お世話になっている経営者の方と食事をしていたところ、ひょんなことから「壱番屋」つまりココイチ、の創業者である宗次徳二氏の話になった。
正直に言う。
私はココイチが大好きで、体にそれほど良い食べ物ではない、とわかっていてもついつい入ってしまう。
そして、安くはない。私がいつも注文するのはビーフカツカレー(800円)で、トッピングやらなんやらを追加すると、1000円を超えてしまうこともある。
にも関わらず、あの蠱惑的な味に引き寄せられる。
他のカレーチェーンには殆ど入らないが、ココイチは別格だ。
なお、他のカレー屋でよく行くのは有楽町の「マーブル」という店で、あまりの中毒性に、ここのカレーには絶対に私の知らないクスリが入っていると確信している。
話がそれた。
そういうココイチへの「贔屓目」があるという前提で書くのだが、ココイチは他のカレーチェーンに比べて「何か良い雰囲気」を持っていると感じていた。
カレーの味だけではなく、何か良いものがある。だから、通っている。
もちろんそれは、何か客観的事実があるわけではない。しかし、それが何なのか私は知りたかった。
だが、冒頭の経営者から、宗次徳二氏のお話を聞き、なんとなく合点がいった。
経営者:
「ココイチはフランチャイズで展開をしていたので、宗次徳二さんのところには、フランチャイジーからクレームが寄せられるらしい。大抵は「売上が伸びない」だ。」
安達:
「まあ、自分がフランチャイズのオーナーだったら、悩みますよね。」
経営者:
「その時、宗次さんは、そのオーナーに「店舗の掃除から始めてください。」と言う。」
安達:
「……売上と関係があるのですか?」
経営者:
「直接は関係ない。」
安達:
「売上の話をしているのに、掃除の話をされたら、オーナーは怒りませんかね。」
経営者:
「つまらなくて、苦痛なことを地味に続けなさい、その一歩が掃除、ということなんだろう。でも、そういうオーナーはたいてい、掃除も続けられないそうだ。人生がかかっているのにね。」
私は帰宅し、宗次徳二氏の話を調べてみた。
すると確かに、失礼ながら一種の「狂気」とも呼ぶべき徹底ぶりを知ることができた。
午前6時。名古屋・栄の広小路通りでは、毎朝ジャージー姿の男性が清掃活動と植え込みの花の管理に勤しむ。その人物がカレーチェーンCoCo壱番屋の創業者・宗次徳二氏であることは、道行く人のほとんどが知らない。
「毎朝平均して90分、台風が来ようが雪が降ろうが、微熱があろうが腰が痛かろうが、毎日やる。毎日続けないと意味がないですよ。やると決めたら100%毎日やる。それが長続きする秘訣です。こんなこと、打算や損得勘定、人から『やれ』と言われてできるものではないですよ(笑)」
(中略)
早起きして掃除をするなんて苦痛は、経営の困難に比べればたいしたものじゃない。
“意志”があれば誰でもできますが、誰にも続けられることじゃない。即効性がなく結果もなかなか出ないから続かないんです。
最初の考えをよそ見をせず貫き通せるのは1000人中1~2人。
(webGOETHE)
これを見て、「よくある精神論」だと思うだろうか?
そうは思わない。これはおそらく、本質である。
外食産業に於いて、お店の清潔さは究極的に重要である。
また、「経営」は即効性がなく、結果もなかなか出ないことを、辛抱しながら延々とやり続けないと、成功どころか、生き残ることすらおぼつかない。
毎日、店の掃除もできない人は、そもそも経営者にに向いていないのだ。
おそらくこの「愚直さ」に支えられているココイチに、私は安心感を持っていたのだろう。
■
もう一人その場に、経営者の元部下の方がいた。
今ではweb系のスタートアップに身を置いている、とのこと。
その方が、最後にこう言った。
「前の会社で、こちらの社長に「掃除は大事だ」と教えられました。」
「はい。」
「そこで、転職した後も毎日、10分から15分、ちょっと早く出社して、オフィスのゴミ捨てと、トイレの掃除をしていたんです。」
「転職した後も、自主的にですか?」
「そうです。」
「どうなりましたか?」
「やっぱり、そういう「面倒で、皆がやりたがらないこと」を率先してやると、注目されるんですよ。良い仕事が集まってきて、結果、1年程度で給料も上がり、出世できました。今は大きなプロジェクトを任されています。」
「掃除のおかげですか?」
「「掃除すりゃいい」ということではないとおもいますが、「つまらないこと」を継続できる人は、絶対的に信用されます。そのアドバンテージは、会社の中ではかなり大きいのではないかと。」
■
私は基本的に「楽しいことをすればいい」と思っている。
だが、「つまらないこと、苦痛なこと」を選択することで、信用される道もある、ということについて、再考せねば、と感じたもの事実だ。
そして、とりあえず今日の昼は、ココイチに行こうと思う。
(2025/6/16更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第4回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第4回テーマ 地方創生×教育
2025年ティネクトでは地方創生に関する話題提供を目的として、トークイベントを定期的に開催しています。
地方創生に関心のある企業や個人を対象に、実際の成功事例を深掘りし、地方創生の可能性や具体的なプロセスを語る番組。リスナーが自身の事業や取り組みに活かせるヒントを提供します。
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【ゲスト】
森山正明(もりやま まさあき)
東京都府中市出身、中央大学文学部国史学科卒業。大学生の娘と息子をもつ二児の父。大学卒業後バックパッカーとして世界各地を巡り、その後、北京・香港・シンガポールにて20年間にわたり教育事業に携わる。シンガポールでは約3,000人規模の教育コミュニティを運営。
帰国後は東京、京都を経て、現在は北海道の小規模自治体に在住。2024年7月より同自治体の教育委員会で地域プロジェクトマネージャーを務め、2025年4月からは主幹兼指導主事として教育行政のマネジメントを担当。小規模自治体ならではの特性を活かし、日本の未来教育を見据えた挑戦を続けている。
教育活動家として日本各地の地域コミュニティとも幅広く連携。写真家、動画クリエイター、ライター、ドローンパイロット、ラジオパーソナリティなど多彩な顔を持つ。X(旧Twitter)のフォロワーは約24,000人、Google Mapsローカルガイドレベル10(投稿写真の総ビュー数は7億回以上)。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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