大学探訪記池の水を汲めば、その池に住む生物がわかる。そんな魔法のような話、あるんでしょうか?

それがあるんです。そんな研究をしているのが、兵庫県立大学大学院 シミュレーション学研究科研究員 生命科学博士の松橋彩衣子さんです。

 

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近年、水辺の環境は人為的影響を受けやすいために、陸上よりも生態系の変化が大きいことがわかっています。

しかし、水の中の様子を調べるのは大変な苦労を伴い、調査を進めるのは大きなお金と時間がかかります。たったひとつの生物種の存在を確認するだけでも一苦労なのです。

 

ところが最近になり、画期的な技術が生み出されました。「環境DNA」という技術です。

簡単にいえば、水の中に住んでいる生物種を知りたいときに「水を少し汲んで、その中に含まれているDNAを調べることで、どんな生物種が存在しているかを判定する」技術です。

 

原理は非常にシンプルです。池の水にはそこに暮らす生き物の糞や体表面の細胞、粘液などが含まれていますから、水をフィルターで濾過し、残渣にどんなDNAが含まれているかを調べればよいのです。

ほんの少しのDNAさえあれば、それを大量に増幅して検出できるようにする「PCR法」の発達により、現在はかなりの精度でそこに住む生物種の確認ができるようになりました。

 

松橋さんは現在、動物においては概ね有効と認められている環境DNAの技術が植物に対しても有効かどうかを調べています。

 

 

松橋さんはもともと神戸大学でアブラナ科の植物の生態について研究をしていました。植物の繁殖戦略について興味があり、「気温条件によっておしべの数が増減する現象」を発見し、当時の指導教官を驚かせたそうです。

 

その後東北大や広島大などで研究を行っていましたが、広島においてある島の植生の分布を調べていた時に偶然、動物の環境DNA技術に出会いました。

松橋さんはこれを見て、「動物でできるのであれば、植物はどうなのだろう」と思い、現在の研究に至ります。

 

この研究のどんなところが魅力的なのですか?とお聞きすると、松橋さんは

「実は、過去に分布が報告されている池において、実際に野外調査に行っても私は全然目的の種を見つけることができなかったんです。

ダメ元で水を汲んで、DNAを調べてみたら、なんと目的の植物が見つかったんです。とてもびっくりしました。

水生植物の分布を調べるためには、十分な専門知識や経験が必要です。でも、この技術によって、水草研究を始めたばかりの私でも目的の植物の分布 状況 を調べることができた、これは結構すごいことではないかと思います。自分でも当時は信じられませんでした。」

といいます。

 

見えないものを技術で見えるようにする。

松橋さんは今後、分布縮小中の在来種や、外来種の分布調査への有用性を検討されているそうです。様々な応用も出来る技術として、非常に将来が楽しみな研究でした。

 

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<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

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