仕事でもプライベートでも、感情的になってしまうような出来事の発生は避けられない。
しかし、同じ出来事を目の前にしても、感情的になってしまう人とそうでない人がいるというのも事実である。
感情的になることは決して悪いことではなく、またそのような人を批判する意図は全くないが、私はできれば感情的にならずに日々過ごしたいと思っている。
では、どうすればいいのか。
感情的にならずに接してくれる先輩を思い浮かべながら、考えたことを書いていきたい。
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私は人事の仕事をしている。人事は現場に近い部署と比べ、経験豊富なベテランの先輩が多い。だからだろうか、感情の衝突が比較的少ない。
私自身の失言も寛容に受け止めてもらえている。そして社内からのクレームも、先輩は感情的にならずに受け止めている。
寛大な心でいられる人の理由を私なりに考えてみたところ、次の3つが関係ありそうだという結論になった。
1:経験値によるもの
1~1000の経験を積んだ人と、1~10の経験しか積んでいない人では、目の前の100のパワーを持つ出来事の受け止め方は変わってくる。当然、前者にとっては些細な出来事に映り、後者にとっては一大事である。平たく言うと、「慣れ」なのかもしれない。
2:時間の捉え方の違い
よく、年を重ねるごとに時間の経過が早く感じるようになる、と聞く。これは実感としても理解できる。
一説によると20歳にとっての1年は1/20であるのに対し、50歳にとっての1年は1/50だからというのが理由らしいが、今日1日の出来事の捉え方も同様だと考えられる。
1日の重みは絶対的には変わらなくても、生きてきた年数に応じて相対的に変わってくるということだ。
3:第三者の視点で見ている
目の前の出来事を真っ直ぐに受け止めると、つい感情的になってしまうのが人間である。逆に言うと、第三者の視点で見ることができれば、感情的にならずに済む。
何があっても冷静な人は、第三者の視点で俯瞰しているから感情的にならないのだと考えられる。
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少し話は変わるが、昔通っていた小学校を訪れたことはあるだろうか。大人になってから訪れると、随分と小さく感じる。「小学生の頃はあんなに広く大きく感じていたのに、なんだ、こんなに狭くて小さかったのか」と。
小学校自体は変化していないので、これは100%自分自身の変化によるものだ。
体が大きくなったという物理的な変化もあれば、見えている世界が広がったという心理的な変化もある。物理的な変化については説明するまでもないだろう。蟻が見る猫は大きく、象が見る猫は小さいということだ。
心理的な変化は、リアルにイメージすることができる世界が広がったことにより、相対的に1つの世界(この場合は小学校)の大きさが小さくなったということだ。
家庭と学校以外の世界を知らない小学生にとって、小学校は50の大きさに感じる。
様々なコミュニティを知り、日本全国、海外、もしかしたら宇宙までをも知った大人になると、50だった小学校は1の大きさになる。これは上記3項目の1つ目、「経験値によるもの」と同じ構造である。
そしてもう1つ、大きな理由がある。それが3つ目に挙げた、第三者の視点で見ているということだ。
小学校に通う小学生は、当事者目線で小学校を見ている。でも、大人になると自然と第三者の視点で見られるようになる。
もう随分前のことだから、過去の自分を他人のように感じ、今の自分とは切り離して捉えることができる。
それが小学校の大きさとどう関係するかというと、日本人と外国人の日本の捉え方の違いに置き換えるとわかりやすい。私もそうだが、多くの日本人は日本を実際の日本の大きさよりも大きく感じてはいないだろうか。
少なくとも日本を訪れたことがない外国人が客観的に(つまり他の国と同様に)捉えた日本の大きさよりは大きいはずだ。
それは当事者目線で日本を見ているからであり、第三者の視点を持って自分と切り離して捉えることができていないからでもある。
時折見かける“冷めた人”は、常に第三者の視点で見ている人なのだと思う。冷めた人間になりたいわけではないけれど、第三者の視点を意識することで救われる場面はあるだろう。
たとえば、仕事をつらいと感じているとき。
本人からすればものすごく重大な悩みであっても、第三者から見れば「そんなに悩むことではない」「もっと世界は広いのに」と思えるケースは多い。
意識して、第三者の視点で自分を俯瞰すると、感情をコントロールしやすいと思う。
これは当事者意識を持たないこととは違う。仕事をする上で、当事者意識を持つことは大事だと思う。
でも、仕事がつらいときは、大抵「仕事」そのものがつらいのではなく、「評価されないこと」や「上司に怒られること」「サービス残業させられること」等、仕事の周辺で発生することがつらいのであり、これは当事者意識を持つ/持たないとは関係がない。
あるいは人間関係に悩んでいるとき。
関わりを持つとうんざりするような人間も、関わらなければ“いい人”に見える。悩みの種となっている人も、大抵の場合、距離を置けば無害な人間になる。
物理的に距離を置くことが難しい場合は、せめて視点だけでも変えることができればかなり楽になるだろう。
第三者の視点で見ることが感情をコントロールする上ですごく大事だと思ったのは、 “死”でさえも、第三者の視点では悲しみから遠ざけるということに気づいたことがきっかけである。
冷たい言い方かもしれないけれど、全く知らない、関わりのない人の死を心の底から悲しんでいる人はあまりいないように思える。きっと、そういうものなのだ。
第三者の視点とは、神様の視点と言い換えることもでき、宇宙から自分という他人を見ているような感じだと思っている。
では、この第三者の視点を持つにはどうしたらいいのか。具体的な方法論を述べることはできないけれど、第三者の視点のルーツを辿ると過去の経験に行き着き、結局は過去の経験がそのままこの視点になっていくのではないかと考えている。
先程の小学校の例で「過去の自分を他人のように感じる」と書いたが、経験を積むということは、過去の出来事が増えるということであり、第三者の視点になりうるポイントを積み重ねているということである。
経験が全て第三者の視点に変換されるわけではないし、経験していないことを第三者の視点で見ることができないというわけでもないけれど、たぶん、一番簡単で、かつ多くの人が無意識におこなっているのが、過去の経験をもとにする変換なのだ。
例を挙げると、部下のミスに感情的になる上司とならない上司がいるが、後者は過去に仕事でミスをした経験があり、かつその出来事を客観的に見ることができた人である。
それがもとになって第三者の視点で部下のミスを見ることができ、感情的にならずに対処することができる。表面的には仕事ができる冷静な上司に見えるかもしれないし、「ミスなんて誰でもするよ~」と励ましてくれる楽観的な上司に見えるかもしれない。
でも、私は表面で見える優秀さや性格の問題ではなく、第三者の視点を持っているかどうかが、感情のコントロールに最も関係していると思っている。
これは、経験値を積んでいくしかない、という話ではない。ある程度の年齢の人であれば、多かれ少なかれ既にたくさん経験は積んできているはずだ。
ただ、その経験を第三者の視点に変換することができていないだけである。全てを有効活用することができたら、きっと仏のような人間になれるだろう。
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ではまた!
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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
【著書】
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