あることが心配で、チャレンジに尻込みをしてしまう、という若手からの相談があった。
彼はこう言った。
「期待を裏切るのが、とても怖いです。」
「どういうことでしょう?」と私は聞いた。
「上司です。私は過去に仕事で失敗し、上司を失望させてしまいました。それ以来、関係がギクシャクしています。こんなことなら、スカッと怒ってくれる上司や、私に関心のない上司の方がまだマシです。」
「気のせいでは?」
「いえ、恐らく気のせいではないと思います。」
彼はとても気落ちしているようだった。私が「チャレンジしなければ、もっと失望させてしまうのでは?」と聞くと、
彼は「上司は、私以外にも、期待通りにできなかった人に対してひどいことを言っています。目立たないほうが良いのです。」と言った。
これは上から下へのコミュニケーションだけの話ではない。
かつてある貿易会社の課長はこう語っていた。
「部下は私が間違わないことを期待しています。でも、私にだってわからないことはたくさんある。そんな時に指示をだすのはとても怖い。
「部下をがっかりさせてしまうかもしれない」「部下から憎まれてしまうのではないか」という恐怖との戦いです。」
なぜ、このようなことになるのだろうか。それは、「期待」が本質的に「依存」を含んでいるからだ。
部下がきちんとやってくれれば、部の目標を達成できる、という依存。
上司が間違いのない指示をしてくれれば、仕事がうまくいく、という依存。
期待は、語られると同時に、ある種の相手への「依存」を生み出す。依存は、裏切られれば失望に変わり、場合によっては相手への憎しみや攻撃に変化する。
例えば、「神童」と呼ばれた明晰な子が居た。彼は医者になることを嘱望されていたが、中学、高校と進学する中で「神童」ではなく普通の子であることがわかった。彼は医師への道を断念することを両親に告げたが、両親は激昂した。彼は、両親と縁を切った。
あるところに、新婚の夫婦が居た。言わなくても相手は自分のことがわかってくれると彼らは信じていたが、「部屋の片付け」「夕食の献立」など、些細な事からすれ違いに気付き、「この人は違っていた」との認識が、ついには離婚に発展した。
彼らはいずれも「期待」が「依存」を生み出し、依存が「失望」と「憎しみ」を生み出している。
「そんなことはない、期待を裏切られたからといって、その人への愛情は変わらない」と言い切れる人はどれだけいるだろうか。
少なくともマネジメントする立場であれば、期待をかけるときには相手に依存しないよう気をつけなければならない。「期待はずれ」が憎しみを伴わないように注意しなければならない。
そして逆に「期待されているから頑張る」のは、人間関係にとってとても危険だ。所詮「期待」は相手のエゴである。
期待は「一生懸命やった時のおまけ」くらいに思っておくのが良い。
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