知人の会社で、毎月決められた冊数の本を読むことが、奨励されていた。
評価にも反映される、ということで取り組みを始めたとのこと。
だが、取り組みをはじめて半年で、それが確実に遂行できている人数は全体の1/3になってしまった。
「なんでこんな簡単なことができないんだろうな」
と知人は言う。
「大した冊数でもないのに、別に仕事が忙しいわけでもないのに」
私は聞いた。
「課題が難しすぎるのでは?」
「そんなことはないと思う。指定した本はそれほど難しいものではないし、どうしても厳しければ自分のレベルに合ったものを選んでいい、ということになってる。」
「ふーん。」
「結局、やる人は何も言わずともやるし、やらない人は何かと理由をつけてやらない。お手上げだよ。」
彼は私の方に向き直って言った。
「と、いうわけで、なんで本を読まないのか、彼らに聞いてほしいんだけど。俺が言うと、萎縮してしまうので。」
*****
いつも彼は強引である。
私は彼にセッティングにしたがい、「課題を遂行できていない」人物の一人と、面談をさせてもらった。
「本日の面談の目的はご存知ですか?」
「知ってます。読書の件ですよね。すみません、できていなくて。」
「いえいえ、で、読めていない理由はなんだと思いますか?」
彼は苦笑いをした。
「弁解のしようもないのですが、単にサボっているだけです……。ちゃんとやります。」
「特に理由はない、とおっしゃるのですか?」
「いえ、読もうとはしてるんですよ。いつもカバンに入れてます。でもどうしても読む気が起きなくて……。」
確かにカバンには本が入っている。
「どこで読もうとしているんですか?」
「通勤途中とか、寝る前とか。」
「昨日、今日は読みましたか?」
「今朝はスマートフォンでニュースを見てまして……昨日の夜は寝てしまいました。」
「なるほど。ありがとうございました。」
他にも数名、「読めていない人」と面談をしたところ、理由は殆ど同じだった。
結局、
「読む時間がない」
「やる気がわかない」
「誘惑に負けてしまう」
と、彼らは言う。
*****
次に面談をしたのは、毎日欠かさず本を読めている、という方だ。
「毎日欠かさず本を読んでいる、と聞きましたが。」
「はい、いまのところ。」
「いつ読んでいるのですか?」
「通勤と、移動時間、あとは昼休み、ちょっとした隙間の時間です。」
前の方と同じような回答だ。
「やる気がわかないときって、ありませんか?」
「もちろんありますよ、私、意志が弱くて家に帰ると絶対に読まないので、日中、忙しくて読めなかったときは、家の近くのコンビニにイートインコーナーがあるので、そこで読んで帰ります。」
なるほど、と思う。
「1日にどれくらい読むことができますか?」
「そうですね、1日5ページは目を通す、と決めてます。まあ、読み始めると面白くて一気に読んでしまうときもありますが。」
「スマートフォンを見てしまったり、ついつい家に帰って寝てしまったり、ということはないですか?」
「ありますよ。実は最初の頃、なかなか本を読む気分になれなくて苦労しました。私、そのころスマートフォンのゲームにハマってたので。」
「どうやって切り替えたのですか?」
「私、気づいたんです。」
「?」
「つまりこれって、ゲームを取るか、本を取るかの2択でしょう。」
「なるほど。」
「だから、思い切ってゲームをスマートフォンから消しました。スマートフォンにゲームが入っていると、絶対やりたくなっちゃうし。」
「そうなんですか。」
「いつも思ってたんですよ。「ゲーム」って、時間の無駄だなって。いいきっかけでした。」
その後、更に数名の「読めている人」と話をした。
彼らの共通項は、
「読む時間を意図的に作る」
「1日5ページ、など目標がある」
「スマホや睡眠などの誘惑を断ち切るための工夫をしている」
だった。
*****
努力を継続している人は、「強い意志」によってそれを継続していると考えられがちである。
だが実際には、努力を継続できるかどうかの基準は、意志力ではない。
むしろそれは、「自分が努力をできるように、行動を設計できているか」に依存する。
英会話スクールも、ダイエットも、資格取得も、何かしらの技能習得も、すべて「自分の行動の設計」ができていれば結果が出るし、そうでなければ結果を出すことはできない。
その後、冒頭の「本を読めていない」という彼と、再度面談をした。
「スマートフォンを見てしまって、本が読めない、とおっしゃってましたよね。」
「ええ、でも、あれから、少し読んでますよ。頑張ってます。」
「それは良いことですね。……ちなみに、スマートフォンで何を見ているんですか?」
「(ニュースアプリの名前)ですね。後は(SNSの名前)です。」
「消したらどうですか?あとは、通知を切るとか。」
彼はまた、苦笑いした。
「ああ、そういうことですか。」
「別に強制はしませんけど。」
「いえ、習慣を変えたいと思ってたので、今消しますよ。」
*****
私も、スマートフォンがかなり時間を食うことを発見して以来、見る頻度が多いアプリは、トップ画面に置かず、できるだけ簡単に触れられない、フォルダの奥などに置くようにし、通知も切った。
ちょっとした工夫をするだけで、大きく習慣を変えることができる。
簡単なことだ。
【「コミュニケーション」についての本を書きました。】
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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