「失敗は成功のもと」ということばがある。スタートアップにおいて成功の条件の一つは、「失敗すること」という人も多い。失敗することは大事なのだ。

しかし、会社において、これは大失敗、という話を聞くことは実は少ない。また、書籍やwebにおいても、「失敗談」が公開されているケースは少ない。

 

経験的にも、私がコンサルタントをしていた時かなりの数の会社に訪問したが、「失敗」についての話はあまり耳にしなかった。

会社によっては社長の失敗した新規事業や、人事異動など、「その話はタブー」と、腫れ物に触るように扱うケースも多く、「失敗」についてはその事実が隠蔽されていることも多い。

だから、キレイ事として「失敗は成功のもと」とはいうが、現実は乖離している。皆、失敗を認めたくはないのだ。

 

 

だから、あるwebサービスの会社に訪問し、経営者から「うちは失敗を奨励しています」と聞かされた時、私は大変不遜だとは思うが、その言葉をさほど信じてはいなかった。

 

だが、それはすぐに間違いだとわかった。この会社は実際に新しいサービスを次々と生み出し、そして潰していた。webサービスが収益を生み出すまで大きくなる可能性はそれほど高くない。だが、数多くの失敗の中で、ほんの僅かなものは収益を生み出した。

そしてなによりも皆、その失敗とチャレンジを楽しんでいた。

 

私は経営者に「なぜ皆、積極的に失敗することができるのですか?殆どの人は失敗を認めないのに」と聞いた。

「なぜだと思います?」

経営者は質問に答えず、私に意見を求めた。

「失敗しても、その責任を取らされないからでしょうか。」

「そんなことはありません。責任は取らせます。」

「そうですか、だとすると……」

私の頭には仮説らしきものすら思い浮かばなかった。

 

「では、質問を変えましょう。人が失敗を認めるのは、どんな時だと思いますか?」

私は過去の会社の仲間、顧客のメンバーなどの顔を思い浮かべならがら、「自分の限界を知った時でしょうか」と回答した。

「そうです。それに近いかもしれません。我が社では「失敗と認める基準」を、チャレンジをする前にプロジェクトの責任者に提出してもらいます。もちろん、安易に失敗を認められては困りますから、「失敗の基準」はかなりきちんと練ります。」

「成功の基準ではなく?」

「そうです。そこが最大のポイントです。どの程度の大きさの成功をするかは、こういったwebサービスには向いていません。逆に言えば、自分たちの想像よりも成長しなければ、成功とはいえない。」

なるほど、そうかもしれない。新規事業の事業計画など、あらゆる会社で当たった試しがないのである。

「失敗の基準は、「成果」もありますが、「◯◯のような施策を行う」といった、行動に関するものもあります。網羅的に行動したが、うまく行かなかった。今の自分には実現不可能だった。これは失敗を認める基準になります。

 

失敗は失敗と認める。そういう社風はこの取り決めから生み出されていた。

「しかし、頑張る人ばかりではないのでは?」と、私は疑問をぶつけてみた。

「そのような方は、失敗した、ではなく、怠けている、として扱います、きちんとやり切るまで失敗を認めさせません。」

「認めさせない、というのも変わってますね。」

「諦めが悪くなければ、成功などおぼつきませんよ」

 

失敗を認めるのは、誰にとっても難しいものだ。だが、仕組みによってはそれを補うことができる。制度やシステムとは、人の弱さを補完するものなのだろう。

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

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(2025/6/2更新)

 

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(Photo:Behrooz Nobakht)