この秋、管理職への昇進を果たした人も多いだろう。
管理職は最もデリケートな「人の心」を扱う職業であり、管理職の仕事のやり方によって、組織の力は大きく増幅されるときもあれば、逆に本来の力を全く出せないときもある。
「サピエンス全史」にある通り、人類の卓越した能力の一つは、紛れもなく「協力」だ。
人の世が始まって以来、人類は「協力」によって、外敵を打ち破り、生物界の頂点に君臨した。
その「協力」を扱う、最も重要な仕事の一つに就くことができたことは、本当に幸運なことだと思う。
しかし、管理職となって活躍できる人はそれほど多くない。
管理職の仕事は、「人に仕事をやってもらうこと」なので、プレーヤーとして優秀だった人でも、無能な管理職となってしまうことはよくある。
そして、無能な管理職は組織を崩壊に追い込む。
例えば、三越伊勢丹で、40代から50代の「管理職」のリストラが始まったとの報道があった。
(NHK News Web)
部長級での早期退職の対象年齢を従来の50歳から48歳に引き下げ、48歳から50歳では退職金の加算額を5000万円とするほか、40代後半から50代前半の課長級などでは退職金の加算額を最大で2倍に増やすなど管理職を中心に退職金を大幅に積み増す仕組みになっています。
このリストラのターゲットは40代後半から50代の管理職だ。
実は、三越伊勢丹は「社員の半数が管理職」という異常な事態だという。
「人件費に潰される」三越伊勢丹が王者陥落…社員半数が管理職の異常体質、前社長を完全否定
問題は販管費の3分の1を占める人件費だ。人件費は1200億円の見込みで、不採算店を閉鎖しているにもかかわらず、17年3月期の1180億円から1.7%増える。
人件費の抑制が大きな課題になっているのに、具体的な道筋が見えてこない。
傘下の事業会社、三越伊勢丹は社員5400人の半数近くを管理職が占めている。ともに歴史のある、三越と伊勢丹が経営統合した経緯もあって、役職が多層に重なる組織になってしまっている。
前述したNHKの報道には「バブル期に大量に採用された40代と50代を中心に早期の退職を促し、人件費の削減につなげたい考えです。」とある。
年功型の組織で管理職という地位を乱発すれば、組織が機能不全に陥るのは必然だろう。
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では「管理職」に必要な能力、成果を出す力とは何か。
テクニカルな部分では、「話し方」や「聞き方」といった話があるかもしれない。
褒めたり叱ったり、数字を見たり、交渉力や政治力にもそれなりのレベルが求められるだろう。
だが、現場を見てきて思う。
管理職の能力の中核は「人への関心」だ。
人好きでなくてもよい。
人への信頼がなくてもよい。
ただ、「人への関心」は絶対に必要な事項である。
あるIT業の人事評価面談に同席していた時のこと。
高いパフォーマンスを出した部下に対して、上司が高評価を伝えると、彼は怪訝な顔をした。
「何か不満があるのか?」
と上司が聴くと、彼は
「あっさりしてますね。」
と言った。
彼は、その後しばらくして、会社をやめた。
「急に虚しくなった」と同僚に言って。
彼はおそらく、ねぎらいの言葉が欲しかったのだ。
心理学者のミハイ・チクセントミハイ氏は「関心を持たれていること」は人にとって非常に重要な事だと、子供の例を挙げている。
子供は両親が自分に何かを期待しているということ、そしてもしその期待に添わなければ、ある特別な結果が生じるということを知らなければならない。
しかし彼らは同時に、何が起ころうとも良心の自分への関心には疑問の余地が無いことを認識していなければならない。
期待に添えないことで、失望されたり、叱られたりすることは子供にとっては必要な過程だ。
だが、失望や叱られたりするよりも、もっと重大なのは「関心を失われてしまうこと」である。
このように、上司に求められることは、「部下の一人ひとりへの関心」に尽きる。
人間への関心がある人物は、たとえ怒鳴ったり、人として未熟であっても、それなりの人望を集めることができる。
パナソニックの創業者、松下幸之助の腹心であった江口克彦氏は、松下幸之助の「人への関心」について、つぎのようなエピソードを紹介している。
ハーマン・カーンという、著名人が来日し、滞在中に松下幸之助と面会することになった。
予定日の10日ほど前のこと、松下幸之助と雑談していると、突然「ハーマン・カーンと言う人はどういう人か知っているか」と聞かれた。
「アメリカのハドソン研究所の所長で、未来学者です」と答えると、松下は、頷きながら、「そうか」と一言。
ところが翌日も「ハーマン・カーンと言う人はどういう人か知っているか」と、同じ質問をされた。
「また同じ質問?」と思いながら、全く同じ回答をすると、松下幸之助も、昨日と同様に「そうか」と言った。
そして、その翌日もまた、全く同じ質問。同じ答。
江口氏は、なぜ同じことを連日3回も聞くのか、と、ふつふつと腹がたったそうだ。
ところが松下幸之助を見送りながら、江口氏は突然「何回も同じことを聞かれているということは、他の情報をよこせ、ということではないか」と感じた。
すぐに本屋に行き、ハーマン・カーンの著作を読みレポートを作り、カセットテープにその内容を吹き込んだ。
翌日、松下幸之助がまた同じ質問をしようとした時、調べたことを必死で報告し、レポートとカセットテープを渡した。
松下幸之助氏は熱心に聞き、質問もしてくれた。
そして、その翌日。
翌朝、車を迎え、ドアを開けると、降りてきた松下が、私の前に立って、私の顔を、じっと見つめる。思わず、身体が硬直、直立不動していると、松下は、なおも私の顔を見つめながら、「きみ、なかなか、いい声、しとるなあ」と言った。
その瞬間、私は、身が震えるほど感動した。その言葉が、昨日渡したテープを聞いた、ということだけではなく、よく気が付いたな、よく調べてくれたな、内容もよかった、さらに、テープに吹き込んでくれた、ありがとう、ということなど、すべての思いを込めた一言であると直感した。
そして松下が、自分の思いを気づくまで、辛抱強く、質問を重ねてくれたんだということ感じた私は、そのとき、ああ、この人のためなら、死んでもいいとさえ思った。
(参考:「なかなか、いい声、しとるなあ」東洋経済オンライン)
この記事こそ、上司と部下の関係の本質を表現している。
江口氏は松下幸之助の「自分へ対する関心」に始終興味を持っている。
松下幸之助に興味を持ってもらえないときには動揺し、興味を示してもらえれば、心の底から感動する。
人間とは、かくも「上位者の自分への関心」に右往左往するものなのだ。
したがって、人に興味がない人は管理職になってはいけない。
「好き」でなくともよい。
「本心」である必要もない。
「研究対象」という程度でもいい。
だが「人への興味」を示さなければ、その時点で管理職たる資格はない。人に関心のない管理職は、職場に不満と絶望を振りまくだけの存在となる。
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