課の定例ミーティングで、課長が若手を叱っていた。
「なぜ君は言ったことすらできないんだ。」
「すみません。」
「日報は、その日のうちに必ず出せと言っただろう。」
「申し訳ありません… 」
「なんで出せなかったんだ。」
「はい、昨日依頼された、営業ターゲットの抽出に時間がかかりまして…」
「え?まだ終わってないのか?」
「は、はい。」
「君以外は全員終わってるよ。わかってる?」
「……」
「……もういい。今日こそ、きちんと日報を出すように。」
「わかりました。」
そして、若手が席に戻ろうとしたそのとき、課長は思い出したように彼を呼び止めた。
「ああ、そういえば」
「は、はい。」
「君ね、最近、出勤してくる時間が9時ギリギリだよね。」
「えー、そ、そうです。」
「昨日は8時55分、一昨日は9時ちょうど。ギリギリセーフ。」
「はい」
「あのね、若手なんだから、とはいわないけど、仕事で成果を出せてないなら、せめてやる気だけでも見せて欲しいんだけどね。少なくとも8時半にはくるとか。」
「……」
「同期の佐藤さんは、成績もいいけど、毎日8時には会社に来て、熱心に勉強しているみたいじゃないか。」
「……申し訳ありません。」
「ねえ君、本当にやる気あるの?」
「は、はい。」
「うちはね、完全に成果主義ではないんだよ。成果だけで人を見るのはよくないし、当然成長には時間がかかる。仕事は結果だけじゃなく、プロセスが問われるときもある。」
「はい。」
「…でもね、成果が出てないだけじゃなく、言われたこともできない、やる気も見せないじゃあ、もう救いようがないよ。ひょっとしてきみ、会社に来るだけで給料が出ると思ってる?」
「いえ……。」
「次に日報が遅れたら懲戒処分は当然だけど、やる気が無いようなら、もう君を営業においておくわけにはいかないからね。当たり前だけど。」
「わかりました……。」
その若手社員はトボトボと席に戻った。
*****
課長は、常駐しているコンサルタントのところへ来て言った。
「ああいう、成果が出せない、言われたことをできない、やる気がない、という社員は一体どうすればいいですかね?」
コンサルタントは答えた。
「課長はどうお考えですか。」
「もちろん、指導は続ける。改善が見られなければ懲戒。人事評価では然るべき評価をする。」
「では、そのようになさったらよいでしょう。」
課長は何事かを考え、黙っていたが、やがて口を開いた。
「いや、もちろん彼の評価は最低なのは間違いない。処分もする。だが、どうにも信じられないのは、これだけ言われても彼が「やる気」を見せようとしないことなんだが。」
「なぜですか?」
「やる気さえ見せてくれれば、多少の温情もかけたくなるし、「育ててやろう」という気にもなるが、あれだけ無気力……と呼べば良いのかよくわからないが、やる気を見せないと、こちらもドライに接さざるをえない。どうすれば良いのかよくわからんよ。」
コンサルタントは暫く考えた末に、
「一つ質問をしてもよろしいですか」
と言った。
「何だね。」
「課長のおっしゃる、「やる気を見せる」というのは、具体的にどのような行動を指すのでしょう。」
課長は暫く考えていたが、言った。
「まずは努力だね。朝早く来て、夜は遅くまで仕事をする。」
「なるほど。……とすると、長時間働くことが、「やる気がある」ことの証明であるということでしょうか。」
「うーん。正直に言うと、成果を出してるやつなら、いくら短時間で仕事を切り上げようが、直行直帰だろうが、会社を休もうが、気にならない。が……。」
「ですが?」
「成果を出していないのに、ラクをすることばかり考えているやつは、やはり許せんな。だが、前言を撤回するようで申し訳ないが、単に長時間ダラダラ会社にいるだけで「やる気がある」とは言えないとは思う。」
「なるほど。長時間会社にいるだけではダメ、と。」
「もちろんだ。」
「では、改めて問いますが、「やる気を見せる」というのは、具体的にどのような行動を指すのでしょう」
課長は考え込んでいる。
「言われると難しいな。オレが部下にやる気を感じる瞬間……。」
「先ほどの8時にくる、とか本を読む、とかそういったことでしょうか。」
「そうなんだが……まあ、細かいことはいくらでもあるが、そういった行動の積み重ねで判断しているんだろうな。私は。」
コンサルタントは言った。
「先ほどの部下の方は、「課長が何にやる気を感じるか」を、あまり理解していないように感じましたが?」
課長は黙っていたが、口を開いた。
「……なるほど。」
「課長も「やる気の証明は難しい」と仰っていたので、逐一説明しないといけないとダメだと思います。」
「やる気を見せろ、ではダメだということかね。」
「今の話からはそう聞こえました。」
「……。」
「もう1つ、大変恐縮ではございますが……。お聞きして良いですか?」
「なんだ。」
「彼は何故、成果が出せないのか、具体的に教えていただけないでしょうか?」
「やる気が無いからだろう。」
「課長、それは「具体的」ではありません。」
課長は上を向いた。
「……確かに。んー、具体的にあげれば、行動量と知識の不足、トーク技術の未熟さが大きいかな。」
「なるほど。行動量を増やすにはどうしたら良いか、彼はご存知ですかね。」
「どうだろうな、わかってないかもしれないな。」
「それでは、知識、というとどのように知識を増やしたら良いか、彼はわかっていますかね。」
「多分知らないだろう。」
課長はため息をついた。
「……君が私に言いたいことはわかる。私の指導不足だということかね。」
コンサルタントは課長をまっすぐ見ていった。
「そうは言いません。実際、指導はやっておられます。しかし……」
「しかし?」
「彼の成果が出ない理由を既に課長はご存知ですので、「やる気を見せろ」とだけ言うよりは、幾分マシになる可能性が高いかと。」
課長は笑った。
「君は癪に障る人間だな。わかった。指導の方法はあらためよう。」
コンサルタントも、にっこり笑った。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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