少し前、ある会社の飲み会に参加させていただいた時の話だ。
若手の方々が盛り上がっている。会社は今、急成長中で、IoTのテクノロジーを扱っている会社だ。先日、大手企業から大量の発注があり、会社は非常に調子が良い。
「会社が伸びていると、士気がちがうな」と思う。
一方で経営者はいかにも「職人」といったふうな風貌であるが、物静かな方で、「自由にやればいいんじゃないかな」が口癖の方だ。
若手が言う。
「社長、本当に今の仕事が楽しいです。この会社に入って本当に良かったと思います」
あまり感情を外に出さない社長も、今日は嬉しそうである。
30代の中堅らしき社員が、それに同調する。「そうだよな、めちゃくちゃ楽しいよなこの仕事。ところで今度の展示会の企画だけど…」
たちまち数人で議論が始まる。皆が自発的に会社を盛り上げようとしている。
向こうのテーブルにいた若手が、こちらで議論が盛り上がっているのを見つけて、こちらに来る。社長が議論を黙って聞いているのを見て、彼が話しかけた。
「社長、みんな楽しそうですね。」
「そうだね。頑張っているね。」
「皆仕事を楽しくやってますよね、すごいと思います。僕、前の会社でも同じようなことをしていましたけど、正直全く楽しくなかったですよ。」
「そうなんだ。」
「そうです。でも、当時はよくわからなかったけど、最近わかったんです。その理由。」
「へえ、聞きたいですね。」
「いや、本当に単純なんですけど、前の会社は皆、「どうやって楽に稼ぐか」を考えていたんです。でも、この会社は「どうやって大きなことをするか」を考えている。これ、大きなちがいです。そうすると、みんな一生懸命働くんです。」
社長は頷いている。
「やっぱり、一生懸命やらないと、楽しくないですよね。私、逆だと思っていました。楽しいと一生懸命やるのかと、ちがいました。一生懸命やると、楽しいんですよね。」
社長は感心している。
「へえ、◯◯さん、面白いこと言うね。」
「なんか、昔の会社と比べると、よくわかります。」
「一緒に頑張ろうよ。」
その会話は、私の記憶に今でも鮮明に残っている。
社会心理学者のエーリッヒ・フロムは著書「愛するということ」において、「芸術を楽しみたければ、芸術の修行を積んだ人間でなければならない。」と述べた。
そのとおりだ。「仕事を楽しみたければ、一生懸命仕事をやるしかない」のだ。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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