図鑑やテレビ番組で「昔の海のようす」を復元した画像を見たことがある方は疑問に思ったことはないでしょうか。

「なぜ昔の生き物はへんなかたちをしているのか?」

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(http://www.artinaid.com/2013/04/energias-fosiles/)

確かにグロテスクであったり、今の生き物とあまりにも姿形が異なるその外形は、「現代と昔は違うのだな」と我々に思わせてくれます。

 

そんな素朴な疑問を、研究の対象としている先生がいます。新潟大学の椎野勇太先生です。

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椎野先生は古代の生物の形態を調査研究することで、その生物としての機能、環境への適応の度合い、ひいては生物の大繁栄や大量絶滅の謎を解き明かそうとしてます。

 

 

−椎野先生は昔の生物の形態を研究しているとうかがいました。

はい、私は「腕足動物」を通じて、古代生物の形態を研究しています。「機能形態学」と呼ばれる分野です。

 

 

−腕足動物、とはあまり聞いたことのない名前ですが……

あまり図鑑などには載っていないですね(笑)、これを見てください。

 

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−貝……のように見えますが、変な形ですね。

これが「腕足動物」です。貝ではありません。例えばこう考えて下さい。貝とミミズは違う生き物ですよね?貝と腕足動物もそんな関係です。貝とは血縁がなく、別物なのです。

特徴として、貝は自分で水を吸ったり吐いたりしてその中のプランクトンなどの餌を取ることができますが、腕足動物はそういうことはあまりできません。自分でほとんど動けないんです。

 

 

−動けない生き物が、どうやって餌を取るのでしょう?

腕足動物は、殻の口を少し開いて海底に横たわっています。そして自分の周りの水が動くと、殻の中に水が流れ込んでくる。その中に含まれるプランクトンなどを、殻の内側のフィルタでこしとって食べるんです。

これを見て下さい。

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この生物の化石は腕足動物の一種ですが、よく見ると殻の中に渦巻状のものがあります。ここにくっついている軟体部がフィルタになって、水の中の餌を取っているんです。

自分で動けないので恐ろしく「受け身」の生物なんです。

 

 

−動物が受け身というのも何かヘンですね(笑)

そうなんです。かれらはいかに動かずに餌を取ることができるかを追求している生活様式なのかもしれません。超ナマケモノなんですよ。(笑)とにかくやる気がない。

二枚貝のように自分で水を取り込まない、ということは、まわりの水流をいかに効率よく自分の中に取り込むかが重要なわけです。

だから、この殻の形は「合理的に自分の中に水を取り込む形」になっていてもおかしくありません。

 

 

−なるほど、たしかにそうですね。

そこで、この殻の形を一種の「構造物」と見て、周りの水がどのように動くか、水槽実験とシミュレーションをしてみることにしました。

殻をCTスキャンしたのが、この模型です。

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インクを注入した模型を水槽において水を流して水流がどのようになるかを調べました。

 

すると殻の中で水流がうまくフィルタの形にそって渦を巻くことがわかりました。コンピュータシミュレーションでも同じ流れが再現できました。

 

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(https://sites.google.com/site/cvyshiino/kenkyu-gaiyo/wanzudongwuyixingtainimimeraretajinengxing 一部改変

 

やはり、殻の形はうまく餌を取ることができるように最適化されている、というわけです。

 

 

−うまく怠けるためのカタチ、というわけですね……

そうです。ですが腕足動物は「古生代」という時代に大きく繁栄しましたが、現代には僅かな種類を残すのみとなっています。

当然、彼らはなぜ急にその数を減らしてしまったのか?という疑問が出ます。大変興味深い謎です。

 

これを見て下さい。

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(画像出典:『東大古生物学―化石からみる生命史』の古生物年表を一部改変  境界の赤枠は安達が挿入)

 

腕足動物の殆どは古生代の末期、P-T境界に姿を消しました。ペルム紀と三畳紀の間には、史上最大の生物絶滅があったのです。

これは、恐竜が絶滅したと言われるK-T境界よりも遥かにインパクトが大きいイベントでした。

ただ生き残った腕足動物もいました。一体絶滅した種と、生き残った種で何が違ったのか?

既に絶滅した種を調査し、生き残った種と比較して、普遍的な何かの共通点を見つけることができれば、形態を通じ適応を軸として、進化の本質を発見できるかもしれません。

これは大変に大きな可能性を秘めているテーマです。

 

 

−ところでなぜ椎野先生は「腕足動物」の研究の道に進まれたのですか?

実は、幕張メッセなどでやっていた「大恐竜博」なんかによく行っていたんです。幼少の頃から恐竜が大好きでして……。

幼稚園の頃から先生に「恐竜がやりたい」と言っていたようなんです。幼稚園の先生から「それは考古学だね」と言われて、考古学を志すようになりました。

 

ただ、中学生の時に困ったことがおきました。私は理系に進みたかったのに、考古学は文系なんです。

進路を先生に相談したら「恐竜は考古学じゃなくて、理系の古生物学だよ」と言われて、「よかった〜」とホッとしたのを覚えています。

 

そして大学へ進んだんですが、卒論は実は腕足動物ではなく、指導教官が研究していた三葉虫に関するものだったんです。

先生から「古生物に進むなら、フィールドワークができないとダメだ」と言われたので、宮城県の山を歩いて地質調査をしながら、ペルム紀の地層を発掘してました。

先生から「三葉虫が出るまで帰ってくるな」と言われましてね……。

でも、掘っても掘っても三葉虫が出てこない。本当に困りました。

 

でも、今考えれば当たり前なんです。ペルム紀末期にはほとんど三葉虫は絶滅寸前で、数が減っています。三葉虫が繁栄したのはカンブリア紀。もっと古い地層を掘らないと、三葉虫をたくさん集めることは難しいんです。

その代わり大量に出てきたのが腕足動物です。これは腕足動物の中でもペルム紀に繁栄したグループで、これに似たやつがゴロゴロ出てくるわけです。

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最初は「なんで片方の殻だけの貝が異常に出てくるんだろう」と思ってました。実はこれ、片方じゃなくて、内側に凹んだ殻がかぶさっている腕足動物で、これがそのままの形なんです。

あるとき指導教官が「この化石、なんでウラとオモテが違うの?」と素朴な疑問を投げかけまして、そこから腕足動物に興味を持ちました。

標本が少ない化石は貴重なので、手荒なことができないのですが、腕足動物は日本で発掘できて、とにかく標本が多いので、切ったり砕いたり遠慮なくできます。だから研究がしやすい、ということもあります。

 

 

−フィールドワークと、偶然の産物が今の研究なのですね。

そうです。(笑)

 

 

−椎野先生、ありがとうございました!研究にご興味のある方はこちらからコンタクトをお取り下さい。

 

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(2024/3/26更新)

 

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