ヒット映画「君の名は」について、漫画家が「プロから見ると面白くない」と発言し、耳目を集めているようだ。
江川達也氏 「君の名は。」に持論「プロから見ると全然面白くない」
作品を見た出演者から絶賛の声が上がる中、江川氏は「これは売れるなと思いましたけど、プロから見ると全然面白くないんですよ。作家性が薄くて、売れる要素ばっかりぶちこんでるちょっと軽い作品」と“作り手”の立場から意見を述べた。
へえ、と思った。そういう見方もあるのか、と。
もちろん好き嫌いは自由だ。
だがそれにしても「わたしから見ると全然おもしろくない」と言えばいいはずだ。なぜ彼は「プロから見ると」という発言をしたのだろうか。
思うに、彼は「プロ」と「アマチュア」を明確に区別したい、という価値観の持ち主なのではないだろうか。
その価値観では「プロ」と「アマチュア」の間には深い溝があり、「アマチュア」や「素人さん」には、審美眼はない。
そうかもしれない。確かに今まではその定義でも良かった。
しかし改めて考えてみると、現在、上の定義は今ひとつしっくりこない。実際、技術の面でもカネの面でも「プロ」と「アマチュア」の境界は限りなく曖昧になりつつあるからだ。
「生産消費者」という言葉がある。英語ではプロシューマー、定義は「自ら消費するものの生産者となった消費者」である。
ますます多くの情報がほぼ無料で何十億という人の手に渡るようになってくるにつれ、限界費用がほぼゼロとなる減少はすでに、出版、通信、娯楽の各業界に大打撃を与えている。
(中略)
プロシューマーが共同方コモンズで自らの財やサービスをシェアするとき、市場交換経済に適用されるルールブックは社会生活ではほとんど通用しなくなる。*1
*1
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Youtubeや、小説の投稿サイトだけを取ってみても、クオリティが高く、十分商用になる作品は数多くある。
最近ではwebに無料で公開された小説が発見され、漫画化、アニメ化、映画化などもされている。
知人のカメラマンは「通常のちょっとした素材に使うだけなら、もはや一眼レフではなくiPhoneで撮影した写真で十分」という。
そして、それらを作ったのはいわゆるプロではなく、生産消費者である。
生産消費者の生み出すもののレベルアップが著しい現在、もはや「アマチュアには面白いものは生み出せない」という主張は正しくないことが証明されてしまった。
————-
推定するに、冒頭の「プロから見ると面白くない」という発言は、本質的には作品批評をしたいのではなく、実はプロはアマチュアとは違う、という自負を含んだ主張である。
おそらく、この発言の主は「生産消費者」の台頭に危機意識を感じているのだろう。
その意識が「プロが見ると」という発言に変わっているのではないかと推察する。
こうした「古いイメージを持つ」プロは、どの世界でもアマチュアとの差を強調したがる。
だが、実は本質的にそれほど差異があるわけではない。
あるのは純粋に「作品が好かれるか、嫌われるか、あるいは無視されるか」だけである。
「自称プロ」ほど恥ずかしいものはない。プロフェッショナルの定義は、顧客を喜ばせるかどうかだけで良いはずだ。
冒頭のような発言を見るにつけ、一昔前の有名プロと言えど、うかうかしているとすぐに忘れ去られてしまう、恐ろしい時代となったことを痛感するのである。
ところで、このような話をすると「プロは専業だから、アマチュアよりもより高度な作品を生み出せるはずだ」という主張をされる方がいる。
だが私は「専業だから高度な仕事ができる」に若干懐疑的だ。
「副業」や「パラレルワーク」は、様々な仕事とネットワークを持つことにより、様々な知見が統合され、より優れたアイデアが出る可能性を秘めているのだ。
「専業である」こと自体が仕事のクオリティを保証するわけではない。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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