知人に、某国立大を出た後、一部上場の大手ハウスメーカーに就職し、そのまま20年近く経理部で働き続けている方がいる。

彼を一言で表すとすれば「仕事できるのに出世欲と無縁」だ。

 

まず、彼は仕事はできる。しかも生産性は高い。与えられた自分の仕事はきっちり計画を立てて行う。

彼にとって納期は「守る、守らない」ではない。守るのが当たり前。更に早く、どうやって楽に進めるかを考える対象である。

 

また、彼は会社が推奨する資格や、英語の習得にも熱心であり、向学心もある。勤務態度もよく、遅刻・欠勤は断じて許されないと思っている。

 

例えば、こんなことがあった。彼はスキーが趣味なのだが、白馬にスキーに言った時、帰りにクルマが故障した。このままでは翌日の出勤に差し支える。

そこで彼は、レッカー車を手配し、長野県から奈良まで、30万円を自腹でレッカー費用にあて、翌日にきちんと会社に行った。

 

したがって、会社の評価は悪くない。どんなに悪くても普通の評価はとることができる。

 

 

しかし、である。

彼は全く出世に興味がない。目の前の仕事をとにかくきっちり片付けるが

「他人と競争する」

「ガツガツ成績上位を狙いに行く」

といったことは一切やらない。とにかく彼は、勝ち負けに拘らないのだ。もちろん、上司からどう評価されているのかも、殆ど彼には意味がない。

会社の愚痴も言わない。仕事が辛いとも言わない。ただひたすら、生産性高く、納期を守って仕事をするのみである。

 

 

だが、読者諸兄は不思議なのではないだろうか。

「彼は一体何を考えて仕事をしているのだろうか?」

ということに。

 

答えは、ある数字が示している。

実は、彼は某大手ハウスメーカーの社員の中で、全国でいちばん、圧倒的に残業代の少ない男なのだ。

つまり「残業を絶対にしない」のである。

彼は言う。

「残業代を月に5万、10万稼ぐくらいなら、絶対に残業せずに帰る。そんなことより余暇のアメフト、山登り、スキーのほうが遥かに大切だ。」

 

彼が効率よく仕事をするのも、納期を絶対守るのも、勤怠を完璧にするのも、すべて「アフター5を充実させたい。」というただ一点によるものである。

有給はできる限りとり、仕事を任されれば必ずやるけど、それ以上は絶対にしない。

 

また、彼は自分を殺して、我を出さない術を知っている。効率的なやり方を知っていても、それを敢えて指摘するようなことはしない。

というのも、彼が若かりし頃、効率を高めようとして非効率な部分を改めようとしたことがあったが、上司から「仕事を簡単にするな。」と言われたからだ。

「エクセルとアクセスとを連携し、マクロを組んで10倍、場合によっては100倍効率よく仕事を進めようとしたら、上司からめちゃめちゃ怒られた」

と彼はいう。

彼はそれ以来「仕事は淡々とやろう」と決意した。上司や同僚との摩擦は非効率であるからだ。

 

 

大手企業なので、彼は3年に一度程度、異動がある。そして、そんな彼を快く思わない上司に当たる時もある。

現在の上司は、ちゃんと休め、というタイプだが、昔に当たった体育会系の上司はすごい苦手だったという。

「まず休めない。休むことが罪で、帰れない雰囲気を上司が出してくる上、ロジックが通用しないので、最低の上司だった」と彼はいう。

 

そんな時であっても、彼は上司がなんと言おうと残業はしない。

彼は「いうことを素直に聞いているようで、聞いてない」のだ。

 

群れず、染まらず、淡々と仕事を効率よくこなす。会社は特に愛していないが、20年働いているので、嫌いではない。だが、もはや会社への愛着はどうでもよい話となっている。

年収700万程度あり、福利厚生も良いので、生活に困ることもない。

「経理はガツガツしなくていいので、すごく自分に合っている。」

と彼はいう。

「体育会出身だったんで、営業になるかと思ったんだけど、経理になった。良かったと思う」

と彼は言った。

 

彼は会社をやめるつもりはさらさらなさそうだ。退職金もこのまま勤め上げれば数千万円もらえる。

共通の知人は

「あいつ、会社を使い倒しているよ。」

と言った。

 

 

さて、ここまでお読みいただき、彼についてどう思っただろうか?

 

羨ましいと思うだろうか?

そう思う人も多いだろう。彼のように大企業にはいり、生産性高く仕事をし、アフター5もきっちり楽しむ。

学生が大手企業への就職や公務員になることを志向するのは、こう言った背景があるのだろう。

 

だが、残念ながらこのように恵まれた環境は、もう殆ど残されていない。「淡々と仕事をこなす」だけで年収700万を貰えるポジションは無くなっていく。

消費者が高度なものを求める限り、サービスが専門知識を活用としたものとなる限り、「超競争社会」は免れず、上を目指さなければ、現状維持すら難しい。

 

昔の工業化社会に戻るか。それとも困難と知りつつ、先へ進むか。それとも別の解決策があるのか。

我々がどんな世界を望むかで、未来は変わる。

 

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