1967年、東京大学の社会人類学者中根千枝氏は「日本人社会は諸外国と異なり、タテ割りで、組織に対するフルコミットを要求する」という趣旨の報告をした。*1

明治以来、現在に至るまで、日本の経営管理に一貫して見られるのは、いわゆる「企業は人なり」の立場で、経営者と従業員は仕事を媒介して契約関係を結ぶというより、よく経営者の言葉にあらわれているように、経営者と従業員とは「縁あって結ばれた仲」であり、それは夫婦関係にも匹敵できる人と人との結びつきと解されている。(中略)

したがって日本の企業の社会集団としての特色は、それ自体が「家族的」であることと、従業員の私生活に及ぶという二点にある。(中略)

私生活にまで及ぶということは、従業員の考え方・思想・行動を規制してくるものであり、「家」における家族成員のあり方と軌を一にしてくるのである。

 

また、クラシカルな某広告代理店では先輩が後輩を服従させるための一種の「儀式」があると言う。

知人の話では、

「入社すると先輩から1万円を渡されて、コンビニに買い物に行かされる。しかし「何を買ってくればよいか」は聞かされない。だが「わかってるな」と言われ、それを聞くことは許されない。」

「困るじゃない。」

「そう。困る。「先輩がほしいものが何か、想像して買ってこい」と要求されるわけだ。でも実はこの儀式、「先輩が後輩を怒る」目的でやっているから、何を買っていっても結局怒られる。」

「……」

「そういったことが繰り返されると、次第に後輩は「先輩」には絶対服従、と思わされるようになる。」

事の真偽はともかくとして、このような話が語られてしまう「会社の風土」はおそらく存在しているのだろう。

 

しかし最近、学生たちと話すと、上のようなフルコミットを要求する会社を忌避し、驚くほどドライな感覚を持っている人が増えているように感じる。

最近出会ったある学生は「勤務時間外は、会社の人と他人でいたい」と語っていた。

たとえば、

・飲み会や社員旅行は迷惑

・他の人の仕事を手伝うことはない

・成果には責任を持つが、それはあらかじめ合意された範囲の中で行う

といった具合だ。

彼らは会社のなかでサービス残業や連帯責任など「滅私奉公」を要求される行為を極端に嫌い、「会社も数あるコミュニティの一つ」程度にしか捉えていない。

 

このように、仕事を契約をベースとしたい若手と、組織の人間関係をベースにしたいベテランとでは、仕事を遂行する原理が異なるが、この変化は、ときに年配者や、中堅社員に大きなストレスをもたらす。

たとえば、先日お会いした、ある大手サービス業の部長職の方は、「若手を飲み会に誘うと「残業代はでますか?」と言われる。どこまでやる気があるのか……」と嘆いていた。

 

だが「家族主義」も近年ではほころびを見せ始めている。

例えば、東芝の不適切な会計に見るように、身内をかばい合う体制は時として大きなマイナスを引き起こす。

また「家族主義」は、労働者の流動性を阻害し、組織への全面的な依存を要求するが、最近では企業はリストラを行い、年功制も廃止されつつある。

したがって、古い慣行の中で育って来た年配の方は、「結局仕事は人間関係だよ」と言い、かれにはそう言った成功体験もあるが、若手の中の相当数が「それには見返りがない」と感じている。

 

 

ただ、家族主義を捨てることと引き換えに、若手たちは「自分自身で互助ネットワークを築く」必要性も出てきている。

能力の高い個人はSNSや各種の手段を通じて、社内外に強固なネットワークを築くが、能力の低い個人は、自分でネットワークを築くこともできず、また会社からも守ってもらえない、孤立した人となる。

つまり、今の社会は能力による格差が拡大しやすい。

そう考えると「クラシカルな会社の共同体に縛られて生きる」ことも、1つのリスクヘッジとしては有効なのだ。

 

未だに、有名企業の社員や公務員が飲酒運転などをして逮捕されると、「◯◯の社員、飲酒運転、逮捕」と言った形で報道される。

「家族の不始末である」という捉え方だ。

もちろん個人の不始末は組織の責任ではないが、そのような報道が完全になくなった世界は、さぞかし個人別の、厳しい競争社会なのだろうな、と思う。

 

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(2026/6/2更新)

 

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