知識労働者によるスタートアップの、給与・昇給に対する特徴的な考え方に触れることが最近多くなった。中途、新卒問わずある種のコンセプトが存在しており、なかなかに興味深い。
色々な考え方があるが「共通項」として、そう言った会社によく見受けられるのは以下の事象だ。
1.定期昇給しない。
漫然と働いているだけでは、給与はびた一文上がらない。成果を出すためにより大きな責任を引き受けることだけが、給与を上げる手段である。
これは、昇進、昇格だけではなく「より大きなプロジェクトを引き受ける」「より影響力の大きな仕事をする」なども含まれる。したがって毎年給与は交渉によって上がる。定昇はない。
ただし派遣社員には定昇が有る。「定型業務をやるなら、派遣で十分」と彼らは言う。派遣にはそれなりに手厚く、結構な額の定昇を行う会社もある。「派遣でいてくれているのなら、大きく昇給をさせよう。彼らを惹きつけるため。」と言う。
2.給与を高めにして、人を集める。
新卒・中途とも最初に提示する額を同業他社よりも最低10%〜30%程度高くする。逆にそのくらいは高くしないと有能な人が集まらない。
また、入ってくる人々も「とりあえず良い給与をもらっておき、その後給与が上がらなかったら転職しよう」と考えている。また新卒については最初の3年間は昇給させる会社が多い。あとは自分次第。
3.差が大きくつくことを前提とした給与制度である。
新卒であっても3年目で3倍、4倍と大きな差がつくこともある。日本の一般的な企業と異なり、給与の値のの分散が大きいため、平均値にはあまり意味がない。
「有能な人は、普通の人の100倍、有能である」ということが普通に存在する。また、競争に敗れ辞める人もそれなりに居るが、流動性がある程度ないと膿が滞留する、という考え方のため、問題となるケースは少ない。
4.副業歓迎
副業はスキルと人脈の観点から、歓迎される。むしろ副業がないと「お前大丈夫?」という扱いをする会社もある。彼らは秘密を守るよりも、やっていることをオープンにして、そこに意見を集めることで進化する。
彼らにとっては、社外コミュニティは貴重な知見を得る場であり、またお金を稼ぐ手段でもある。
5.能力、スキルは評価の対象とならない。
能力やスキルは大切であると思ってはいるが、評価の対象ではない。能力やスキルは「プロとして当然持っているもの」であり、会社が面倒を見るような性質のものではないと思っている。
「仕事と環境、人は提供する。能力は自分で何とかせよ」が基本的な考え方。
6.同質性が低ければ低いほどよい、と思っている。
社風がコロコロ変わり、一人ひとりの影響力が大きいので、間違っても「社風にあうかどうか」で人を採用したりしない。むしろ「今の社風を変えてくれそうな人」を探す。今いる社員と合うかどうかではなく、「他者に寛容な人」を採用することが重要であると考える。
7.管理しない。フィードバックする。
例えば、アポイントがあるときはマナーとして時間を守るべきだと考えるが、定時に来ることは重要ではない。成果を上げることが重要なのである。また、仕事のやり方に細かく口をだすことはしない。アドバイスを求められれば応じるが、人にはその人のなりのやり方があるという考え方に立脚する。
だが、社員を放置するわけではない。成果や行動に対してのフィードバックは行い、その情報を元に行動を自分で律するように求める。
8.成果を出すことと、きっちり失敗することは等価である
成果を出すことは重要であるが、失敗もそれと同じくらい重要である。彼らは「失敗」をどのように取り扱うかで、人材のやる気が大きく左右されることを熟知している。
また、「短期的成果」と「長期的成果」のバランスを図ることがもっとも重要であると考える経営者が信頼を集める。
9.出戻り歓迎
「我が社」と「他社」は異なるが、その間で動く人々の流動性は高い。出戻りはもはや普通であり、「出向」のような感覚で捉えている会社もある。貴重な人材は、いつでも歓迎される。
(2025/7/14更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
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自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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