抗原へ結合すると、その抗原と抗体の複合体を白血球やマクロファージといった食細胞が認識・貧食して体内から除去するように働いたり、リンパ球などの免疫細胞が結合して免疫反応を引き起こしたりする。

例えば、抗体の利用で身近なところでは、予防接種が挙げられます。

予防接種のワクチンは、病原体から作られた無/弱毒化された抗原を投与し、体に病原体に対する抗体を作らせ、感染症に対する免疫を作り出すものです。

 

しかし、塚本教授は、医療の用途以外にも

「抗体でハゲを治す」

「抗体を使ったニキビを抑制する化粧品」

(参考:http://dachou-koutai.com/media.html

など、様々な用途開拓を行っています。

 

ただ、これまで「抗体」は非常に高価なのがネックでした。

通常0.1ミリグラム当たり、200ドルから600ドルほどもかかります。

これは抗体の製造をするにあたって、「マウス」や「うさぎ」を大量に必要とするからです。しかも、抗体をマウスなどから取り出すには、その個体を殺さなくてはなりません。

非効率であるばかりではなく、抗体を取り出すためだけに動物を殺すのは、倫理的な問題も伴います。

 

ところが、塚本教授は「ダチョウの卵」を用いてこの抗体を作る方法を実現しました。

実は鳥類は、自らの身体で作り出した抗体を「卵」に蓄積する性質を持っており、抗体の製造にあたってダチョウを殺す必要はありません。

 

さらにダチョウの卵は世界でも最大クラスの卵ですから、ダチョウの卵はなんとニワトリと比較して4万倍の抗体を採取でき、生産性も極めて高く、安価に抗体を製造できます。

実際、貴重な抗体を「ハゲに効く」といった用途に使えるようになったのは、安価に製造できるからです。

 

これは極めて大きなブレークスルーであり、特許の取得もされています。

また、ガンの治療薬として期待されている「抗体医薬品」の大量生産にも係る技術であり、多くの人を救う可能性のある技術で、塚本教授は「ダチョウの卵で人類を救います!」と言っています。

 

当然のことながら、すでに彼の研究はすでに学術界ではかなり注目を集めていたようで、フランスのパスツール研究所からも声がかかっていました。

その塚本教授を、再度、米軍のババリ氏に紹介したところ、大変気に入ってもらい、抗体を用いたエボラの治療薬を開発すべく、正式に研究がはじまりました。

 

この実験では、抗体を作る際によくウサギの血清が使われていたのですが、ダチョウ1羽が半年で産む卵が生み出す抗体は、ウサギ800羽分の血清に相当します。

さらに、そのダチョウから作った抗体は、熱にも強く、酸にもアルカリにも強いのです。

最終的に、エボラの一種である「スーダンエボラ」株のマウス感染実験においてダチョウ由来の抗体を投与した結果、感染前投与、感染後投与のいずれにおいてもマウス生存率100%の結果が得られました(投与無しは100%致死)。

 

なお、余談ではありますが、このダチョウの卵を使った研究は非常にエポックメイキングなものであったため、私たちを迎え入れてくれた陸軍研究所のババリ氏ですら大変驚いたそうです。

そのため、その周りの研究者たちがこぞって研究をはじめ、今ではハーバード大学の医学部を中心に、ケリー教授とCDI(クリストリジウムディフィシル)、
ライアン教授とコレラ、ファサーノ教授と
ズヌリン(グルテンアレルギーなど各種アレルギー疾患)

においても、ダチョウ由来の抗体を用いた共同研究が行われています。

 

 

で、

色々と書いてきましたが、一方で私は事業家なわけです。

これをどうにかビジネスに結びつけたいと思いました。

 

……ということで、「ダチョウ抗体」を用いた医薬品を作るべく、塚本教授と共同で会社「OstriGen Inc.(オーストリジェン)」という会社を作りました。

(合田、塚本、Stu、Lamontで、Lamontは、ハーバードの消化器内科の元教授です。Stuは、OstriGen Inc.の共同創業者の一人。OstriGenは、塚本、木村、Stu、合田の4人が創業者)

 

この会社では、ダチョウ抗体を用いた様々な医薬品やそれに準ずるものを作る事をミッションとしています。

様々な例えば、私の写真を見てください。花粉症でマスクしてます。

これ実は、我々の技術をつかって抽出したダチョウの抗体を含ませた花粉症用マスクなのです。

 

私は商売人なので、ここで宣伝しますが、Amazonでも売ってます。

ありがたいことに、文部科学大臣賞をいただき、すでに数千万枚が売れています。

さらに、抗体が安価に生産できることで、応用の幅をどんどん広げることができ、「抗体入りのアメ」なども作ることもできました。

とりあえず、味は悪くないと思います。

 

この「アメ」ですが、応用編として、今後、アフリカなどの途上国の子どもたちに、「抗体入りのアメ」を配布すれば、下痢や感染症などの予防ができ、公衆衛生にも寄与できるのではないかと考えています。

ですので、あえて医薬品とはせずに、「食品」として、アフリカで販売をする予定です。

他にも、皮膚に塗って、トイレタリーや化粧品などに使うこともでき、ダチョウからできる「抗体」の応用範囲はかなり広いのです。

 

偶然が重なり、「バイオ燃料」や「エボラ」からずいぶん遠い所まで来ましたが、なんかこういう「脱線」も、ビジネスの面白いところって気がします。

 

 

日本植物燃料株式会社コーポレートサイト

 


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