男の子も、女の子も、子供たちは恐竜が大好きです。でも「大人になっても恐竜が好き」という人は少ないかもしれません。でも中には「大人になっても恐竜のことがやりたくて、そのまま研究者になっちゃいました」という初志貫徹の人もいます。
名古屋大学博物館の藤原慎一先生です。
子供の頃から、恐竜が好きだったという藤原先生ですが、どんな研究をしているのでしょうか。
−恐竜の復元に関しての研究をしていらっしゃるとお聞きしました。具体的にはどのような研究なのでしょう?
そうですね、まずはこの絵を見て下さい。「トリケラトプス」という恐竜ですが、上の絵と下の絵、どちらが本当のトリケラトプスの姿だったと思いますか?(前足に注目)
(画像:https://sites.google.com/site/sifujiwaraceratopism/restorations)
−……どちらもありえそうな気がします。
そうでしょう、でも骨格から推定すると、実は上の姿以外にはあり得ないのです。
−(!)なぜそう言えるのでしょう?
それが私の研究です。骨の形から、生きていた時の姿を正確に復元することをしています。
−具体的に、どのように生きていた時の姿を復元するのですか?
大前提として、骨だけを見ていても全くわかりません。骨からある程度筋肉のつき方を想像することは出来ますが、あくまでそれは仮説に過ぎないからです。
基本姿勢はどうだったか?足はどの程度曲がっていたか?肩甲骨の位置はどのあたりか?これらは骨だけを見ていても推定が非常に難しいのです。
(復元画:藤原&河部,2012)
したがって、「今生きている動物」から攻める必要があります。つまり、今生きている動物の骨を見て復元作業を行う。そして現実と比べて、検証する。
それがうまく行けば、恐竜でも同じことができるはずです。
(復元画:藤原,2009;藤原&河部,2012)
−なるほど!どのようなことがわかったのでしょう?
ニホンザル、ニホンカモシカ、フタユビナマケモノなど、かなり多くの動物の前足の筋骨格系を調べたところ、関節の回転中心から、筋肉の付着位置の距離が得意な動きを決めていることがわかりました。
もっと言えば、関節と筋肉の付着位置の計測をすることで、姿勢をたった3種類に分類できることがわかったのです。
・ほふく型(引き寄せて曲げる動きが得意)−ナマケモノ
・側方型(腕をねじって、押す動き)−モグラ
・下方型(脇を閉めて小さく前へならえ。一般的な哺乳類)−イヌ
(Fujiwara and Hutchinson, 2012を改編)
そして、これらを恐竜に当てはめてみました。結果、トリケラトプスは下方型であることが判明しました。つまり最初の図は、上のほうが正しい復元図、ということになります。
(復元画:藤原&河部,2012)
−面白いですね、ロボットやスポーツなどにも通じるものがありそうですね。
そうですね、私は相撲が大好きなのですが、引き付けが得意な力士と、突きが得意な力士ではやはり発達する筋肉が違います。体型だけ見れば、だいたい得意技を想像できます。その関係は非常に面白いですよ。
−なぜこの道に入られたのですか?
子供の頃「ゾイド」というおもちゃがありましたよね、あれをとても気に入っていまして……、動物の動きや形などが昔からとても好きでした。
造形がとくいだったので、大学は美術に行こうか、理系にいこうか悩みましたが、結局才能の限界を感じて、美術は諦めざるを得ませんでした。僕の道ではない、と。
大学に入って、学部時代は、ウミユリの化石の復元をしていました。
(画像:Wikipedia)
余談ですがウミユリは生活する場が恐ろしく多様で、どうやって様々な形状の場所にうまく立つのか、という疑問は結構追求のしがいがある問題なんです。
ただ、大学院に入って、どうしても恐竜がやりたいと指導教官にお願いしたら、国立科学博物館の真鍋先生を紹介してもらう事ができました。そこで、トリケラトプスの研究がしたい、とわがままを言いましてね。
−あの国立科学博物館のトリケラトプスの骨格標本は藤原先生が復元に携わっていたのですか?
(画像:Wikipedia 国立科学博物館のトリケラトプス)
そうです。先生から「トリケラトプスの前肢の姿勢がわかってないから、やってみる?」と言われましてね。ぜひと。
私は「前肢」が好きなので、いまはモグラと鳥、カニなんかにハマってます。空中、樹上、水中、地中など、前肢は色々なところへ進出する運動器官として使われている。基本構造が一緒なのに、多様性があるんです。
−藤原先生、どうもありがとうございました!研究にご興味のある方はこちらから藤原先生にお問い合わせ下さい。
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