最も不思議な会社は、「恫喝」と「強制」をマネジメントに使う会社だ。

正直、理解に苦しむ。

 

なぜならば人は恫喝のもとで強制的に動かされると、恐ろしく非効率になるからだ。

ルイ16世の下でカメレオンのような経歴を経験を開始したタレーランは、後に革命政権とナポレオン政権で要職に就き、それから頃合いよく寝返って復古王政の下で尽力し、生涯を終えるのだが、何十年にも及ぶ政治の経験を、こう概括している。

「銃剣でできることは多々あるものの、銃剣というのははなはだ座り心地が悪い」。

たったひとりの聖職者が兵士100人分の働きをすることはよくある。それも、遥かに安く、効果的に。そのうえ、銃剣がどれほど効率的でも、誰かがそれを振るわなければならない。*1

たとえ短期的になにがしかの成果が出たとしても、恫喝したり、人に強制したりする行為は、恐ろしく手間がかかり、継続的な監視が不可欠である。

そしてそんなことばかりしていれば、本業が疎かになるのも当然だ。

 

さらに、恫喝や強制によって人を縛る行為は、必ず対象の人物の中に嫌悪と遺恨を残し、最終的には上司や会社への報復となって跳ね返ってくる。個人がSNSなどを通じて発信力を持っている現在ではなおさらである。

内部告発は恐ろしく簡単で、転職の口コミサイト、匿名掲示板には会社に対する怨嗟の声で溢れている。

 

結局のところ

社員に嫌な仕事を強制する→効率が落ちる→儲からない→ますます過重労働を強制する→ますます効率が落ちる→ますます儲からない→……

という強い正のフィードバックがかかり、会社の業績は落ちることになる。

 

だから、恫喝と強制を用いる会社は「儲かる」から最も遠い位置に会社を置いているとしか思えない。とても不思議だ。

 

 

上のような会社とは反対に、賢いマネジメントは「恫喝」や「強制」を最小限にするよう、恐ろしく注意を払う。

人間の特性を理解し、それを利用して生産性を高めようとあらゆる手を尽くしている。

 

例えばGoogleは、新人が早く会社に溶け込めるよう、新人をチームに迎える予定のマネジャーに、次の5つのチェックリストを記載したメールを送っている。

・仕事の役割と責任について話しあう

・新人に相棒をつける

・新人の社会的なネットワークづくりを手助けする

・最初の半年は月に1回、新人研修会を開く

・遠慮のない対話を促す

これらの項目には全部で1ページ半ほどの簡潔なマニュアルが付いており、マネジャーはこの通りにやるだけで、研修期間は1ヶ月短く、新人の戦力化を25%早いペースで行うことができる。*2

 

こういったシンプルな仕組みは単に「新人の研修期間を短くせよ」と恫喝するよりも遥かに効率的であるだろう。

 

昔、私の知る会社で見たことだ。

一人の「恫喝系」社長がいた。彼は経営方針を浸透させるため、毎日社員に方針を唱和することを強制した。

だが、それほどの時間を割いたにも関わらず、社員は「方針の中身を実践すること」には、全く興味を示さなかった。そしてそのたびに社長は、「なぜ方針を実践しないのだ」怒った。

 

しかし、成果は上がらなかった。困った社長は外部からコンサルタントを招き、「なぜ方針が浸透しないのか」を聴いた。

コンサルタントは言った。

「社長が怒るから、経営方針が浸透しないんですよ。社員にとって経営方針はよく言って説教のようなもの、悪く言えば社長に怒られるきっかけです。好きになる訳がないし、憶えていても実践はしない。」

「どうすればいいでしょう?この方針は私がとても重要だと思っているのですが。」

「簡単です。例えばここに「顧客満足を第一に」とありますね、しかし、本当に顧客満足を第一にしてますか?」

「……というと?」

「クレームを放置したり、商品の改良を怠って、営業ばかりを重視していませんか?現場はどう思っていますか?」

「……」

「大事なのは、方針を憶えることではなく、仕事の中での実践です。社員に唱和を要求するより、製品開発の手続きや品質管理のチェックリストに方針の内容を含めてください。クレームへの対応も、迅速に問題を解決できるようフローを変更して下さい。そうすれば方針が浸透するでしょう。」

 

 

恫喝も強制も、望ましい行動を促すことはできない。必要なのは人間に対する理解であり、データであり、行動を促すための良いアイデアだ。

 

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(2024/3/26更新)

 

 

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