最近、「働き方改革」というキーワードが流行っている。

ただ、「働き方改革」の中身は、人によってかなり解釈が異なり、一種のバズワード、と言って良いかもしれない。

 

もちろんこれは、政府が主導で「働き方」についての議論をしているからだ。

首相官邸ではその議事録を公開している。

首相官邸 働き方改革実現会議

 

中を見ると女性の活用やテレワーク、障がい者の雇用など、一見、様々なテーマがあるように見えるが、結局のところ、この二つに話題は収斂する。

1.同一労働同一賃金

2.長時間労働の抑制

 

例えば、同一労働同一賃金をすれば、中流が復活する、女性が活躍する、非正規雇用が減る。

また、長時間労働の抑制をすれば、少子化が解消する、健康になれる。消費が増える。

 

そんな話をしているのが「働き方改革」の中身である。

だが、これをみて、多くの「できる」ビジネスパーソンは違和感を抱くに違いない。

議事録を見ていると、「この人達、会社で働いたことあるのだろうか?」と思ってしまう。いや、逆に知っていて無視を決め込んでいるとしたら、さらにたちが悪い。

 

あまり声高に言う人は少ないが、はっきり言えば、企業にとって「働き方」はさほど重要な事柄ではない。

繰り返す。

企業にとって「働き方」は2次的な話であり、優先度の低い話題である。

 

知人の経営者は

「働き方改革って、話題ばかり先行しているけど、結局企業の足を引っ張っているだけだよね」

という。

ある戦略コンサルティング会社のマネジャーは

「働き方改革をする前に、労働者の意識改革のほうが先じゃないかな。」

という。

総合商社に勤める知人は、

「政府が働き方に口を出すとろくなことにならない。一律にやろうとするからね。」

という。

 

では何が重要なのか。

もちろん、企業にとって最も重要な話題は「消費者」や「取引先」が、自社のサービスや商品を買ってくれるかどうかである。

どうやったら、Googleに勝てるか。どうやったらAmazonに勝てるか。

Uberに勝てるか、トリップアドバイザーに勝てるか、Appleに勝てるか、

それが、企業の重要な課題である。

 

グローバル経済に取り込まれていく中で、どうイノベーションとマーケティングを行い、顧客と取引先に喜ばれるか。

それが企業にとってもっとも重要なことである。

でなければ、鎖国して自国の中で経済を回すしか選択肢はない。

だが、日本にとって鎖国を選択する、というのは今の生活水準を大きく落とす、という選択肢に他ならない。現実的にはそんな政策は支持されないだろう。

 

だから、「働き方改革」に対して、なぜ多くの企業人たちが白けているのか、理由は明白だ。

結局のところ「消費者」「取引先」が買ってくれるサービス、製品を作れるのであれば、どんな働き方であろうと問題はないからだ。

 

1日に1分だけ働けば成果が出るやり方があれば、企業は喜んでそれを推進するだろう。

ろくに会社に来なくとも、成果を上げてくれさえすれば、喜んで企業は「どこにいてもいいよ」というだろう。

 

ここを履き違えて、

「同一労働同一賃金」

「長時間労働の抑制」

といっても、「成果を追求する働き手」にとっては、片腹痛いという他はない。

 

その証拠に、「同一労働同一賃金」「長時間労働の抑制」などと言っている企業は、すでに多くの顧客を抱えて裕福な企業がほとんどである。

余裕があるから、「働き方改革」というバズワードを広報の一環として採用することができるのだ。

逆に、貧しい企業は

「働き方の前に、国が企業活動の邪魔をしないでくれ」

というだろう。

 

「働き方改革」は現在のところ、「公務員」「裕福な大企業」「収益性の高い金持ち企業」の道楽である。

 

********

 

あるIT業の経営者は

「「働き方改革」って言っている会社と取引している会社は、今厳しいよ。」

と言った。

「何故ですか?」

と聴くと、彼は

「しわ寄せが、下請けや取引先、協力会社に行くからさ。実際、社員の残業を減らすために、取引先に無理な要求をしている会社が最近多いんだよ。」

と言った。

 

すでにお金と人材を有している、その企業が「長時間労働の抑制をしよう」ということ。

実はそれは、格差を拡大しているのである。

 

また、「長時間労働の抑制」をすれば、良い人材が集まる、という人もいるが、だが、私の知る実態は逆だ。

良い人材ほど、「メチャメチャ働きたい」と言う。

彼らにとっての問題は、労働時間の長さではない。裁量権である。自由にやらせろ、そしたら好きなだけ働けるし、成果も出してやる。

そう彼らは言う。

 

したがって、政権の言う「働き方改革」は、的外れである。

大衆に迎合しても、「働き方改革」は実を結ばないし、それを主導すべき人々にはメッセージが届かない。

 

本当に議論してほしいのは、

「重要なのは、従業員がどのような働き方をしたら、最も成果をあげることができるのか?」

の他にはない。

その観点がほとんどすっぽり抜けているから、茶番に見えるのだ。

だから、「働き方改革」の議論は、「働き方をかえたら、本当に企業の業績が上がるのか?」について、データを元に厳密に検証しなければならない。

 

最近、長時間労働を罰するために、労基署が盛んに活動しているという。

だが、「働き方改革」の名のもとに、企業を規制するだけの世の中は、どうも居心地が悪い。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

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