どの会社にも、どんなコミュニティにも一定数、「失礼な人たち」がいる。

 

「失礼」は抽象的な表現であり、相対的なものなので、当然、ある人が失礼と感じることが、他の人にはそうではないことがたくさんある。

 だが、「失礼」は確かに存在している。

 

「論語」によれば、失礼というのは、慎みと敬意がない、ということである。

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例えば、インターネットではよく見かけるが、相手に「バカ」「無能」と言ってしまうのは、失礼にあたる。

 

同じように、誰かが間違ったことをした時に、皆の目の前で「間違っている」と批判することも、失礼な行為だ。

 

 

以前、こんなことがあった。

その企業は小さなシステム開発会社で、ワンマン経営をしている社長がいた。

 

そして、その社長は思い込みの強いタイプで、会議でよく間違ったことを言った。

例えばこんな具合だ。

「ソフトの品質が悪いのは、仕事への思い入れが足りないからだ!」

 

現実的には、ソフトの品質は思い入れの問題というよりは、マネジメントの問題なのだが、社長はそう考えていなかった。

すると、普段からそういった精神論を苦々しく思っていた、若手のプロジェクト・マネジャーが言った。

「社長、精神論よりも、ちゃんとプロジェクマネジメントの手法を勉強してくださいよ。」

 

その場は凍りつき、社長は激昂した。

「そういう責任のすり替えが、良くないと私は言ってるんだ!!!!」

そのプロジェクト・マネジャーは社長の激昂ぶりに驚いたのか、「すみません」と謝ったので、その場は収まった。

 

面白いことにその後、社長はプロジェクト・マネジメントのやり方を改め、品質は向上した。

若手のプロジェクト・マネジャーの言うことに一理あるとは思ったかもしれない。

 

だが、その社長に「楯突いた」プロジェクト・マネジャーは、その後冷遇された。

社長は彼のことを、明らかに嫌っていた。

「小賢しい」

と言う表現が、彼の評価だった。

 

私はそれを見て、「失礼だと思われること」の代償を痛感した。

社長は確かに思い込みが強く、マネジメントという観点では無能だったが、彼を公然と批判することの代償は非常に大きかったのだ。

その若手のプロジェクト・マネジャーは、後に会社を去った。

 

 

残念ながら「正しいこと」をそのまま伝えると、「失礼」になることも多い。

・データがこう言っています

・論理的には、こちらが正しいです

・筋が通ってないですよね

・法律違反ですよね

しかし、こういった「正しさ」を、間違っている人にぶつけても、大抵は物別れに終わる。

しかも、敵視される。

 

「話せばわかる」という言葉は美しいが、残念ながら、人間同士は話してもわからないのである。なぜなら、人間は失礼な人の言うことは、正しくても聞きたくない、と思うからだ。

ソクラテスが殺されてしまったのは、正しさをぶつける「失礼な人だった」からである。

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では、「間違っている人たち」とどのようにコミュニケーションを取ればよいのだろう。 

話してもわからない他人と、話し合う方法はあるのだろうか。

 

 

私が在籍していたコンサルティング会社で、「上司に物申す」のが非常に上手な人がいた。

彼が徹底していたのが、「相手のプライドを傷つけないこと」である。

 

彼は意見を言う時、相手が間違っていても、必ず「◯◯さんの言うことは正しいと思います。」とつける。

「ついでに、私の言っていることも、判断してもらえないですか?」と、相手に主導権を握らせる。

 

そして何より、彼は、どんな相手にでも、たとえ嫌いな上司であっても、敬意を欠かさなかった。

どんな相手でも、その人のいうことに一理を感じ取ろうとする、その仕草が、コミュニケーションを、成立させていた。

 

マネジメントの権威のドラッカーですら、「礼儀は重要」と説く。

不作法を許してはならない。若い人は礼儀を偽善として嫌う。実質が重要だとする。雨が降っているのに「グッドモーニング」というのはおかしいという。

だが、動いているものが接触すれば摩擦が起こるのが自然の法則である。

礼儀とはこの摩擦を緩和するための潤滑油である。若い人にはこれがわからない。昔は親にぴしゃりとやられたものである。

必ずしも好きになれるとは限らない者同士が共に働くには、礼儀が必要である。大義は礼儀を不要にしない。無作法は人の神経を逆なでし、消えることのない傷を残す。逆に礼儀がすべてをよい方向に変える。

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「正しさ」は、差し出し方と伴って、始めて意味を持つ。

 

「私の言っていることは正しいから、相手を無礼に扱っても大丈夫だろう」などとは、ゆめゆめ思ってはならない。

そのことを忘れた時、「正しさ」は単なる「傲慢」に堕ちる。

 

 

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(Photo:Oscar Anton