昔、営業チームの改革を行うため、ある中小企業を訪れた時のこと。
この会社は近年、営業チームの弱体化が課題となっており、競合企業にシェアを奪われつつあった。
また、離職率も高止まりし、収まる気配がない。
「パワハラがある」との訴えも、社内でチラホラ聞かれる。
商材にはまだ一日の長があるとはいえ、このまま放置して良い問題ではない。
経営者は、焦っていた。
*
そこで経営者は、外部のコンサルタントに調査を依頼した。
営業チームの弱体化の原因は何か。
現状を打開するにはどうしたらよいかを明らかにしてほしい、と経営者は言った。
ヒアリング、調査を重ね、コンサルタントたちはいくつかの客観的な事実から、営業チームの弱体化には、いくつかの要因が考えられることを報告した。
例えば、以下のような事象である。
・営業の力量が落ちてきている
・営業ツールの質が低い
・顧客の担当割り当てが、効率的ではない
・事務仕事が多すぎる
……
経営者は、これら全てに対し、「異論はない。」と言った。
だが、経営者はコンサルタントへ言った。
「ですが正直、いま言っていただいたようなことは、前からわかっていました。」
コンサルタントは頷いた。
「至極、当たり前かもしれません。」
経営者は言った。
「しかし、私が気にしているのは、「なぜ、そういったわかりきったことが、実行されないのか」です。外部の力を借りたいのは、そこです。一体、どうしたら解決できるでしょう。」
評判の悪いマネジャー
「そうですね……その解決方法なのですが……。具体的な解決策の前に、一つお聞きして良いですか。」
「なんでしょう。」
「仮定ですが、Oさんがもし、いなくなったら、会社はどうなりますか?」
Oさんとは、営業チームのマネジャーだ。
質問に、経営者は即答した。
「困るでしょうね。」
「何故ですか」
「彼のチームが、稼ぎ頭だからです。Oさんが営業部のかなりの割合の数字を作っている。」
コンサルタントは、一息ついて、ためらいながら言った。
「そうですよね。でも、Oさんの評判が、かなり悪いこともご存知ですか。」
経営者は、黙ってしまった。
コンサルタントは続ける。
「営業部で、Oさんの話はよく出ました。新人教育をしていた時「そんなもん、やっても意味ないよ」と、自分の部下を研修から連れ出して、営業同行させたらしいですね。」
「「研修より、実践でいい題材がある」と訴えられたので、私が許しました。」
「成果を出しているチームのやり方を、営業ツールに落とし込む、というプロジェクトも、Oさんのところが何もしないので、頓挫していると聞きました。」
「ああ……そうでしたね。」
コンサルタントは、経営者に気を使いながらも、ハッキリと言った。
「社長、様々な施策が実行されない理由は、すでにご存知なのでは。」
経営者はじっと考え込んでいたが、とうとう、口を開いた。
「私が悪い、と仰るわけですか。」
「誰が悪いか、はあまり問題ではないと思いますが、やらなければならないことは、非常にはっきりしていると思います。」
「……。」
「結局、売上減少のリスクを社長が負えるかどうかだけかと。」
「……そうですね……。」
「成果出してりゃいいんだろ」というマネジャーが、組織を壊す
社長は後日、コンサルタントを再度、呼び出した。
「私は何をすればいいだろうか。」
コンサルタントは言った。
「社長、私はあらゆる会社で「成果出してりゃいいんだろ」というマネジャーが、組織を壊すのを見てきました。」
「他でも同じようなことがある?」
「ベンチャー・スタートアップ、中小企業では必ず一人はいるタイプです。彼らは成果を出すことにかけては一流ですが、組織を作ることに関しては三流以下です。」
「……」
「パワハラ、セクハラなどの温床になるケースも多い。そういった話もちらほら、聞こえました。」
社長は、じっと聞いている。
「人には、それぞれ得意分野があります。組織を強化したいなら、Oさんにはマネジャーを降りてもらうべきです。給料はそのままでもいいです。でも、組織を重視しない人に、権限を与えてはいけません。」
「……だが、Oさんは、創業以来、ずっと一緒にやってきた。なんとかならないかね。」
「もちろん、チャンスを与えるかどうかは、社長次第です。Oさんに変わるチャンスを与えるのも良いでしょう。ですが……」
「何か?」
「得意ではないことをやらせても、たいてい成果はあがりません。」
「……。」
「二兎を追った結果、Oさんの売上が大きく落ちてしまう可能性もあります。そうなってしまったら、元も子もありません。」
あらゆるマネジャーに共通の仕事は5つ
ピーター・ドラッカーは、「マネジメントは技能」であり、学ぶことができるものであると主張した。
彼は、あらゆるマネジャーに共通の仕事として、
- 目標を設定する
- 組織する
- 動機づけとコミュニケーションを図る
- 評価測定する
- 人材を開発する
の5つを挙げる。
ただ、実際には上で述べたOさんのように、①以外には何もしていないマネジャーが存在し、それによって、組織が十分に機能しなくなってしまうことは珍しくない。
成果出してりゃいいんだろ、というマネジャーを、許してはいけない。
彼は短期的には数字を作ることができるが、長期的には、組織を崩壊に導くリスクそのものである。
【お知らせ】
本記事は、株式会社リクルートマネジメントソリューションズのスポンサードによって制作されています。
「あなたの会社のマネジャーは成長できていますか?」
課題を感じるなら、
マネジャーの成長とチームのパフォーマンス改善を同時に実現する3ヵ月間のプログラム「マネスタ」へ。
【著者プロフィール】
Twitterアカウント▶安達裕哉(一緒にやりましょう!)
◯安達裕哉Facebookアカウント (安達の記事をフォローできます)
◯Books&Appsフェイスブックページ(Books&Appsの記事をフォローしたい方に)
◯ブログが本になりました。
(Photo:Sgt. Pepper57)