近年、企業は「有能な人だけ、できるだけ少なく」雇いたいと考えている。実際、大きな事業をするのにそれほど多くの人は必要ない。
例えば、現在の世界の時価総額Top3企業はApple、Google、マイクロソフトだが、Appleの従業員数は8万5千人、Googleは5万3千人、マイクロソフトは9万9千人で、合わせても20万人と少ししかいない。
もちろんこれだけをもって「多くの人は必要ない」と断定をするのは早計であるが、企業経営の傾向としては「できるだけ少数の有能な人々で仕組みを作り、それを回して事業をする」方向性は、当分変わらないだろう。
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スタートアップ企業を訪問して回ると、多くの経営者は決まって、「正社員はあまり要らない」と言う。
旧来の企業が人の手でやっていたことを出来るだけシステム化し、どうしても人の手が必要な部分は外注やフリーランスに委託する。
そして、戦略、システム構築、デザインといったクリエイティブな部分だけを有能で成果を出せる人間で固める。それが、現代の経営だ。
もはや日本の大規模製造業に代表されるような「皆正社員でものづくり」といった形の雇用の吸収には期待できない。
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奇しくもこれらの現象はピーター・ドラッカーが2003年に世にだした著書「ネクスト・ソサエティ」の中で正確に予言されている。
近代企業は1870年ごろに生まれたが、そのパラダイムは以下の5つだった。
1.起業が主人、社員が従者。
2.社員はフルタイムで働き、そこから得る所得が生計の資のすべて
3.事業は、必要とされるあらゆる活動を一つの経営陣の傘下に収める
4.市場では供給側、特にメーカーが主導権を持つ。
5.あらゆる技術がそれぞれの産業に属し、あらゆる産業が固有の技術を持つ。
ところが、1970年ごろに、全てが変わった。
1.知識が主たる生産手段となった。「知識労働者」は企業と同格になった。
2.多くの人がパートタイム労働者、臨時社員、契約社員、顧問として働くようになった。フルタイムであってもアウトソーシング先の社員になった。
3.コミュニケーションコストが下がった影響で、自社で賄う活動が劇的に少なくなった。つまりアウトソーシングが活発になった。
4.インターネットが、主導権を顧客に渡した
5.いかなる産業にも独自の技術がない。必要な知識が馴染みのない異質の技術から生まれる。
本質は、モノが余り、消費者が賢くなった影響で、賢い企業しか生き残れなくなったということに尽きる。
だから、企業はますます知識を持ち、使いこなせる有能な人間を優遇し、知識を持たない、成果を出せない労働者を安く使おうとする。これは大きな流れであり、対応出来ない人は「敗者」となる。
特に日本は製造業の就業人口が突出して先進国の中では多く、対応に苦労するだろう、とドラッカーは述べている。
こう言った状況を見ると、就職に苦労するのは当たり前と言っても良い。安定した高給の雇用がないのは、産業構造が変化し、日本社会がそれに十分対応できていない、とも言える。
「雇用は不安定」を前提とし、それに対応する働き方ができるかどうかが、今後の労働者には求められる。
そういった世界で生き抜くのに必要なのは、3つ。新しいことを学ぶ能力、成果を出す能力、変化を起こす能力である。
だが、それには代償もある。
誰もが自分自身の能力を高め、成果を出すために競争せざるを得ない。かつてないほどの苛烈な競争社会となる。
そして、正解が誰にもわからない以上、国も企業もあなたを守れない。その場その場でうまく対応していくしかない。もはや、誰にも余裕はない。
だが、勝者がいれば敗者は必ず存在する。社会的に敗者となれば、生活が困窮することだけではなく、「自分が社会の役に立てていない」という疎外感を味わうことになる。
そう行った人々に対しては、生活の資を補助するだけではなく、「社会参画」の機会を与えなければ、必ず社会不安が増大する。我々は新たな制度設計をしなければならない時代に生きている。
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(Photo:Neil Kremer)